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♯1 ハハがセイケイすると言うのです。
ハハがセイケイすると言うのです。
もう40。
子としては静かに普通のおばさんをやっておいてもらいたいとこだが、ハハがセイケイすると言う。
しかも、聞くに、アンチエイジング。
——ではなく、
顔を変える。
——と、言う。
今一度言う。
ハハは40だ。
もうすぐ40になるのだ。
もう人生半ば、ほぼ半世紀、
40年もその顔でやってきたのではないか?
それを——、いく——?
ガチでいてまうとか。
『なにを今更!?』
——感がハンパない。
なにを今更綺麗になって、新たな恋でもしようというのか?
なにを今更綺麗になって、近所のスーパーの店長をほの字して裏でこっそり特売シールでも貼ってもらおうというのか?
なにを今更綺麗になって、密かにInstagramの美熟女枠でバズろうとしているのか?
ハハよ——。
『どうした今更!?』
恋がしたけりゃすればいい(お好きにどうぞ)。
値切りたければ値切ればいい(見てないことにしておく)。
バズりたいのは少々闇を感じるが……。
『なんで今更!?』
40年連れ添ったその顔も、さぞかし寝耳に水だろう。
『ほんと今更!!』
歳を……考え……て……
って、アーシの中のアーシ(滑舌問題:本人はアタシと言っているつもり)が頭を抱え掛けたが、
——違う。
違う。
そうじゃ……
そうじゃない。
歳の問題ではない。
もう歳をどーこーいう時代は終わった。
いや、厳密にいうと終わったてより、歳をどーこーいわない方が意識高く見える。てのが、今の空気。
一応これでも空気は読めるタイプだ。
なので、
一旦この件については謝罪させていただく。
「失礼。静かにおばさんやってろはさすがにない」
——て、ことで、
本題に入れせてもらおうか。
子だ。
そう、アーシ(また無意識に噛んだ)という子がいるというのにダッ!!
『なのに今更!?』
こーいうことは子を産む前に済んでいると聞いている。
で、産まれてくる我が子の顔に恐れおののくってのが自然なドラマの流れってヤツではないのか?
なのに?
なんだ?
この展開?
「親からもらったカラダに……」とかいうテッパンのくだりもついでに終わりを迎えようとしているのか?(脳内で再生される蛍の光▶)
しかも、一軍どころか二軍も三軍も降格したダァルッダルのダル着で、
寝癖満開で、
ながらで(洗濯物を畳むハハの手は止まらない)、
何気なく、
「セイケイの前にまず身なりだろ」とツッコミ待ちにしか見えないハハに——、
親からもらったカラダ云々を飛び越えて、アーシの大元をリニューアルされようとしている。
(蛍の光停止■)
とりあえず、朝っぱらからこんな話は聞きたくなかった。
こちとら学校ぞ。
なんなら受験生ぞ。
腫物ぞ。
センシティブぞ。
だのに、ハハよ——。
あんたの方がセンシティブな存在なってどうする?
センシティブは今、アーシの特権ぞ。
『マジで今更!!』
既に冷えた食パンも喉を通らん。
などと愚痴ったところで聞いてしまったもんは、もう今更。
と、言うておる間にそろそろ時間がきたようだ、
それでは、皆さま——、
「いってまいります」
ハハのご乱心は to be continued……