韓(から)のくに紀行2023【その1乗り物編】
参考:司馬遼太郎著『街道をゆく2 韓(から)のくに紀行』
1 海中道(うみなかのみち):クイーンビートル
2023年春、仕事の合間に聴くようになったKBCラジオの『キテマス。K』という韓国のポップな話題を扱う番組とJR九州高速船が連動したキャンペーンにダメ元で応募してみたところ、なんと景品のクイーンビートル乗船券が当たった。
夏のボーナスが出るまで懐具合が厳しかったのもあり9月下旬の使用期限前に夜勤明けを含めた3日間の休みを確保し、8月下旬の残暑の最中の晩夏、2019新型コロナウイルスのパンデミック前の2019年秋以来約4年ぶりの海外旅行に出かけることにした。
2023年夏の世界水泳選手権/世界マスターズ水泳の会場だったマリンメッセ福岡の横にある博多港国際ターミナル(中央埠頭)を9:00に出航する便で釜山に向かった。
博多港国際ターミナルでのチェックインは8:00から可能で、出国手続き後8:40までに乗船する必要がある。
チェックイン時には
・博多港利用料
・釜山港利用料
・往復燃料費(サーチャージ)
の合計(2023年8月発券分は7,800円)を運賃と別に払う必要がある。
釜山着は12:40で、パンデミック時に運休しそのまま廃止になったジェットフォイル(旧ビートル)より1時間ほど所要時間が長くなったが、三胴船(トリマラン)になり客室が広くなったことで空間的にも心理的にもゆとりが出来たように思える。
釜山発は15:00、博多港着は18:40だった。
※運航ダイヤは2023年8月時点のもの
当日は夜勤明け後仮眠を取っていたが、危うく寝過ごしてしまうところだったため、天神で朝食を取るのを断念し途中でタクシーに乗り、朝食を船内で摂ることにした。
船内に新しく出来たカフェでは朝食として石窯ピッツァを食べたが、歳のせいか少食傾向になっている自分はその後夜まで慶州市内で『10ウォンパン』と飲み物以外口にせず動き回っていた。(食べ物については後述する)
司馬氏は、『韓のくに紀行』で現在の『クイーンビートル』の航路について
『「海中道(うみなかのみち)」
と、「記紀」のどちらだったかに書かれている航路は、博多湾から壱岐島へゆき、海中の奇島である沖島(おきのしま=宗像市)を右舷にながめつつ対馬を経、朝鮮釜山にいたるみちをさしたことはまぎれもない。むろん、朝鮮からもやってくる。有史以前では朝鮮から日本へきた人数のほうが多かったであろう。』
『中世以来国家というこの対外的拒絶反応のみがつよい人間を支配するようになってから、人間どもの世界意識がゆがみ、とくに東アジアにあっては朝鮮と日本が妙なものになったが、国家という面倒なものがないにひとしかった古代を、われわれはこの洋上の街道をゆくとき懐かしまざるをえない。』
と述べている。
他には
・カメリアライン『ニューかめりあ』も『海中道』の航路に就航しており、
並行ルートとして
・下関発着の関釜/釜関フェリー『はまゆう』『星希(ソンヒ)』
もある。
2 『街道をゆく』のルートをたどる:KORAIL PASS
2019年に釜山市内をある程度回ったこともあり、今回は
・慶州(キョンジュ)市内(『街道をゆく』で司馬遼太郎氏が訪問した)
・ソウル市内(光化門広場他)
を主に何ヶ所か巡ることにした。
ちなみに、司馬氏が『第4共和国(朴正煕軍事政権)』時代の1971年に『街道をゆく』の取材のために通ったルートとKORAIL京釜線(KTX/在来線)のルートは大田(テジョン)まで近いルートである。
関西から西と四国・九州を合わせたくらいの広さの国土の韓国を回るのにうってつけのKORAIL(韓国鉄道公社)の路線網を使わない手はない、と、KORAIL PASSの2日券を使うことにした。
実際には、パンデミック時にAmazonプライム・ビデオで観た『釜山行き』(邦題=新感染 ファイナルエクスプレス)が個人的に非常に刺激的で、その舞台を見ておきたいということもあったからだが。
韓国の長距離列車は、
・高速鉄道=KTX(フランスのTGVをモデルとしたKORAILの高速鉄道)、SRT
・ITX(都市間特急)=セマウル、青春(セマウルより短距離)
・ムグンファ(急行)
の3タイプがあり、料金もそれぞれ別建てになっている。
2012年に旅行した台湾の鉄道網の場合
・高鐡(新幹線)
・台鐡(在来線)の自強号(ツーチャンハオ=じきょうごう:特急)、莒光号(ジューグアンハオ=ぎょこうごう:急行)、各停
それぞれの料金があり、JRグループのような旧国鉄時代に制定された全国統一(近年は地域別の加算はあるが)基本運賃に特急・指定席・グリーン料金を上乗せする体系ではない。
KORAILの料金も台湾の鉄道運賃・料金制度と似たような体系である。
旅行中に予定が変わったり、その時の気分で立ち寄る街を変えることもあるだろう。
日本だとJRグループを使えば途中で特急料金や指定席料金を追加すれば乗り継ぎできるが、韓国のように日本の感覚ではうまくいかない国だと、乗り放題タイプの方が良い時もあるだろう。
なお、KORAIL PASSは旅程の融通が利きやすいが、
・指定席は1日2回まで
・KTX・セマウル・ムグンファはほぼ指定席(自由席もあるようだがかなり少ないようだ)
・KORAILのローカル線の存在感が薄い
・ソウルを起点にすれば各主要都市への往来が便利(江陵、平昌、釜山、慶州、光州、木浦…)だが、それ以外の都市を起点にすると旅程を工夫する必要がある
という注意点がある。
参考:非公式のKORAILの時刻表
ソウル中心の路線網になっている点、長距離列車が指定席メインになっている点を考えると、このKORAIL PASSは'22年に期間限定で発売された『JR東日本パス』に近い使い方をすれば良いだろう。
また、
・慶州市の場合KORAIL在来線の慶州駅もあるが、便数は長距離列車のKTX・SRT・ムグンファ号が止まる新慶州よりかなり少ない
・KTXの駅は釜山・ソウルのような大都市(韓国の特別市・直轄市・広域市クラス)は都心部の在来線駅と一緒だが、新慶州のような新規開業駅は地方の新幹線駅に似て都心部から離れている
・KORAILの各停便(日本の普通列車相当)はソウル市内でも日本に比べると比較的便数が少ないものの、地下鉄と一体化した運賃体系になっていて交通系電子マネー・Tマネーがあれば通し料金で乗車できる
・釜山・ソウル以外の地方都市の場合:光州は在来線のシャトル便がある=台鐡台南〜高鐡台南間や北海道の新函館北斗〜函館間の『はこだてライナー』に似ているが、それ以外の各停の存在感は外国人には薄い
という点も注意が必要である。
3 日韓BRTの違い
韓国のローカル輸送についても書いてみる。
今回は主にバスを使うことにした。
韓国の都市圏の交通機関について大まかにみると、
・ソウル首都圏=地下鉄、KORAILの首都圏鉄道、バス、タクシー
・釜山広域市=地下鉄、広域電鉄(KORAIL路線と一体化した料金体系)、バス、タクシー
・地下鉄のない都市(例:慶州)=バス、タクシー
という具合である。
現在は日本のSuica・ICOCA・PASMO・nimocaに相当する『Tマネー』が広く普及しており、旅行中はかなり重宝する。
韓国全土で共通して使えるので、空港・国際港に着いて両替後すぐに買うと良いだろう。
また、パンデミック後には、現地での両替やATMでの引き出しの手間が省けてTマネー以上に使い勝手のよいチャージ式クレジットカード『WOW PASS』も発行されているので、ソウル・釜山のような大都市での利用が多い場合はこのWOW PASSを使うのも良い。
自分も韓国語教室で薦められたのもあり、今回はこちらをメインで使った。(2019年にTマネーカードを使った時の残高もあったので、Tマネーカードから先に使った)
慶州市内では、新慶州駅〜慶州市中心部〜瞻星台(せんせいだい/チョムソンデ=新羅時代の天文台)〜仏国寺間で市内バスを使った。
以前光州でも市内バスに乗ったことがあるが、
・主要道路は広く作ってあり、一般車だけでなくバスも結構飛ばす(高速道路では70㎞ほどのスピード)
・バス利用時は乗りたい系統・バス停・降りる停留所を確認しておく
・路線図に出ている停留所は主要停留所以外省略されている場合が多い
のでガイドブックで調べておく必要がある。
ある程度ハングルが読めるとバス利用がかなり楽になるだろう。
釜山市内中心部とソウルの光化門広場〜ソウル駅間の移動でもバスを使った。
釜山・ソウルの中心部は、近年バス高速輸送システム(BRT)の導入が進み、道路の中央寄り車線にバス停・バス専用車線が設定されている。
パンデミック前(2019年)には見なかったが、2022年の暮れに釜山市中心部で専用車線が完成したとのこと。
釜山では、
・ロッテマートでのインスタントラーメンなどの土産の買い物+南浦洞での夕食(ソルロンタン)後南浦洞〜釜山駅前まで利用
・最終日午前の釜山駅〜釜山市立博物館間
・最終日昼の釜山駅〜釜山港国際旅客ターミナル間
で利用した。
バス専用車線・シェルター付きバス停があるとバスの存在感があり、乗りたい系統を方向幕やバス停の接近表示・韓国全土向けの地図アプリ『kakaoMAP』に組み込まれているバスの位置情報をチェックすれば乗りたい系統に乗れる。
スマホの位置情報設定をオンにしてkakaoMAPを使えば、もしバスを乗り間違えても現在位置から目的地までの経路を検索することができるし、近くのバス停から検索し直すこともできる。
韓国の大都市に導入が進むBRTだが、日本の場合は
・JR気仙沼線+大船渡線(柳津〜気仙沼〜盛)
・JR日田彦山線(添田〜日田)
など地方の鉄軌道の補完役を担う場合が多く、日本の都市部では道路幅が広い道路が少ないこともあり、ソウル・釜山のような方式の採用は簡単には進まなさそうである。
福岡市内の場合は連接バスを導入したり、都心部の循環系統+郊外の車庫の連接バスの入出庫便をBRT形態として扱っているが、道路幅が比較的広いのが渡辺通・大博通・住吉通くらいなのでソウル・釜山方式に切り替わるのは難しそうだ。
『なんちゃってBRT』と言わざるを得ない現状である。
実際に本格導入するとしても、
・市民のバス事業者に対する冷ややかな視線(戦時統合で成立した西鉄グループが福岡市内の路線バスをほぼ独占していることへのやっかみ)
・運行形態やシステム構築上、事実上独占状態になる
・公契約の不透明化のリスク
がつきまとうことになるだろう。
【参考画像】
(今回の韓国旅行については追って続編をInstagramにも上げます。しばらくお待ちください。)
(2023/09/06公開:慶州訪問記☟)
(2023/09/08公開:ソウル・釜山博物館巡り☟)