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「参加したくなるPTAコミュニティをいかにつくるか」500名を超えるアンケート結果から分かったこと

私は2018年~2021年まで越谷市PTA連合会で副会長を務めていました。昨日は「第50回越谷市PTA連合会 文化の集い」が開催され、来賓として招待されました。久しぶりに当時一緒に活動をしてきた方々とご一緒しました。苦楽を共にしてきた方々との思い出話から、私たちが連合会で取り組んだ課題についても話題が及びました。

私たち当時の連合会では、越谷市の小中学校PTA活動を支援することを目的として、市内全小中学校のPTA本部を対象に「コミュニティキャピタル診断」を受診しました。回答率は90%以上で、500名を超える方々から回答を頂きました。

PTA活動を卒業しているので、PTAに積極的に関わることはありませんが、当時のアンケート結果から得られた知見は、多くの気づきがあったので、ここで改めて紹介したいと思います。


調査の概要

今回の調査は7月と年度末の2月の2回、各学校のPTA会長を通じてPTA保護者役員にネットアンケート調査にご協力を呼び掛けていただく形で行われました。

回答者の特徴を要約すると、
・学校平均回答数は12.3人。何らかの役職についているPTA役員の平均人数とほぼ同じと考えられます。
・活動歴としては半数以上の58%が役員経験者。初めて役員を担当する人は残りの42%。
・女性の割合が87%と多く、男性はごく少数。
・役員の方の子どもの数は比較的多く二人以上の子どもがいる方が全体の90%。
・フルタイムで働いている人の割合は15%程度で、パートアルバイトで働いている人が50%、専業主婦(主夫)と考えられる方が15%。

 今回の調査では、NPOに対して行ってきたコミュニティキャピタル診断とPTAの役割に関する独自の意識調査の2つを行いました。


コミュニティキャピタル診断とは

コミュニティキャピタル診断とは、コミュニティの状態の良さを決定する3つの心理的因子に関する質問に基づいて、各メンバーが団体との間に構築してきた関係性を点数化して測定し、全てのメンバーの得点の平均値で団体コミュニティの状態を測定します。

第一因子:理念共感と貢献意欲 団体の目指すところに共感し、団体に貢献したいと感じている
第二因子:自己有用感 団体の中で自分が必要とされている、役に立っていると感じている
第三因子:居心地の良さ 人間関係が良好で居心地がいいと感じている

NPOとPTAの3つの因子の違い

NPOを対象に行ってきた調査から、団体内でいい関係性が築けている人ほど団体・組織への愛着が高いだけでなく、主観的健康感、主観的幸福感も高いことが明らかになっています。今回の結果からはNPOと同じような傾向は今回のPTA調査でも観察されました。

NPOでは3つの因子のうち第2因子の自己有用感が団体への愛着と最も強い相関関係を持っているのですが、PTAでは第1因子の理念共感と貢献意欲が愛着と強い相関を持っていました。因果関係は注意深く検証する必要がありますが、NPOではメンバーに自己有用感を持ってもらうことが大事であるのに対し、PTAでは理念共感と貢献意欲を持ってもらうことが組織の運営において大事である可能性を示唆しています。

PTAは「理念共感と貢献意欲」が低い

コミュニティキャピタルの3因子の平均値は、いずれもPTAよりもNPOの方が高くなっており、団体への愛着もまたNPOの方が高くなっていることがわかりました。その中でも第一因子の「理念共感と貢献意欲」の差は特に大きく、これとは対照的に第二因子の「自己有用感」の差はほとんどありません。3つの因子に相関があることを考えれば、PTAでは第一因子の平均点はもっと高くて良いし、自己有用感の平均点がもっと低くてもいいはずですが、実際にはそうなっていないのです。

PTA役員もある種のボランティアなので、NPOやボランティア団体と同じような結果になってもおかしくないのですが、近年はPTA役員のなり手がいないという課題を多くの学校が抱えています。自らやりたいという人が集まってPTAが組織されているのであればNPOと同じかもしれませんが、現状はそうではなく、本当はやりたくないけれども他になり手がいないから仕方なく引き受けたという方が少なくないのではないかと想像します。理念共感と貢献意欲が低いのはおそらくそのためでしょう。

そして、なり手が少ない理由の一つは、PTA役員の役割が多くの人にとっては重い負担であること。それなりの役割を果たしているから、貢献意欲は低いけれども「自分は必要とされている」という自己有用感は低くないのだと考えられます。

PTAは誰のための活動か

PTAにとって保護者役員の「理念共感と貢献意欲」が高いことが重要らしいのですが、PTAの理念に共感するというと、多くの人は、自分を犠牲にして子どものため、学校のため、地域のためという気持ちでPTA活動をするべきだと考えるかもしれません。しかし、その固定観念が「なり手不足問題」の原因になっている可能性を示す結果が今回の調査で得られました。

「PTAは子どものためになっていると思いますか?」という形式の質問を「子ども」のところを「学校」「地域」「自分」と変えて4つの質問に回答してもらいました。回答とコミュニティキャピタル診断の回答との関係ですが、子どものため、学校のためと考えている人と第一因子の「理念共感と貢献意欲」の相関関係は非常に弱く、統計学的には意味のある関係とは認められませんでした。

意外にも、第一因子が高かったのは「自分」のためになっていると考えている人たちだったのです。自分のためになっていると答えている人たちは、第一因子だけでなく、自己有用感も高く、PTAへの愛着も高いことがわかりました。

PTAというと普通は子どものため、学校のためという慈善的な気持ちで参加するのが当たり前だと思っていましたが、考えてみると、PTA活動に参加することで子どもの学校生活や地域に関する様々な情報を得ることができ、人間関係の幅も広がり、その経験を通じて学ぶことも多いでしょうから、自分のためになる要素は実はたくさんありそうです。おそらく、すべての役員さんがPTA活動に参加することで何らかの私的な恩恵を受けているのだと思います。

「PTA役員は自分のためになっていると思って参加した方がいいらしい」ということは言えそうです。「役員はやりなくない」という人に「子どものため学校のためにお願いします」という声掛けに加えて、「やってみると色々いいことありますよ」という先輩役員の経験をこれから役員になる人たちに伝えていくこともPTA活動を活性化するには効果的かもしれません。

鍵を握る人たち ―経験者―

役員経験者とはじめて役員をする人の回答を比較すると、役員経験者は第2因子の自己有用感が高く、PTAへの愛着も高いことがわかります。

気になる点は第一因子の理念共感と貢献意欲がはじめての人とほとんど同じであることです。コミュニティキャピタルの3因子にはプラスの相関があるので、自己有用感の高さを考えれば理念共感と貢献意欲はもっと高くてもよいのですが、実際にはそれほど高くありません。これは、経験者の人たちが「またやりたい」と思って役員を継続して引き受けてくれたのではないことを意味しているのかもしれません。

初めて役員をする人は何をするのかもわからないので理念共感と貢献意欲が低いのは仕方がないことかもしれませんが、経験者で自己有用感も感じている人が貢献意欲を感じられないとのだととすれば、その原因について検討してみる必要があるかもしれません。

鍵を握る人たち ―男性役員―

男性と女性には意外なほど大きな差が見られました。コミュニティキャピタル診断の回答、PTAの役割に関する意識調査のすべての質問に対して男性の方が女性よりも点数が高かったのです。しかも、その差はほとんどの項目で20%以上の差がついています。 この大きな差が生じている原因は目的意識の差にあるようです。PTAの役割に関する意識調査の4項目すべてにおいて、男性は女性よりもPTAが役に立っていると考えている人が多く、特に「自分のためになっている」理念共感と貢献意欲 自己有用感 居心地の良さ という質問の回答が女性と比べてかなり高くなっています。

8割以上が女性役員である中で、あえてPTA役員を引き受けている男性の多くは「自分のためにもなる」という強い目的意識を持って参加している人たちが多く、そのためにコミュニティキャピタルが高くなっていると考えられます。
しかし、3つの因子のうち第三因子の居心地の良さは差が小さく、様々な条件をそろえて比較をすると男性は女性と比べて居心地の良さが低くなる傾向があることがわかってきました。仕事以外の人との付き合いに慣れていない男性は女性ばかりのPTA役員の集まりの中で孤立してしまうのかもしれません。

まとめ

今回の調査結果から特に重要だと思われる点は以下の3つです。
・PTA活動に積極的に取り組んでいる人は自分のためという気持ちを持って参加している人が多い。
・経験者は重要な役割を担っているが、必ずしも高い目的意識で参加しているわけではない。
・男性の多くは高い目的意識で参加している人が多いが、居心地がいいとは感じていない。

これらの視点はPTA活動を運営していく上での参考になるのではないかと思います。今回の内容はこちらの動画で詳しく報告されています。よろしかったらご覧ください。

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