リーダーシップ考 リーダーシップ特性論
こんにちは、リーダーシップを日夜研究しているリーダーシップ研究家のまっつんです。
前回はリーダーシップの定義について書きましたが、今回は、「最初のリーダーシップってなに?」ってことで、リーダーシップ特性(資質)論について書いてみたいと思います。
🟦古典的リーダーシップは紀元前?理想の支配者を求めて!
最近は生活のどのシーンでもリーダーシップを問われる世の中になりました。それだけ一般的なスキルのリーダーシップですが、実はリーダーシップとは「何か」という普遍的な「リーダーシップ論」はありません。不思議ですね。
では、最初のリーダーシップとはいつ頃から言われているのでしょう。
最初のリーダーシップ論として、東洋では「孔子」西洋では「プラトン」の名前があがります。多分その前にも大勢の賢人たちが「人を導く力」の研究をしていたと思います。(孔子、ソクラテス、釈迦、キリストは、世界4大聖人と呼ばれる)
しかし、この時代に考えられていたリーダーシップとは、国を治める王や君主に必要なリーダーシップであり、民衆は王に従属的に従うだけの存在として扱われています。
このようなリーダーシップは生まれながらにして、備わっている特性や資質であるとしてその特性や資質について論じているリーダーシップを、リーダーシップ特性論と言います。また、リーダーシップ特性資質論とも言われています。
🔷「孔子」(生誕:紀元前552年または紀元前551年から没:紀元前479年)
出典:ウィキペディアより
春秋時代の中国の思想家であり哲学者、そして儒家の始祖である「孔子」は、弟子の顔淵に仁を問われ次のように答えています。
「子曰克己復礼為仁」
「子曰克己復礼為仁」 「自分に打ち勝って礼に立ち返ろうとすることが仁である。一日自分に打ち勝って礼に立ち返ることをすれば、世の中はその人の人徳に帰伏するであろう。仁を実践することは自分の振る舞いによるのであって、どうして他人に頼るものであろうか、いやそうではない。」
孔子の死後約四百年かけて編纂した弟子たちの言語録は『論語』では、思想の原点に、人として最も重要なのは「仁」であるとしています。
「仁」とは、「人」すなわち、基本的な意味は人を愛すること、人を思いやり、人を尊重することであえり、「仁」こそが孔子の思想の核となるもので、人間として最高の行為となるとしています。
「仁」のある人こそリーダーとして相応しい。なぜなら「正義」つまり「正しいかどうかの判断基準」は「仁」に基づくというのが孔子の考え方でした。
🔷プラトン(生誕:紀元前427年 から没: 紀元前347年)
出典:ウィキペディアより
また、西洋ではプラトンが、その代表的著作「国家」を記し、国は思慮に欠けた人間が統治すべきではなく「英知を持ったリーダーが国を治めよ」という哲人理論を残しています。(ただし、プラントは人の平等は説きつつも、人の身分は神によって序列が、支配者→その援助者(軍人)→ 農民・手芸者・労働者と定められているという三分法の影響を受けています。すでに紀元前から労働力しか提供できない労働者:現代のサラリーマンは、最下層に位置しているのですね。)
※「魂の三分区」は初期の遊牧民の三階層構造(牧夫→犬→羊)が原インド・ヨーロッパ諸民族によって抽象化された集団的共通概念という指摘もある。(そうなると毛を刈られ、たまに肉として食べられる羊イコール、サラリーマン?っていうのもなんとなく納得するものがありますね)
孔子もプラトンも理想国家を目指して徳や英知のある人物による国家の統治を求めるためのリーダーシップと考えられます。
🟦現実主義(リアリズム)的な政治のリーダーシップ
時代を下って同じリーダーシップでも現実主義に基づいたリーダーシップを打ち出したのが、「君主論」を記したフィレンツェ共和国の外交官のニッコロ・マキャヴェッリでした。
🔷ニッコロ・マキャヴェッリ(生誕1469年5月3日 -没 1527年6月21日)
出典:ウィキペディアより
『君主論』は、君主たるものがいかにして権力を維持し政治を安定させるかという現実主義的な政治のリーダーのあり方(資質)を説いています。また国家の土台は「徳」ではなく「良い法律」と「良い武力」であるとしています。よく言われる「権謀術数に長けたリーダー像が望ましい」というのは、権謀術数に長けた教皇軍総司令官チェーザレ・ボルジアに理想の君主像を見出したからと言われています。
マキャヴェッリの理論は「フォルトゥーナ」(Fortuna, 運命)と「ヴィルトゥ」(Virtù, 技量)という概念を用い、君主にはフォルトゥーナを引き寄せるだけのヴィルトゥが必要であると述べた。『リウィウス論』では古代ローマ史を例にとり、偉大な国家を形成するための数々の原則が打ち立てられている。全てにおいて目的と手段の分離を説いていることが著作当時において新たな点であった。ウィキペディア 「マキャベリ」より
マキャベリは、君主国の民衆心理を「覚えておきたいのは、民衆と言うものは、頭をなでるか、消してしまうか、そのどちらかにしなければならないことである」という見解を示しており、潜在的な敵となり得る大衆として捉えています。そして、理想国家における倫理的な生活態度にこだわり、現実政治の実態を見落とすことが破滅をもたらすことを強く批判し、君主は「愛されるより恐れられるほうがはるかに安全である」としています。
🟦 優れた資質を持つ偉人だけがリーダーとなり得る!
「雄弁は銀、沈黙は金」の名言を残したカーライルは、明治時代の日本でも盛んに翻訳された19世期大英帝国の歴史家であり、思想家、評論家です。
「世界の歴史は英雄によって作られる」と主張して彼の著作である『英雄崇拝論』(原題:On Heroes, Hero-Worship, and the Heroic in History,1841)は日本でも人気がありました。(1840年にロンドンでの講演を翌年出版)
彼の主張した精神主義的英雄観は、俗衆の勢力に対して「英雄」「偉人」「天才」が如何に優越性を有しているかを論じており、「文字のヒロイズム(英雄)」という概念は、日本の従来の「武の英雄」という概念を覆すに至っています。19世記中期にイギリスでは、英雄崇拝(hero-worship)が流行しており、迷える自分たちを導く救世主と歴史上の伝説の人物ではなく、徳の高い生 身の人間が英雄候補としました。それは、プロテスタント的な選民意識もあり、偉大なる個人である英雄とその他大勢である一般人という区別がベースとなっており、他より優れた何らかの資質を持ち合わせた偉人だけがリーダーとなり得るという思想でした。
🔷トーマス・カーライル(誕生1795年12月4日 - 没1881年2月5日)
出典:ウィキペディアより
🟦科学的解析による人間の能力差分析の成功
1905年に、ビネー(Binet, A.)とシモン(Simon, Th) が最初の知能検査を開発しました。実は、1800 年代後半からヨーロッパ諸国で初等教育制度が確立し義務教育化が始まっていましたが、勉学を怠けている訳ではないのに学校の勉強についていけない子供達が出現してきました。ビネーはコレを能力不足からであり、特別なクラスで適切な教育を行うべきであると考えたのでした。
パリの文部省当局が1904 年に発足させた「異常児教育 の利点を確実にするための方法を考える委員会」のメンバーでもあったビネーは、知的障害を科学的に診断する方法を弟子の精神科医のシモンの協力で、1905年にフランスにおいて世界ではじめての知能検査法として「知能測定尺度 une echelle metrique de l'intelligence」を確立させました。これによって人間の能力差を測定することに成功したのです。
🔷アルフレッド・ビネー(誕生1857年7月8日 -没 1911年10月18日)
出典:ウィキペディアより
🟦リーダーシップと高い相関性のある特性を調査するも限界宣言!
1930年、アメリカの心理学者ストックディル(Ralph M. Stogdill)がリーダーのもつ特性とは何か、あるいはリーダーシップと高い相関関係がある特性とは何かを調査しました。彼が調査した特性は、「公正」「正直」「誠実」「思慮深さ」「公平」「機敏」「独創性」「忍耐」「自信」「攻撃性」「適応性」「ユーモアの感覚」「社交性」「頼もしさ」です。
それを集団を率いて成功するリーダーとそうでないリーダーで比較分析を行い、「特性」を明らかにするという試みでした。
しかし、それぞれの特性の定義、測定、因果関係ははっきりせず、ストッグディル自身も後年、リーダーシップ特性論の限界を自ら宣言しています。
(ストックディルの示した有能なリーダーの特性)
□基本的能力がすぐれていること。(知性、機敏さ、発現能力、独創性、判断力など)
□直接的な能力がすぐれていること。(学識、知識、体力、技能、技術など)
□責任感が強いこと。(頼もしさ、イニシアティブ、忍耐力、攻撃性、自信、他人よりも優越しようとする欲求など)
□参加的な態度を身につけていること。(活動力、社交的能力、協働性、適応力、ユーモアの感覚など)
□集団の中での地位が高いこと。(信頼度、他のメンバーへの影響力、発言の重み気など)
ストックディルはリーダーシップに関する書物や論文を5千以上の収集し分析し3,114の事例を収集したリーダーシップ辞典を1974年に「Handbook of Leadership - A Suevey of Theory and Research」として出版しています。
出典:Amazonより
ストックディルの分類したリーダーシップに関する諸理論
🟦リーダーシップ特性論のまとめ
リーダーシップ特性論は、リーダーの資質は生まれながらに備わっているという考えから、その資質を科学的に捉え分析することで解明しようとしたアプローチでした。しかし、リーダーの特性や、リーダーシップに高い相関性のある特性を特定することはできませんでした。
ストックディルのリーダーシップ辞典もリーダーシップに関する膨大な著作や論文を網羅して集大成としたことには大きな価値がありますが、リーダーシップの解明には至っていないのです。
それは、ハロルド・クーンツ(HaroldKoontz)が「Management Theory Jungle」と表現した以上にリーダーシップは多岐に渡り、ひとつの学問領域にまとめられるようなテーマではないからかもしれません。
そして、リーダーシップ研究は「リーダーシップは何であるか?」というアプローチから、前提を定義した狭義のリーダーシップへと移っていくように感じます。
以上、長文となりましたが、「最初のリーダーシップってなに?」という疑問に対してリーダーシップ特性(資質)論についてレビューしてみました。
少しでも皆さんのお役に立てれば幸いです。
次回もよろしくお願いいたします。
✅じんじーずに興味のある方はこちらもよろしお願いします。
https://mangahack.com/comics/3165/episodes/62610
🟦このペースでは現代に戻るまでどれだけ時間がかかるのか?まっつんブログ