PFAS汚染で水道水が危ない!~PFASの真実と対策をご案内します!~
みなさんはPFASについてご存知でしょうか。
最近、ニュースで取り上げられるようになりましたが、その実態はいまだ明らかにはなっておらず、対策が不十分なまま、日々危険な状況が続いています。
本記事をお読みいただくことで、PFASの真実と、国および自治体での対策の不十分さをご理解いただき、みなさまのご家庭での対策をご案内いたします。
1.PFASとは
PFAS(Per-and PolyFluoroAlkyl Substances:ピーファス)は1万種類以上あるとされる人工有機フッ素化合物の総称で、有害性が疑われているものにPFOS(Per Fluoro Octane Sulfonic Acid:ピーフォス)、PFOA(Per Fluoro Octanoic Acid:ピーフォア)、PFHxS(Per Fluoro Hexane Sulfonate:ピーエフヘキサエス)、PFNA(Per Fluoro Nonanoic Acid:ピーエフエヌエー)があります。
撥水・撥油性が高いことから衣類の防水スプレー、洗剤、化粧品、マスク、フライパン、炊飯器、包装容器・包装紙・紙ストロー、カーテン、カーペット、寝具、日用品、泡消火剤、半導体製造・冷媒・太陽光パネルなど、日常生活から工業プロセスまで永年にわたり幅広く利用されてきました。
2.PFASの危険性
PFASは煮沸消毒しても除去できず、自然環境のなかではほぼ分解されないことから「永遠の化学物質」と呼ばれ、体内に取り込まれると蓄積されやすい特徴があります。
PFASの誕生は1947年の米国3M社によるPFOAの開発に遡り、1938年に米国デュポン社が開発した『テフロン』(耐熱性、低摩擦性、絶縁性等に優れた性質を持つフッ素樹脂)の特性を高めたことと、3M社が1956年にPFOSを利用した撥水スプレー『スコッチガード』を発売したことにより、世界的に普及することになりました。
その後、さまざまな日用品や半導体製造に欠かせないものとして利用されてきましたが、その危険性が明らかにされなかったことから、PFAS製造工場や廃棄物埋立地、軍事基地においてPFASを含む廃水や泡消火剤の浄化が行われないまま川に流されたり放置されたことにより、川や海、地下水がPFASにより汚染されてきました。
これらPFASで汚染された水を水道水や飲料水、飲料品として飲用したり、PFASで汚染された土壌や井戸水、川、海で育てられた野菜や肉、魚、PFASでコーティングされた包装容器・包装紙・紙ストローを利用したファストフードや持帰り食品を摂取したり、PFASを含む化粧品やマスクを利用したり、大気中に放出されたPFASを吸い込むことなどにより体内に取り込まれた場合、発がん性リスクが高まるとともに、血管や臓器の損傷によりコレステロール値が高まり、免疫力低下や肝臓・腎臓疾患、乳がん、甲状腺ホルモン、早産・流産、発達障害などへの影響が懸念されています。
しかし、どの程度の量や濃度で、どのような影響を及ぼすかについてはいまだ明らかにはなっておらず、その対策や基準などが十分に整備されていません。
なお、1万種類以上あるPFASのうち有害性が疑われているおもなものはPFOS、PFOA、PFHxS、PFNAであり、フライパンや炊飯器などに利用されているテフロン加工は2015年までにPFOAの添加を中止し、有害性が疑われるPFASの利用を終了しています。
3.海外でのPFAS汚染
海外で被害の発生が明らかになりましたのは、米国デュポン社のPFOA廃棄物埋立地に流れる小川の下流にある牧場の牛が死んだことで、1999年に牧場主がデュポン社に提訴したことによります。
さらに、2001年に付近の住民が健康被害を訴えた集団訴訟にもとづき設置された科学委員会での7年間にわたる疫学調査の結果、PFOAは高コレステロール血症、腎臓がん、精巣がん、潰瘍性大腸炎、甲状腺疾患、妊娠高血圧症を引起こす可能性が高いことが明らかとなり、2017年にデュポン社は6億7,070万ドルの和解金を支払うこととなりました。
このあとも自治体からの水道水汚染に対する訴訟が相次ぎ、2023年に3M社は2025年末までにPFAS製造から完全撤退することと、13年間で最大125億ドル、デュポン社はケマーズ社とコルデバ社とともに11億9,000万ドルの和解金を支払うことで暫定合意しました。
これらの訴訟のなかで明らかとなりましたのは、3M社、デュポン社ともに1960年代にはPFASの毒性について認識を持ち、3M社は1981年にラットを利用した動物実験の結果から胎児の眼に先天性欠損症を引起こす可能性があることを知り、出産の可能性がある女性従業員の配置転換を行うとともに、デュポン社では7人中2人の先天性欠損症が発生していたにもかかわらず、その事実を公表しなかったことです。
その後も両社は従業員に前立腺がんや精巣がんの発生率が高いことを明らかにせず、日本のPFAS製造メーカでの対策も十分に行われないままPFAS汚染が拡大することとなりました。
4.国内でのPFAS汚染
(1) 岡山県吉備中央町
2023年10月の岡山県吉備中央町円城浄水場(町内の約1,000戸に水道水を供給)での水質検査において国が定めるPFAS濃度暫定目標値(50ng/l)の28倍ものPFASを検出したことから、水道水として供給されているエリアの有志住民27名が血液検査を受けたところ、血中PFAS濃度は最小32ng/ml、最高372ng/mlで平均186ng/mlと、環境省が実施した全国調査の平均値8.1ng/mlはもちろん、全員が米国科学・技術・医学アカデミー(NASEM)が2022年に発表した健康リスクが高まる指針値の20ng/mlを大きく上回ることとなりました。
さらに、この27名のうち20名に健康障害(脂質異常症:10名、肝機能障害:4名、腎機能障害:3名、流産:3名)が見られ、流産については30~40歳代の女性5名中3名で発生し、そのなかには3回も流産された方がいらっしゃいました。
この原因は水源のダム上流の山中に2008年から野積みされていた大量の使用済み活性炭から滲み出した高濃度のPFASが水源を汚染したためと見られています。
しかも、国が水道水におけるPFASの暫定目標値として50ng/l以下と定めた2020年からPFASの検査を開始し、円城浄水場で2020年800ng/l、2021年1200ng/l、2022年1400ng/lという暫定目標値をはるかに上回る超高濃度のPFASが検出されていたにもかかわらず、水道統計調査の報告作業をしていた岡山県備前保健所が気付き緊急対応を指示した2023年10月まで吉備中央町は高濃度のPFAS汚染について公表や対策を取らないまま放置し、深刻な健康被害が拡大することとなりました。
(2) 東京都多摩地域
東京都多摩地域は水道水における地下水(井戸水)利用率が1~2割と非常に高いなか、2003年に世田谷の砧浄水場と砧下浄水場(ともに地下水を取水)および多摩川で高濃度のPFASを検出したことを京都大学の研究チームが発表しました。これを受け、東京都は2005年から多摩地域の浄水所(井戸水)の水質検査を開始し、その結果、多摩地域の地下水に高濃度のPFASが検出され、排水調査から米軍横田基地や半導体製造工場が汚染源ではないかとの報告書が2008年に提出されたものの、東京都はなんら対策を取らず、いっさい公表しませんでした。
水道水のPFAS汚染が継続するなか、2016年に沖縄県が水道水の水源となっている米軍嘉手納基地周辺の河川でPFASが高い濃度で検出されていることを発表するとともに、2018年に米軍横田基地で過去にたびたびPFASを含む大量の泡消火剤漏出事故が発生していたことが明らかとなり、基地内での消火訓練で使用される泡消火剤に含まれるPFASによる汚染が注目されるようになりました。
これを受け、東京都は横田基地に近い井戸水の水質検査を行い、1,000ng/lを超える超高濃度のPFASを検出したことから、2019年以降、米国の基準値(当時)70ng/lを上回るPFASを検出した地下水(井戸水)から取水している以下浄水所を順次停止しました。
① 立川市 立川栄町浄水所 一部停止
② 府中市 府中武蔵台浄水所 全部停止
③ 府中市 若松給水所 一部停止
④ 調布市 上石原配水所 一部停止
⑤ 小金井市 上水南給水所 全部停止
⑥ 小平市 小川給水所 一部停止
⑦ 国分寺市 東恋ケ窪配水所 全部停止
⑧ 国分寺市 国分寺北町給水所 一部停止
⑨ 国立市 国立中給水所 一部停止
⑩ 国立市 谷保給水所 一部停止
⑪ 西東京市 保谷町給水所 一部停止
そして、2020年1月になってようやく東京都は水道局のウェブサイトで2011年以降の浄水所ごとのPFAS濃度測定結果を発表するとともに、2019年以降、米国の基準値(当時)70ng/lを参考に高濃度のPFASを検出した地下水(井戸水)から取水している多摩地域の浄水所を停止していたことを発表しました。
さらに、2021年4月になってから、2011年ではなく、2005年から多摩地域の地下水(井戸水)から取水している浄水所のPFAS濃度データを取得していたことを公表し、約15年間にわたり多摩地域の水道水がPFASにより汚染されていることを知っていたにもかかわらず、放置してきたことを明らかにしました。
現在はPFAS濃度が国が定める暫定目標値内に収まるよう、井戸水(地下水)からの取水を停止または一部停止のうえ河川からの取水と混合させPFAS濃度を薄めることで対応していますが、これまで長年にわたり体内に蓄積されたPFASによる影響が懸念されることから、地元住民ら650名が血液検査を受けました。
その結果、血中PFAS濃度の平均値は23.4ng/mlと環境省が実施した全国調査の平均値8.1ng/mlの約3倍で、650名中335名(61.5%)が米国科学・技術・医学アカデミー(NASEM)が2022年に発表した健康リスクが高まる指針値の20ng/mlを上回るなど、PFASの体内汚染が拡がっていることが明らかとなりました。
とくに、高濃度者の居住エリアは米軍横田基地の東側に連なり地下水の流れに沿ったものとなっていることから、井戸水(地下水)から取水している水道水の影響が強く疑われる状況にあります。
しかし、国も東京都も横田基地に対する監査・指導には及び腰で、長年にわたり水道水がPFASにより汚染されていることを知っていたにもかかわらず、なんら対策を取らず放置してきたことによる住民の健康被害に対する調査や補償にいっさい取組んでおらず、まさに他人事のようなスタンスが続いています。
(3) 大阪府摂津市
PFASによる環境汚染対策として各国での規制強化が進むなか、2020年6月に環境省による全国の地下水や河川171か所の調査結果が報告され、高濃度順で2位の沖縄市(1,508ng/l)、3位の沖縄県宜野湾市(1,303ng/l)、4位の沖縄県中頭郡(1,188ng/l)、5位の調布市(556ng/l)を引離し、全国1位となる国が定める暫定目標値(50ng/l)の37倍の1,856ng/lのPFASが検出されたのが摂津市です。
最新となる2024年3月に公表されたデータでは地下水から21,000ng/l、河川からは2,200ng/lという暫定目標値のなんとそれぞれ420倍、44倍もの超高濃度のPFASが検出されました。
その原因とされるのは1960年代からPFOAを製造してきたダイキン工業の淀川製作所で、長年にわたり高濃度のPFASを垂れ流し、周辺の河川や土壌、大気を汚染し続けてきました。
しかし、大阪府、摂津市は2009年より非公開の「神崎川PFOA対策連絡会議」を立上げ、河川のPFAS濃度検査を行うとともに対策を協議してきたものの、無策のまま時が流れ、周辺住民の健康被害に対する調査や補償もいっさい行わないまま10年以上、放置されてきました。
周辺住民の健康調査に消極的な態度を取るダイキン社に業を煮やし、2023年に京都大学と市民団体が中心となり、大阪府内の1,190名を対象としたこれまでに類を見ない大規模健康調査を実施しました。
その結果、血中PFAS濃度の平均値は17.7ng/mlと環境省が実施した全国調査の平均値8.1ng/mlの約2倍で、1,190名中364名(30.6%)が米国科学・技術・医学アカデミー(NASEM)が2022年に発表した健康リスクが高まる指針値の20ng/mlを上回り、PFASの体内汚染が拡がっていることが明らかとなりました。
国内でこのような不誠実な対応を取り続けるダイキン社ですが、アメリカではアラバマ州の水道公社から水道水源となるテネシー川がPFOAによって汚染されたとしてダイキン社、3M社とその子会社に対し起こされた訴訟では他社にさきがけ2018年に約400万ドルで和解し、PFOAを水道水から除去する費用などに充てられました。
まさに、日本国民の健康を軽んじるダイキン社のスタンスに憤りを覚えざるを得ません。
(4) 沖縄県
2016年に沖縄県が水道水の水源となっている米軍嘉手納基地周辺の河川でPFASが高い濃度で検出されていることを発表。その後も継続的に調査を実施し、米軍普天間基地周辺でも高濃度のPFASが検出され続け健康への影響が懸念されるなか、2022年に市民団体が中心となり、沖縄県内の387名を対象とした血液検査を実施しました。
その結果、血中PFAS濃度の平均値は21.3ng/mlと環境省が実施した全国調査の平均値8.1ng/mlの約2.6倍で、387名中209名(54.0%)が米国科学・技術・医学アカデミー(NASEM)が2022年に発表した健康リスクが高まる指針値の20ng/mlを上回り、PFASの体内汚染が拡がっていることが明らかとなりました。
汚染源とみられる米軍基地では消火訓練で使用される泡消火剤はもちろんのこと、泡消火剤漏出事故が発生していたことも明らかとなり、県は基地への立入調査を再三にわたり要請するものの、日米地位協定が足かせとなり実現には至らず、もどかしい状況が続いています。
(5) 兵庫県明石市
兵庫県の明石川では2019年度に環境省が実施した全国の環境水調査で、PFOSとPFOAの合計が145.6ng/lという高い数値が出ました。この調査結果にもとづき明石川から水道水を取水している明石市は2020年度からPFAS浄化対策を実施したものの、長年にわたる水道水汚染による健康被害が懸念されることから、市民団体は2024年7月に明石川の水を水道水に利用するエリアに10年以上居住する33人を対象とした血液検査を実施。その結果、血中PFAS濃度の平均値は22.9ng/mlと環境省が実施した全国調査の平均値8.1ng/mlの約2.8倍で、33名中16名(48.5%)が米国科学・技術・医学アカデミー(NASEM)が2022年に発表した健康リスクが高まる指針値の20ng/mlを上回り、PFASの体内汚染が拡がっていることが明らかとなりました。
汚染源とみられるのは明石川に通じる水路に排水している隣接した産業廃棄物処理業者2社で、排水に含まれるPFASを吸収する活性炭の交換頻度をあげる対策を行っているものの法律による規制はなく、また、神戸市による定期検査項目にPFAS濃度は含まれておらず、十分な対策が取られているかどうか懸念が残ったままです。
(6) ミネラルウォーター
2019年度の環境省による全国の公共用水域水質検査以降、飲料水に対する不安が増すなか、2020年に食の安全・監視市民委員会がミネラルウォーター製造メーカに対し製品内に含有するPFAS濃度検査状況を問合せたところ、PFAS濃度検査を実施しているとの回答は15社中わずか3社で、アサヒ飲料、キリンビバレッジ、日本コカ・コーラなど5社はPFAS濃度検査を実施していないと回答。残るポッカ、伊藤園、日本サンガリア、サントリーフーズなど7社は回答拒否という、国民の健康に直結する飲料品の安全性を蔑ろにする飲料水メーカのスタンスが明らかとなりました。
※ 『暮らしの中の有害化学物質の危険度を科学する』より
https://uedatakenori.com/805/
そして、その結果、2024年7月に神戸市で製造されたミネラルウォーターに暫定目標値を超えるPFASが検出されたとの衝撃的な報道を呼ぶこととなります。
この報道は明石川のPFAS汚染の原因を調査していた明石市の市議から神戸市への情報公開請求により明らかになったもので、以下の経緯であることがわかりました。
2022年12月に厚生労働省から神戸市に対し、アサヒ飲料六甲工場の地下水から取水し製造されたミネラルウォーター『アサヒおいしい水 天然水 六甲』から国が定める暫定目標値(50ng/l)を超える57.6ng/lのPFASが検出されたとの情報提供があり、神戸市が翌1月に検査したところ、商品から国が定める暫定目標値(50ng/l)の2倍の100ng/lのPFASを検出するとともに、水源となる地下水からは最大270ng/lのPFASを検出したことから、アサヒ飲料に対し早急な対策を求めました。
そして、ミネラルウォーターの汚染が発覚し約半年が経過した2023年6月には水源となる地下水から最大310ng/lものPFASを検出したものの、アサヒ飲料の対策は遅々として進まず、2023年11月に神戸市は12月20日までに暫定目標値以下に低減できない場合は販売を停止するよう求め、厚生労働省からの情報提供から約1年が経過した12月になり、水源に活性炭フィルターを設置することで暫定目標値をクリアしました。
ミネラルウォーターは食品衛生法上の清涼飲料水に位置付けられ、PFAS濃度にかかわる基準は定められていないため、PFASに汚染されたミネラルウォーターが市中に大量に出回り、汚染が発覚したのちも約1年の間、放置されたままというあり得ない事態を生みました。さらに、現在も暫定目標値は下回っているものの相当量のPFASを含有しているであろう商品を販売し続けることについて、国民の健康に直結する飲料品を提供するメーカとして胸を張って自信を持って『「安全」でおいしい商品を、「安心」して飲んでいただくために、アサヒ飲料は品質にこだわりを持ち、商品開発から生産、販売までのあらゆる工程で安全・安心を最優先することを徹底しています。』と言えるのでしょうか。
このような飲料水メーカの宣伝文句に騙され、水道水よりも水質がよく安全性も高いと信じ込み、水道水よりも1,000倍も高価なミネラルウォーターを長年にわたり購入してきた消費者の健康を顧みず、また、PFASによる水資源の汚染が環境問題として大きくクローズアップされてきたにもかかわらず、いっさい水質検査も行わず、なんら対策を打たないまま放置し続け、消費者に健康被害を与えてきたであろうことになんら詫びることなく、なにごともなかったのかのようにPFASに汚染されているであろう商品をいまなお販売し続ける企業に消費者の健康を害するおそれのある飲料品を販売する企業としての良心はまったく感じられません。
なお、アサヒ飲料六甲工場は神戸市西区井吹台東町にあり、明石川のPFAS汚染源とみられる産業廃棄物処理業者2社(神戸市西区神出町)とは7~8kmしか離れていないため、同一の汚染源の可能性が非常に高いものと推察されます。
(7) 中国産アサリ
2022年に米国食品医薬品庁(FDA)の調査により中国産のアサリの缶詰で高いPFOA濃度が検出され、消費者への注意喚起が図られたことから、食の安全・監視市民委員会では2023年3~4月に国内スーパーマーケットで中国産アサリ9商品と日本産アサリ3商品を購入し分析した結果、中国産アサリ9商品から、国産アサリ3商品に比べ約10倍のPFOAが検出され、その最大値は6,169ng/kgと、食品までPFASにより汚染が進んでいる実態が明らかとなりました。
(8) 包装容器
ファストフード店などの包装容器・包装紙・紙ストローなどに撥水・撥油性に優れたPFASによるコーティングが拡まるなか、PFASが身体に取込まれたり、PFASを含むゴミにより環境が汚染されるなどの懸念が生じていることから、アメリカでは食品医薬品局(FDA)の要請にもとづきPFASを含む食品包装容器の販売を中止しており、2021年にマクドナルド社は2025年までに全世界の包装容器でのPFASの利用を中止することを発表しました。
このようななか、2021年に食の安全・監視市民委員会が大手ファストフード企業10社に対し包装容器へのPFAS利用状況を問合わせたところ、以下の結果となりました。
① 2度催促しても回答がなく、PFASを使った包装容器の使用が強く疑われる企業(7社):日本マクドナルド、ロッテリア、フレッシュネスバーガー、ウェンディーズファーストキッチン、サブウェイ、ケンタッキーフライドチキン、ドムドムフードサービス
② 一部にPFAS使用しているが、使用削減および中止に向けて代替素材も含めて検討中という回答があった企業(1社):モスバーガー
(ハンバーガーには使用していないが、フレンチフライポテト用袋のほか、期間限定の耐油性BOX等使用)
③ PFASを含む包装容器は使用していないという回答があった企業(2社):バーガーキング、ミスタードーナツ
このように国内では意識の低い企業が多く、早期の規制が待ち望まれます。
※ 『食の安全・監視市民委員会 調査結果』より
https://www.fswatch.org/?p=1686
5.国内での対策状況
PFASの中でも開発当初から多く使用されてきたのがPFOSとPFOAで、製造工場周辺住民の健康被害状況から、PFASの大量摂取により発がん性リスクが高まるとともに、血管や臓器の損傷によりコレステロール値が高まり、免疫力低下や肝機能・腎機能障害、甲状腺ホルモン、早産・流産、発達障害への影響が懸念されるとともに、動物実験でも脂質代謝、甲状腺ホルモンや免疫系に影響を及ぼすことが明らかとなりました。
そのため、国際的な規制となる『残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs 条約)』により、人体に悪影響を及ぼす強い毒性と高い残留性を有する危険な化学物質としてPFOS は 2009 年に、PFOA は 2019 年に廃絶することが決められ、これを受け日本ではPFOS は 2010年に、PFOA は 2021 年に製造・輸入を原則禁止とし、代替品のPFHxSも2024年6月から禁止されました。
また、厚生労働省は2020年にPFOSとPFOAを水質管理目標設定項目に位置付け、合算値で50ng/l以下とする暫定目標値を定め、飲料水中のPFOS・PFOA濃度が暫定目標値を超えることがないよう、全国の水道事業者等に通知しました。
さらに、環境省でも公共用水域や地下水におけるPFOS・PFOA濃度の合算値で50ng/l以下とする暫定目標値を定め、2019年度から定期測定を開始しました。
その結果、現在でも一部、基準値を超えるPFAS濃度を検知する場所がありますが、地下水の利用を停止したり、河川からの取水と混合したり、河川からの取水に切替えたり、活性炭フィルターでPFAS濃度を下げるなどの対策を行い、現在のところすべての水道水で家庭に届けられるときには暫定目標値以内となっています。
ただ、これら水道水の水質検査はあくまでも暫定目標値に対する任意調査のため、給水人口が5千人超と規模の大きい水道事業に限定しており、環境省は今後、小規模な簡易水道も含めた定期検査に取組むとともに、現行の暫定目標値に代わる水道法上の水質基準を策定する予定です。
定期検査の結果は各水道局のウェブサイトで公表していますが、そもそもPFOS・PFOA濃度の合算値で50ng/l以下とする暫定目標値がほんとうに安全な基準となっているのか疑念がわくところです。
2023年1月には、内閣府と環境省がそれぞれにPFAS対策のための審議会を立上げ環境基準の制定や、日本全国に広がる汚染への対応に向けた議論が行われていますが、非常に残念なことに、健康への影響について消極的な姿勢に終始している状況です。
内閣府の食品安全委員会(座長:姫野誠一郎昭和大学客員教授)は2024年6月25日にPFASの健康影響に関する評価書を発行し、PFOSとPFOAの2物質でそれぞれ体重1キロ・1日あたり20ngを許容量とする評価書を発表しました。
しかし、この許容量は欧州食品安全機関(EFSA)が定めた4種類(PFOA、PFOS、PFHxS、PFNA) のPFAS週間許容量の4.4ng/kg(1日あたり換算で0.63ng/kg)の約64倍であり、より強い規制を訴える多数のパブリックコメントを完全スルーしたものとなりました。
この判断の前提となりましたのは、『PFOA、PFASの摂取と、肝機能障害、コレステロール値上昇、甲状腺機能障害、生殖・出生時の体重低下、免疫低下等について関連や可能性は否定できない』という基本的な因果関係すら認めようとせず、さらに、世界保健機関(WHO)の専門組織である国際がん研究機関(IARC)が『PFOAに発がん性があり、PFOSに発がん性の可能性がある』と分類しているにもかかわらず、『PFOA と腎臓がん、精巣がん、乳がんは複数の研究で関連が認められるものの結果に一貫性がなく証拠は限定的であり、PFOS と肝臓がんおよび乳がんは判断するための証拠は不十分であり、PFHxS と腎臓がんおよび乳がんは判断するための証拠は不十分である』という安全性を犠牲にするきわめて消極的な見解で、食品安全により国民の健康を守る立場をまったくわきまえていない御用学者による結論ありきの判断と言わざるを得ないものとなりました。
6.海外での対策状況
安全確保により国民の健康を守ろうとする積極的なスタンスがまったく感じられない国内の状況と異なり、海外ではより早くより効果的にPFAS規制に取組んでおり、2024年4月にアメリカ環境保護庁(EPA)はPFOSとPFOAの上限をそれぞれ4ng/l、PFHxSとPFNAの上限をそれぞれ10ng/lとするなどの世界一厳しい基準を設定し国際的に注目されました。
EPAの発表では、今回の規制により国内の約1億人に対して飲料水によるPFASの長期暴露を防止できるようになるとし、これにより数千人の早期死亡と成人のがんや肝臓、腎臓への影響を含む数万人の重い疾患を防ぐことができる見込みとし、発がん性との因果関係の立証を待たずに踏み込んだ判断を行うとともに、国内の全水道事業者に基準値遵守とPFAS濃度のモニタリングを義務化し、2027年以降、水道水中のPFAS濃度に関する情報を公表させるようにしました。
EPAは現状の水道事業者の6~10%は規制適合のための対策が必要になるとし、PFASのモニタリングや汚染処理対策支援のために総額10億ドルの予算を確保しているとのこと、国民の安心・安全を最優先に考える素晴らしい取組みを推進しています。
また、ドイツでは2028年からこれまでの飲料水の2種類のPFAS(PFOS、PFOA)濃度の基準値100ng/lから4種類のPFAS(PFOS、PFAS、PFHxS、PFNA)濃度で20ng/lと大幅に規制を強化することを発表するなど、各国で規制強化に向けた取組みが進められています。
さらに、EU全体でもPFAS規制強化に向けた議論が進められています。
2021年から飲料水を対象にすべてのPFASの合計値で500ng/l、特定のPFAS20種類(PFOS、PFNA、PFHxS、PFNAを含む)の合計値で100ng/lとする基準値を定めて管理していますが、規制対象となるPFASは13種類しかないため、2020年5月に5国(オランダ、スウェーデン、デンマーク、ドイツ、ノルウェー)が、PFASの使用を一括して制限する規制案(PFASの使用・製造・販売を医薬・農薬を除き全面禁止とし、特定の産業分野の用途のみ一定期間の猶予を設ける)を示し、2023年9月25日まで6か月間の公開コンサルテーションで意見を求めました。
このまま進めば最短で2025年中に採択され、2026~2028年に施行される見込みです。
これに大慌てになったのが日本のPFAS製造メーカです。
2021年3月にダイキン工業、AGC、ケマーズ、関東電化工業、クレハ、セントラル硝子、三井・ケマーズ フロロプロダクツ、東ソー・ファインケムなどが加盟するPFAS業界団体の日本フルオロケミカルプロダクト協議会(FCJ)を立上げ、経済産業省の後押しのもと、関連メーカ向けのPFAS規制対策のウェビナーを開催し、規制強化に反対するパブリックコメント提出の手ほどきを行う活動を推し進めました。
その結果、公開コンサルテーションの総数5,642件のうち、1位スウェーデン1,369件、2位ドイツ1,289件、3位日本942件で、4位のベルギー294件が日本の3分の1以下と、上位3か国が突出して多く、そのなかでもEU加盟国ではない日本からの規制強化反対コメントの多さはこれまで水俣病やイタイイタイ病など、工場からの廃液汚染による悲惨な公害病を経験してきた歴史を省みることなく、国をあげて国民の健康よりも企業の利益を重んじるスタンスが見て取れ、いままさにPFASの危険性を過小評価し積極的な対策や健康被害に対する補償に取組もうとしない国や自治体の姿に重なりあうものです。
7.ご家庭での対策
PFAS製造メーカや国、自治体のPFAS汚染に対する消極的な取組みが続くなか、国や自治体に頼ることなく、自分の健康は自分で守らなければなりません。
PFAS汚染源について以下の対策をおすすめします。
① PFASを多く含む水道水や飲料水、飲料品を飲用しないこと。
⇒ 日常生活にもっとも大きな影響のある水道水について、家庭に届くときには暫定目標値を下回っていますが、暫定目標値は健康被害が生じない根拠ある基準値ではなく、あくまでも目安で、海外では健康被害リスクを低減させるため、より厳しく規制されつつありますので、とくにPFAS濃度が高いエリアに居住されていたり、いまだ対策が十分に取られていない可能性がある簡易水道や井戸水を飲用されている方には対策を強くおすすめします。
PFAS汚染が発生したエリアの住民に対するPFAS血中濃度調査で浄水器を利用している方はPFAS血中濃度が低くなる傾向が見られますので、PFASを除去できる以下のような浄水器の利用が効果的です。
【東レ】トレビーノ
【三菱ケミカル】クリンスイ
また、ミネラルウォーターなどの清涼飲料水については、PFASに汚染されていることが強く疑われるアサヒ飲料六甲工場製造のミネラルウォーター『アサヒおいしい水 天然水 六甲』と炭酸水『ウィルキンソン』は避けられるとともに、メーカのウェブサイトでPFAS濃度が検出限界以下であることを確認されることをおすすめします。
② PFASに汚染された土壌や井戸水、川、海で育てられた野菜や肉、魚を摂取しないこと。
⇒ PFAS濃度の高いエリアで栽培された野菜や肉、川・池などで捕獲した魚類などは摂取しないことをおすすめします。
また、高濃度な汚染が明らかとなった中国産のアサリをはじめ、PFAS汚染状況がわからない外国産の水産品や加工食品、野菜、肉などの飲食品は避けられるのが賢明でしょう。
③ PFASでコーティングされた包装容器・包装紙・紙ストローを利用したファストフードや持帰り食品を摂取しないこと。
⇒ ファストフードや持帰り食品の利用が多い方はその店がPFAS対策を行っているかどうかを確認され、PFAS対策ができていないようでしたら避けられることをおすすめします。
④ PFASを含む化粧品やマスクを利用しないこと。
⇒ 化粧品もマスクも直接、肌に触れたり、口から吸い込むもので影響が出やすいことから、PFAS汚染状況がわからない外国産のものは避けられることをおすすめします。
また、お子さまの玩具は口に入れてしまうものですので、PFAS汚染状況がわからない外国産の玩具の購入は避けられることが賢明でしょう。
⑤ 大気中に放出されたPFASを吸い込まないこと。
⇒ PFAS濃度の高いエリアに長時間いることで呼吸器から体内に蓄積されますので、そのようなエリアに居住される方は機会があれば引越しを検討され、また、引越しをお考えの方はそのようなエリアへの転居は避けられることをおすすめします。
PFASを正しく恐れることで、みなさまの健康維持に役立つことを心よりお祈りいたします。
【参考】血中濃度測定方法
PFASによる健康被害はPFAS製造工場で勤務していたり、PFAS製造工場の近隣に居住していたり、高濃度のPFASで汚染された水道水を飲用していたりした場合に生じる可能性がありますが、PFASの血中濃度が一定以上になれば必ず健康被害が生じるというものではありません。そのため、国や自治体は『かえって不安が増す可能性がある』として、検査体制を整備しておらず、検査を受けることは難しい状況です。
汚染エリアでの居住歴や在学・在職歴があり、血中濃度がご心配な場合は、汚染エリアの医療機関を通じて検査が可能となる民間のサービスがありますので、ご紹介いたします。
① 企業名
Eurofins Clinical Testing Services Japan株式会社
② サービス名
『PFAS 血液検査受託サービス(研究用』
③ 申込み方法
以下サイトをご覧ください。
https://www.eurofins.co.jp/clinical-testing/サービス/pfas-自己採取血液検査/