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父から車の鍵を取り上げた日のこと

つい先日、87歳の男性が池袋で車を暴走させ、自転車に乗っていた母娘が死亡してしまうという痛ましい事件がありました。

このニュースを聞いて思い出したのは、僕が老いた父から車の鍵を取り上げた日のことです。

父は70歳過ぎまで元気に働いていた人で、それまでは車も割と普通に運転していました。ところが70歳を過ぎたあたりから、途端に危なっかしくなってきたんですね。家族は父に車の運転をそろそろ止めるよう散々言ったのですが、どうしても言うことを聞いてくれなかったのです。別に大きな事故を起こすわけではなかったのですが、時折車をこすって帰ってくるようになりましたことに、母は大きな危機を抱きました。父はそもそもそれほど運転がうまい方ではありませんでしたが、かといって3回に1回くらいこすってくるなんてことはそれまでただの1度もなかったからです。運転技能が大幅に低下しているのは誰の目にも明らかでした。

僕はもうその頃アメリカで働いていたので、帰国するのは年に1回程度でした。そしてある日、家族に帰国の日程を伝えたところこの話を聞かされたのです。そして直後に弟から電話があり、「兄弟3人でお父さんに運転を止めるように言おう。兄貴と二人で言ったんだけどどうしても言うことを聞いてくれないんだ」と切り出されたのです。

そしてその日がやってきました。その日は朝から兄弟達で集まりました。それぞれの家の子供達もやってきて実家は大にぎわいでした。父も孫たちに囲まれてご満悦の様子です。

頃合いを見計らって「お父さん、ちょっと話があるんだけど」と切り出すと、僕ら3人が揃って真剣な表情をしているのを見て、みるみる表情が険しくなってきました。よくこんな顔をした父に叱られたので、こちらはもう40歳を過ぎているというのに、なんとなくビビります。

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