親父と牛丼
昨日、近所の吉野家行ったんです。吉野家。
そしたらなんか人がめちゃくちゃいっぱいで座れないんです。
で、よく見たらなんか垂れ幕下がってて、150円引き、とか書いてあるんです。
もうね、アホかと。馬鹿かと。
お前らな、150円引き如きで普段来てない吉野家に来てんじゃねーよ、ボケが。
150円だよ、150円。
なんか親子連れとかもいるし。一家4人で吉野家か。おめでてーな。
よーしパパ特盛頼んじゃうぞー、とか言ってるの。もう見てらんない。
お前らな、150円やるからその席空けろと。
吉野家ってのはな、もっと殺伐としてるべきなんだよ。
Uの字テーブルの向かいに座った奴といつ喧嘩が始まってもおかしくない、
刺すか刺されるか、そんな雰囲気がいいんじゃねーか。女子供は、すっこんでろ。
で、やっと座れたかと思ったら、隣の奴が、大盛つゆだくで、とか言ってるんです。
そこでまたぶち切れですよ。
あのな、つゆだくなんてきょうび流行んねーんだよ。ボケが。
得意げな顔して何が、つゆだくで、だ。
お前は本当につゆだくを食いたいのかと問いたい。問い詰めたい。小1時間問い詰めたい。
お前、つゆだくって言いたいだけちゃうんかと。
吉野家通の俺から言わせてもらえば今、吉野家通の間での最新流行はやっぱり、
ねぎだく、これだね。
大盛りねぎだくギョク。これが通の頼み方。
ねぎだくってのはねぎが多めに入ってる。そん代わり肉が少なめ。これ。
で、それに大盛りギョク(玉子)。これ最強。
しかしこれを頼むと次から店員にマークされるという危険も伴う、諸刃の剣。
素人にはお薦め出来ない。
まあお前らド素人は、牛鮭定食でも食ってなさいってこった。
2ちゃんねるの古き良き時代のコピペだ。青春時代にこのコピペを何度も目にした古参インターネットユーザーも多いだろう。
子供の頃、日曜日の朝食は父と牛丼を食べていた。僕の家は共働きだったので、日曜日くらいは母をゆっくり寝かせてあげようとしてのことだった。
牛丼屋は、僕にとっては大人の場所だった。当時の牛丼屋は今ほどカジュアルなものではなく、客のほとんどが大人の男性で黙々と牛丼を食べていた。
僕も父と黙々と牛丼を食べた。母親と行くファミレスとは全く異なる世界がそこにはあった。キラキラとした女子供向けの要素は一切なく、互いに干渉もしない。サウナと雰囲気は似ていると思う。
子供の僕にとって牛丼屋はなかなか緊張感のある場所だった。僕の他には子供はいない。可愛いマスコットもお子様セットもない。大人の男性だけをターゲットとして、あらゆる虚飾と無駄を廃したソリッドな空間だった。
今では牛丼屋で女性やファミリー客を見かけることも普通になった。それは世の中の流れなのだろう。それはそれでいいのだと思う。
だけど、大人の男がメインの場所も多少はあっていいと思う。そこに来た子供はあくまでも「大人見習い」で、ちょっと緊張感を感じるような。
大人になった僕は、あの頃よりも「ゆるい」空気で牛丼を食べている。牛丼屋が殺伐としていた頃の残り香をふと思い出して、僕だけのトッピングにしている。