アクティングサポートプロジェクト対談 プロジェクト開始編 Vol.1
科学の力で人間の表現力を鍛える
今回は知的情報空間研究室が、アクティングサポートプロジェクトを行うきっかけをくださったエグゼクティブコーチングの和気香子さんと、研究室代表松井との対談を記事にしました。
はじまりは映像による行動のフィードバックから
松井加奈絵（以下、松井）： 今日はお時間いただきましてありがとうございます。アクティングサポートプロジェクトですが、私が以前グループディスカッションの様子を動画データに収め、どのような改善点があるのかフィードバックする研究をしている、とお話したところ、和気さんが行われているアクティングコーチングにつなげられないか、とお話が進んだところから始まりましたね。
和気香子（以下、和気）：現在俳優さんに対してアクティングコーチ(※注1）を行っているのですが、たまたま、その研究のお話を聞いていた際に、演技力の向上にも使えるのでは？と思いました。演技の向上を考えた際に、歌舞伎のような型にはまることで中身が入ってくるアプローチ方法もあれば、内面を作り上げることで役の完成度を高めるアプローチがあると考えたのです。
松井：もちろん内面からのアプローチを大事にすることは忘れず、外側から映像のフィードバックを通じた外からの刺激に使えるのでは、というアイデアから始まりましたね。
和気：その時は、クライアントである役者さんが抱えている課題が「目の芝居」でした。監督から「目の芝居を鍛えたほうが良いのでは」、という指摘にどう答えたら良いのか、これは映像で自分の目の動きを見る、というアプローチのほうが効果的ではないか、という考えをお伝えしました。
もともと俳優さんは舞台であってもドラマや映画という現場であっても、映像として自分の演技を伝えていくお仕事なのだから、自分自身の練習の現場に、「どのように映るのか」という視点を入れたほうが効果的なのでは？という仮説があったのです。
松井：そのお話を聞いて、スマートフォンやGoProという映像データを撮るためのデバイスの低コスト化、クラウドといった映像データ蓄積環境の簡易化、普及状況を考えると、和気さんの仮説が成り立つのではないか、と思いました。そこで、研究テーマとして次の段階にいけないか、ということで実際に俳優さんの演技のデータを撮る実験をしてみよう、ということなりましたね。
スポーツの世界でも広がる映像データによるフィードバックを映像へ
松井：また、スポーツの現場ではIoTデバイスによるリアルタイムデータの収集と改善方法のフィードバック、映像データの機械学習による特徴抽出が既に練習に取り入れられつつある、つまりは科学的な練習方法を演技の世界でも取り入れられないか、と思うようになりました(※注2）。
もちろん、スポーツと演技は異なりますので、あくまで外部からの刺激になりますが。
和気：映像を撮るという行為が手軽になったので、映像が主体となっている現場に取り入れたらどうか、と思ったんです。技術的なタイミングを考えると何らかの解決方法を提供できるようなステージが来ているかもしれない、と。
松井：実験にあたって俳優さんとお話させていただいた後、とにかく現場はそういった「試す」行為はできないことが分かりました。プロフェッショナルの現場ではもちろんそうであるべきだとは思いますが、自分がどう見られるのか、というのを試す仮想的な場所があっても良いのではないか、というう考えが強くなっていきました。
和気：演技は他者があって成り立つものなので、内面が表層に出ていくことが出ていくことが重要、その表層が監督や作品を作る現場で見える形にするための過程が大事だと思っています。ただ、その表層は演者からは見えないので、練習の段階では映像によるフィードバックがあったら良いかと。
手探りだらけの実験へ
デジタル稽古実験準備
この対談はまだまだ続きますが、後に「デジタル稽古」と名付けられる実験を、俳優さんにご参加いただき実施することになりました。こちらの様子を知っていただいてから、対談を読んでいただくと、更に楽しんでいただけると思いますので、ひとまず対談初回はここまで。
また、対談（1時間半お話させていただきました！）はマガジン化してお届けする予定です。
注1 … アクター（俳優）の方のためのコーチング。ハリウッドで活躍する俳優ではプライベートアクティングコーチとともに役作りすることも多い。
注2 … その後、和気さんからラグビーの練習へのAI活用の事例をお伺いしました。
■ 和気香子さんプロフィール
エグゼクティブ・コーチ。著者に「人の気持ちがわかる人、わからない人~アドラー流 8つの感情整理術」、「人間関係の整理術」がある。
東京大学経済学部経営学科卒業。在学中に女優を志し、卒業後も女優業に従事。
現在は、エグゼクティブ・コーチとして、主にベンチャー企業、スタートアップ企業の経営者、前向きにキャリアに悩む方へのコーチングを中心に活動。
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