「夏の魔物」〜スピッツ歌詞の世界~
妻からスピッツの「夏の魔物」の歌詞の意味を教えてくれと依頼がありまして、ネットにもいろいろと解釈が出ていたのでいくつか読んでみました。
が、なかなかピンとくるものがなく…。
マサムネの詩は、たしかに読む人(聴く人)によってさまざまな解釈ができる余白を多く含んでいます。
正解はひとつじゃないかもしれません。
ただ、マサムネが伝えたかった世界観に一歩でも近づきたい、そんな思いを持って歌詞の世界にどっぷりと入り、自分で解釈をしてみました。
多少長くなりますが…。
(草野正宗氏を親しみと尊敬を込めてマサムネと書かせていただきます)
__________________
この部分は回想シーン。
出かける僕をベランダから見下ろして少し笑っている彼女。
白いシーツが干されているのは、2人が生活を共にしているくらいの関係であることを示しています。
この歌詞の中の「古い」「少し笑った」「生温(ぬる)い風」という言葉が、「晴れやかな幸福感」ではなく「寂しげな幸福感」を感じさせます。
これは回想シーンのように見えますが、実は主人公=僕の心理描写ですね。
『魚もいない』
この僕と君の2人は「2人だけの世界」にいることを想像させます。周りのことも未来のことも見えない、なんだか痛々しいくらいの2人だけの世界に。
『ドブ川』
きれいで美しい架空の世界ではなく、リアルで汚れた現実の世界の象徴。
グレー色の世界を描いているように思えます。
で、歌詞から伝わるメッセージは、
「いいことばかりではない現実だけど、君と2人でどこまでもどこまでも生きて行きたい、決して強くたくましくない僕だけど」
そして次に重要なキーワード。
『追われるように』
何かに追われるように、焦るように、怯えるように、ヨロヨロしながらもいくつものドブ川を越えていこうとしている2人。
(ドブ川は暗喩ですね)
一体この2人は何に『追われるように』毎日を過ごしていたのか…?
曲のタイトルにもなっている最大の謎の部分。
夏の魔物とは一体なんなのか…。
いろんな説が出回っているようです。
では解釈をすすめていきます。
実は、
「僕がこの詩を歌っているときにはすでに彼女はもう亡くなっている」
んです。
そして先程の『追われるように』は、2人でいれる時間は限られていること、つまり彼女が病のためこの世を旅立つ日が近づいていたこと、そしてそのことを2人は知っていたことを意味しています。
ここで、歌詞の解釈を進める前に少し補足説明をさせてください。
【みなと】という曲の中のこの部分に注目していただきたいのです。
『黄昏にあの日二人で 眺めた謎の光思い出す』
なんの関係があるの?と思われるかもしれませんが、実はマサムネの歌詞の世界観をことを理解する上でかなり重要なポイントになります。
この体験(たとえそれが歌詞の中の架空の体験であったとしても)、つまり人魂のような謎の光を見てしまったマサムネは、「死んだ人の魂は存在している」という認識を持っているんだと考えていいと思います。
そうなのです。マサムネは「死んでしまった君とまた会いたい」という強い思いを『夏の魔物』だけではなく、さまざまな曲の歌詞に込めているのです。
この背景を踏まえた上で、歌詞の解釈を進めていきます。
この歌詞から伝わるメッセージ。
「私、この世界を旅立ってもまたあなたに会いにこれるかな…」
「きっと会えるよ。謎の光を一緒に見ただろ?あれは天国から会いにきた人の光だよ。だからまた会えるんだ。
ぼくらの秘密の掟をつくろう!夏の夕暮れに僕が呪文を唱える。そうすれば君と僕はまた会えるよ、絶対!」
「うん、私もあなたに会いに来る」
ぼくらは秘密の掟を作った。
幼稚な考えだってわかってる。
魔物とか幽霊とか呼ばれている形でもいい。
ぼくはまた君に会いたかったんだ」
夏の大粒の雨。
今日こそは君と会えるかもしれない。
そんな思いを毎日毎日繰り返している。
すぐにこの雨も止むよ。
(夕陽が出ないと秘密の掟は効かないから)
雨も止み、西陽にぼくの長く延びた影がさっきまでの雨が作った水溜りにうつる。
ぼくは君と会うために秘密の掟を実行する。
【夏の夕暮れ時、クモの巣に夕日があたる。
そして僕は呪文のコトバをつぶやく】
これが僕らの密かな掟だった。
雨に濡れたクモの巣が夕日にてらされている。
何回も祈るように呪文をつぶやく。
でも君は現れなかった。
今日も会えなかった。
クモの巣に残る雨粒は、君が会いに来れなくて泣いている涙ように見えた。
この歌詞から伝わるメッセージ。
ぼくたちの幼稚な約束は通用しないのかな…。
ぼくがこうやっていつまでも君を引き留めているのかな…。
ぼくは今、君を悲しませてるのかな…。
君がこの世からいなくなったことをぼくは受け止めないといけないのかもしれない。
僕の心の中から君をほんとうに殺してあげることが君のためになるのかもしれない。
君との秘密の掟を壊す証として、このクモを殺そうと思った…。
でもね、ぼくは君に会いたいんだ。
また君に会いたいんだ。
どうしても会いたいよ。
でも呪文はもう効かなかった。
君と会えなかった。
会いたかった。
はっきりと君とわからなくてもいい。
君に似ているだけの魔物でもいい。
君に会いたかった。
__________________
これが、ぼくの解釈する『夏の魔物』の物語です。
最後の「会いたかった」の連呼がこの主人公の悲しさが伝わってきて涙が溢れてきます。
浅くならないように、妙な方向に深読みしないように、じっくりと何度も何度もこの歌詞の世界に入って感じとってみました。
夏の魔物とは死んでしまった「君」のこと。
いくつもの解釈がある『夏の魔物』ですが、この解釈が誰かの“スッキリ”につながればすごく嬉しく思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?