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2024春北松浦半島バス旅感じたまま

昨今鉄道だけでなく路線バスやタクシーといった乗り物の存続の危機があちこちで話題になっている。
例えばタクシーやバスは運転手が労働条件の問題(特に他業種に比べて低い賃金、少ない休日、昔ながらの業界の環境、カスタマーハラスメントなど)ゆえに人が集まらず、よりましな労働条件の職種や地域(例えば関東地方)への流出により、

・路線バスの減便、乗客が少ない路線の廃止(都市部でも例外なし)
・タクシーの長期的な乗客減少、稼働台数減少、運転手の給与減少、そして運転手そのものの減少

という現象が目立ち始めている。
公共の乗り物の運賃は、費用を積み上げて利益率を上乗せする『総括原価方式』で計算され、暴利を貪ることはできないが賃金上昇にもつながりにくいという点がある。
(総括原価方式について参考リンク)


それ以上に地方では人口減少・流出や乗客減少・安近短傾向により民営で長年成り立ってきた乗り物の存続が危うくなっている。
myrouteアプリでリリースされた昭和バスの唐津地区(北松浦半島)フリーパスを使った小旅行で、この現状をチラ見でもして思うがままに書いてみることにした。
(1ヶ月以上放置していましたがご容赦ください)

1:北松浦半島のバス路線網

今回(2024年3月)は昭和バスの『から2DAYフリーパス』(福岡市内からの高速バス『からつ号』もフリーパス対象)を使った。

今回のルートは以下の通り。
1日目:所用があったため午前中の『からつ号』往復で唐津市内の大手口バスターミナル(BT)の下見のみ
2日目:からつ号で大手口BT→呼子→名護屋城→玄海原発→大手口BT→厳木(きゅうらぎ)→大手口BT→福岡市内

2日目のルートは、北松浦半島(唐津市+玄海町)を反時計回りでたどるルートだったが、4月のダイヤ改定・路線再編でこのルートはほぼ使えなくなり、大手口BTの乗継拠点化および呼子・玄海原発・玄海町役場方面の放射状路線への再編が行われた。
まさに『ハブアンドスポーク』である。

ちなみに、地方路線バス路線網の『ハブアンドスポーク』方式再編に関して、熊本都市圏の事例(熊本都市バス=元熊本市交通局、九州産交バス、熊本電鉄、熊本バス)が先駆けになっている点も注目しておきたい。

※今回使う地図はGoogleマップを元に、Instagramのストーリーズ編集用画面を使って編集している。

2024年3月時点の大まかな
唐津地区の昭和バス路線網(東側)
2024年3月時点の大まかな
唐津地区の昭和バス路線網(西側)
2024年4月以降の路線網(西側)
※今回回ったエリアのうち東側は唐津市内での廃止があった程度であり、地図は割愛

(参考)
・岩野=大手口BT〜呼子・玄海原発方面の峠近くにある、呼子方面・玄海原発方面の県道の交差点
・仮屋=玄海町にある漁港街。玄海原発・浜野浦棚田の南
・金の手=玄海町役場付近。スポーツ施設やスーパーがある。
・入野=旧肥前町(唐津市)

2024年春より、北松浦半島の西側のうち、玄海原発から直接玄海町エリアを縦断する路線が平日朝の1本だけになり、近年『映えスポット』となっている浜野浦棚田にはバスで行くのは極めて難しくなった。
また、呼子から名護屋城間の路線もいよいよ風前の灯状態となった。
3月に自分が玄海原発から大手口BTまで乗車した時は、仮屋・金の手・玄海町役場を通る路線が午後に2本あったものの完全に廃止され、偶然にも廃止直前に乗車できた。
(今回は玄海原発(エネルギーパーク)と名護屋城も見物しているが、これについては改めて書く予定である。)
この時は玄海町役場付近までほぼ空気輸送状態で自分しか乗客がいなかった。
完全に路線バスの存在感がなくなっていたのだろうか。
路線再編後の現地の状況については、機会があれば改めて『から2DAYフリーパス』などで見ておきたい。

なお、玄海原発近くと金の手付近にタクシー会社が見えたが、乗り物の需要はタクシーのオンデマンドで十分賄えるほどなのだろうか。
他にも唐津地区には(今回は乗車しなかったが)伊万里湾の鷹島方面に向かう路線もあるが、果たしてどれだけの利用があるのか。

比較的人口の多い集落を満遍なく回る路線網が、大手口BTを拠点としたハブアンドスポーク方式に近い路線網になったものと理解した方が良さそうである。

2:変則的ミニ阪急方式・昭和自動車

現在の昭和バスは昭和グループの構成企業であり、グループの中の
・福岡トヨタ自動車
・ネッツトヨタ福岡
・トヨタカローラ福岡
・トヨタL&F福岡
などのTOYOTAグループの自動車販売や物流事業が収益の柱になっていると思われる。
かつての阪急グループが鉄道以外の不動産やエンタメ事業を収益源化したような『ミニ阪急』モデルの一例とも言えそうだ。
逆に言えば、マイカー社会(都市によってはシェアサイクルの普及もあるだろう)の2020年代、バス・タクシーだけではいよいよ事業継続が難しくなっていると解釈できそうだ。

そもそもの話だが、日本の公共交通機関の黎明期は民間資本に依存せざるを得なかったという話を以前自分のnoteでも書いたが、19世紀に欧州や米国に追いつき追い越せと国力増強を図った明治政府の財政基盤が弱かった(薩摩藩や長州藩中心、地租=固定資産税などの徴収など税源の問題)ことと、旧藩対策に汲々としてきたこと、特に西南戦争で当時の国家予算の3/4ほどを費やして漸く旧薩摩藩士の反乱軍を鎮圧した影響で、道路や鉄道などの社会基盤整備が国として十分進められなかったことが今なお尾を引いているとみてもおかしくないだろう。

民間資本(地方の資産家や投資家のポケットマネーや寄付=今だとクラウドファンディング)に依存して成立した交通網が経済成長に合わせて発展したことで『民間に任せればうまくいく』と思ってしまったのかと。

ところが現在は、地方の資産家任せでは限界になっている。
地方経済の構造変化・マイカー社会化・人口流出/減少に、民間だけで対応させるのは無理があるのではないか。

バスに限らないが、公共交通機関を持続させるのであれば、
・固定資産の公有化による『公設民営化』
・季節や週・日単位の需要変動に柔軟に対応する『地方版ライドシェア』
などの方式も組み合わせて、
・運転手の労働条件の改善
・ハラスメント対策
まで盛り込んだ地方交通の持続策を官民で腹を割って話していけるかが、鍵だと思った2024年の春だった。

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