撮影OK。ぼくだけNG。
L⇔Rの健一にいちゃんが福岡のイムズホールにやってくる!
ということで、それに行ったのは2013年の話。
ご存知の方も多いと思いますが、
L⇔Rについて、少しだけ補足しておきます。
L⇔Rは、1990年代に活躍したバンドで、
メンバーはボーカルの黒沢健一と、
その弟、秀樹(ギター)と、
友人の木下裕晴(ベース)
の男性3人で構成させています。
(結成した当初は、嶺川貴子さんもいて、4人でした)
『KNOCKIN' ON YOUR DOOR』で大ブレイクしたので、この歌だけは知ってる!という方も多いかもしれませんね。
1997年に活動を休止。
その後は、それぞれソロで活動をしていました。
L⇔Rがまだそんなに売れてないころから好きだったわたしと妻は、
「健一にいちゃんがくる!」
と、興奮しながら福岡のイムズホールへと向かいました。
ライブ当日。
ステージ上から、健一にいちゃんが最初の挨拶のとき、
「今日は写真も動画もOKです。思い出として撮って帰ってください。ツイッターとかYouTubeにあげてもらっても全然OKです!」
と言い、小さなイムズホールの会場は歓声に包まれました。
みんなスマホやガラケーを取り出して、パシャパシャと撮り始めます。
(さすがにいちゃんだ。時代の流れを分かってるな~。では遠慮なく……)
と、私は足元に置いていたカバンから、先日買ったばかりのフルサイズ一眼レフを取り出して、ファインダーをのぞきこみました。
(まさか健一にいちゃんを撮影できるなんて。高かったけど、がんばって買ってよかった。この日のために買ったといっても過言じゃない。
いや〜フルサイズはやっぱ違うな〜。こんなに暗くてもめちゃくちゃ鮮明に……)
「お客さま!お客さま!」
と私は肩を叩かれて、斜め後ろを振り返りました。
さあこれからシャッターを切ろう!と思ったその瞬間に、制服を着た警備員がイノシシのような形相で飛んできました。
「やめてください!」
わたしを睨んでます。
「え?写真撮っていいんでしょ?」
「業務用はダメです」
「業務用じゃないんですが……」
「そのカメラはダメです」
「え、なんで……」
「一眼レフはダメです」
もうそれ以上の問答は一切許しませんという顔をしています。
(べつにバズーカ砲みたいなレンズを付けてるわけでもないし、後ろの人の視界をさえぎるような撮り方もしてない。どんな理由でダメなんだよ)
わたしは心の中ででブツブツ言いながら、しかたなくカメラをカバンに戻しました。
盛り上がった気分に水をさされ、すぐさまスマホを取り出すのもしゃくだった私は、「写真はまかせた」と、ガラケーでパシャパシャやってる妻に託しました。
警備員から「あいつ、またカバンからカメラ取り出すんじゃないか」とずっーと監視されているような空気を感じます。
せっかくのにいちゃんの歌声がぜんぜん入ってこない。
今の時代だったら、
「一眼レフはダメです」と言われたら、
「じゃあ、ミラーレスだったらいいんですか?たとえ同じ大きさでも」
と屁理屈のひとつでも言い返してやれるのに。
ライブが終わったあと、妻のガラケーの写真をみたら、ぼやぼやした写真が大量に撮られています。
もういい加減、そのガラケー買い替えてくれ!という言葉を飲み込み、2人でため息をつきました。
それから3年後の、2016年12月5日。
健一にいちゃんは脳腫瘍のために48歳の若さで亡くなってしまいました。
自分のカメラで、自分が見た健一にいちゃんの姿を残しておけなかったことが本当に悔やまれてなりません。
せめて1枚だけでも撮らせてくれたらよかったのに……。
あの日のにいちゃんはよく笑っていた。そんな記憶があります。
笑っているにいちゃんの笑顔は、ずっと心の中の印画紙に焼き付いています。
ありがとう、健一にいちゃん。