今は亡きあの人に想いを馳せながら飲むバーボンソーダは、ほろ苦い味がする
ウイスキーがお好きでしょ?
モルトウイスキーの原酒不足で、ウイスキーの販売休止や継続銘柄も価格が高騰しています。
高度経済成長期には、ハワイ土産は“ジョニ黒”が定番だった高級嗜好品のウイスキー。
その後、焼酎やワインのブームでシェアを奪われ、『ウイスキー不況』の時代に突入します。
売れないので、メーカーは減産します。
21世紀に入りスコッチの需要が持ち直し始めると、引っ張られるようにジャパニーズも再評価され需給がひっ迫するのでした。
ウイスキーはラベルに12年とか18年とか書いているくらいだから、仕込みから出荷までに長い年月を要します。
生産計画の段階で、誰にも分からない10年後、20年後の市況を想定しなければならない『予想屋』みたいなビジネスモデルです。
想定外に需要が増えたからといって、生産するにもボトリングに適した原酒がないのですぐには増産ができません。
品薄だったジャパニーズウイスキーが海外で数々の賞を受賞したことに目をつけた『転売ヤー』が市場に参戦し、“山崎”や“余市”などメーカーの看板モルトウイスキーを中心に狙われて投機の対象になってしまい、一般人は手にできなくなりました。
その状況にトドメを刺すかのように、サントリーが仕掛けた『ハイボール』のプロモーションが大当たりして、庶民向けブレンテッドウイスキーも需要がうなぎ登りしては在庫が底をつき始めます。
自分で自分の首を絞める結果になりました。
この『ウイスキーブーム』はいつまで続くのか?が分からないのに、蒸留釜や貯蔵庫にガンガン設備投資して一気に生産能力を高めるわけにもいきません。
モルトウイスキーの原酒不足を打破するために、当面とれる対策は2つ。
◆年数表示を消した、熟成年数の若いシングルモルトウイスキーを出荷する。
◆ブレンテッドウイスキーは、グレーンウイスキーの比率を上げてモルトウイスキーの消費を抑える。
モルトウイスキー不足でグレーンウイスキーの占める割合どころかスピリッツ類まで混ぜている国産ブレンテッドウイスキーを飲むくらいなら、モルトウイスキーを捨ててグレーンウイスキーの一種であるバーボンウイスキーを飲めばいいと思うのです。
WHISKEYではなくてWHISKY
原材料の穀物トウモロコシ、ライ麦、大麦、小麦の中でトウモロコシの割合が51%以上をバーボンウイスキー、ライ麦が過半数を超えるとライウイスキーと区別されます。
小ネタでも使えないこんなことを覚える必要もないのですが、バーボンウイスキーはトウモロコシでできた酒だということだけ理解してもらえれば…
でも、トウモロコシを8割以上使うとコーンウイスキーになるという…なんともややこしい話です。
バーボンウイスキーでトウモロコシの含有比率が70%、ライ麦の代わりに小麦を使っているのが今回の主役“メーカーズマーク”です。
“メーカーズマーク”は、ボトルネックをシーリングワックスで封印しているアートなバーボンです。
濡れたような光沢のある真紅の封蝋が、ラテックスのボンデージっぽくてエロくないですか?
見てるだけでゾクゾクします。
これまでに金や黒、緑などのシーリングワックスの兄弟がいましたが、現在はレギュラーのレッドトップも上級グレードの46も赤のシーリングワックスに統一されています。
明治屋が輸入代理店のころからディッピング体験ができるイベントを通して、地道にファン開拓の活動を行っていましたが…このご時世では当分はムリなのが残念です。
カウンターバーで飲んでいると、オーダーしたドリンクのボトルを目の前に置いてくれるところがあります。
ボトルがよく見えるように置いてくれるのですが、店内の薄暗い照明に照らされた“メーカーズマーク”の垂れた封蝋はムーディーです。
1杯千円もしないので、あまり飲まないバーボンでもドーパミン放出は83%。
小ネタで使える『バーボンネタ』を忘れてました(^_^;)
焼きそばや焼き飯をつくるときに、バーボンをフライパンの縁に振ると芳ばしい香りがして料理がワンランクアップします。
安いバーボンでかまわないのですが、他のウイスキーでこうはいきません。
試してみてください。
ビームハイボールではない
沖縄で主宰しているBARの常連さんに、いつも飲み歩いている同じ歳のオジサンがいました。
仮に「Cさん」ということにしておきましょう。
那覇に『神里原(かんざとばる)』という、観光客を一切寄せつけないバラック小屋のスナックが建ち並ぶ、怪しげな社交街があります。
混沌とした、GHQ統治下の戦後にタイムスリップできます。
夜のとばりが下り始めると…店先の椅子に腰かけたシミーズ姿の中高年女性がたたずむ光景は、異様のひとことです。
そして、声をかけられます。
「お兄ちゃん、遊んでいかない?」と。
おばちゃんとなにをして遊ぶのか?は想像の域を出ませんが、Cさんは呼び込みのママに招かれるまま入店し段ボールいっぱいの靴下を法外な値段で買わされて帰ってくる…変わった人でした。
それから数年が経ち、Cさんは癌で亡くなりました。
そのCさんがいつも飲んでいたのが、“メーカーズマーク”のレッドトップでした。
暑い時期に1人で外出していて夕方になると、涼を求めて開店直後のBARによく入ります。
そして、“メーカーズマーク”のソーダ割りをオーダーするのです。
渇いたのどを潤すのに、バーボンのソーダ割りは最適です。
ローラは、“ジム・ビーム”推しですが…
これはサントリーが、ジャパニーズウイスキーの原酒不足を解消する時間かせぎに1番安定供給できる“ジム・ビーム”を持ってきている『お家事情』があります。
1人“メーカーズマーク”のグラスを傾けて…Cさんのことを思い出しながら、ふと考えるのです。
生まれたときにいつかは死ぬという契約のもと、人間はこの世に出てきているわけです。
早かれ遅かれ、この世から退場すると頭では分かっていても…
若いときならまだしもオッサンになっても、親しい人が亡くなるのを目の当たりにしても我が事として捉えられません。
人生を逆算して今やるべきことをやる…なんてことをいいますが、起点の『最期の日』がいつなのか?が本人には分からないので本気になれないのです。
病院の先生に『死の宣告』でもされないかぎりは…
きっと、その日は「えっ!今?」というタイミングで突然現れます。
そのときに他人様に見られたらマズいあれとあれは、とっとと処分しておこう…
結局は捨てられずに、毎度同じことを思いながら薄暗くなった道を帰路に就くのでした。