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【43〜52日目】 塹壕と除霊の日々/おともだちができたのか

2024年4月8日(月)〜4月17日(水)
24:清明 72:鴻雁北(こうがんきたす)〜虹始見(にじはじめてあらわる)

ここで指す除霊が何であるのか、もう書きたくない。
(前回までの日記に少しあり)
とにかく、部屋に霊がとりついているような、床下に死体が埋まっているまま生活しているような日々だった。
戦場に送られた兵士はこんな心境で生きているのだろうか。呼吸が深くできるわけがないし、私にとっては命の危険とまったく変わらない恐怖に常につきまとわれているに等しい。「これからどんなひとり暮らしをしよう」なんて先のことなんて考える余裕もないし、なんなら、ひとりで寂しいだなんだの段階にもない。
もっと前段階の、ピラミッドの最下層が完全に揺らいだなかで2週間以上を過ごした。

ちょこっと除霊をするたびに霊がヨロヨロと出てくる。
というわけで、日曜の夕方、物件全体の除霊を行い、猫たちに謝りながら、そのまま荷物を持って部屋を出て、ひとばん実家に逃れてきた。
翌朝両親とともに部屋に戻ると、小さい霊がひとつ上がっていた。

さらに霊の入り込む隙を塞ぎに塞いだ。これで霊の予感が数日なくなり、次の全体除霊の時に何も上がらなければ、ある程度除霊はできたと少し安心できるのかもしれない。

そんなこんなで夫の一時帰国までの8か月のうち、1/16がようやく終わった。

犀川下流育ちの私にはまぶしい、法島公園。
金沢市の小学生は、一度は遠足で川沿いを歩いてこのへんまで来る

出かけている間と仕事している間だけは少しは霊のことを忘れられる。
先日再会したT子さん(昔のバイト先の同僚)がマメに私に声をかけてくれることに本当に救われた。
表面張力で満開を保っているかのような完璧な花冷えの日に、犀川沿いの花見に誘ってもらった。
メンツはT子さんの今の同僚Cさんと、T子さんが金沢に嫁いだ際ウェディングのもろもろを手がけたのがきっかけで最初に友達になったという、デザイナーのKさん。30代ひとり、40代わたし、50代ふたり。
妙齢の女性4人、道すがらとにかく草花が気になる。これは胡桃の木ではないか、秋になったら来よう! などど思ったことを口にしながら気ままに川沿いを歩く。

Kさんが「ドナウ川」とよんだせせらぎ

みんな、犀川寄りの「まちなか」に住んでいる。しかも、T子さん以外は北陸出身だというのに、私を含めほとんどクルマに乗らない生活をしている。やはり金沢にはそういう層もちゃんといるのだ。

川沿いを歩き、Kさんの「遊び場」であるという別宅に遊びに行く。古い長屋(そんなに風情のある町屋などではない)を安く買い、2年かけ自分たちで修繕したそうだ。修繕にはT子さん夫妻も大いにかかわっている。
京都の浄土寺ホホホ座の向かいにいま系列の宿があるが、ちょうどあんな感じの細長い空間で、新しく貼った木の香りが素晴らしく、清潔で、今すぐにも泊まりたくなるような場所だった(そして自分の自宅を思った)。

1階はまだ工事中で、正直階段で足を踏み外したら大ごとになるような場所なのだが、みな大人だし、当たり前のように自己責任でそこにいた。

酒を呑まず猫を留守番させている私は皆より少し先に自転車で帰った。塹壕に暮らしている自分と、こんな大人たちの間で過ごした自分とのギャップに狐につままれたような気持ちで、完璧な夜桜を眺めながら桜橋と桜坂を通って帰った。

寺町台地を越えるために新桜坂か蛤坂を上下する日々である

しばらくは落ち込んだ。お決まりの自分反省会だ。
助けて「むき身クラブ!」と叫びたかった。
みんななんて自然体なんだろう。活発であちこち顔が広く明るいT子さんはもちろんのこと、Kさんは地方にありながら、フリーのデザイナーとして完全に身を立てて長年生きている。それにCさん、若いのに落ち着いていて、おとなしそうに見えてぽそっと面白いことをいう、沈黙を恐れないあの感じ、私からいちばん遠いものだ。うらやましい、うらやましい、という気持ちがねっとりと伝わっていないか心配になる。
なぜ私だけがこんなに必死なのか。なぜ私だけがこんなにこじらせているのか。

その後、T子さんの伴侶(はたから見ると本当に理想の夫婦)が、私と同病を持っていて、T子さんは私の夫の役割を担ってきたと知るのだが。

次にあのメンバーで会えたら、私ももう少しニュートラルでいられる気がする。

運転用に度付きサングラス購入。店員さんがフレームとレンズの色をほめてくれてうれしい。
JINS金沢フォーラス店のさんみんないい人
キャンドゥ生まれのパキラ(猫にも安全)。
葉っぱがやたら多いのでひとまわり大きい鉢に植え替えてみた
パワーが必要でした、土買ったり鉢買ったりは

メモ。
・犀川沿いからKさんの別宅へ行くまで20分くらい歩いたと思うが、その間、一軒もコンビニがなかった。街の中心部で、どこかへ帰る道すがら寄るコンビニがないというのが、私には心もとなすぎて驚きの体験だった。でも、私以外は何も感じていないようだった。これから家飲みしようとしているというのに、「なんか買って帰るような店がなくて不便なんだよねー」なんて言葉はひとつも出てこなかった。15分も歩けば絶対どこにでもコンビニがある東京、異常だぞ。

・改修前のKさん別宅を掃除したT子さんいわく、「本当に汚かった。でも自分たちで掃除したからこそ、今は心からここが綺麗だと思える」と言っていたのが印象的だった。長屋なので日当たりがよいわけでもないのに、私もいい気が流れていると思ったのだ。私も今の部屋を早くそうしたい。

・一人暮らしのCさん、なんと、「私も今の部屋に住んだとき2〜3回(霊と)闘いました」とのこと。もう眠れない夜は嫌なので、月に一度のペースで除霊をするようになってから、木造アパートながら、もう現れなくなったとのこと。希望になった。

・Kさんのようなライフスタイルが羨ましくてまぶしい、的なことを私が言うと、「私からみたら、春ららら市に集まっているような人たちのほうが、まぶしい」とKさん。確かにそうとも言えるかもしれない。私はどちらなのか。

泣きながら実家へ帰る。母校の桜
お留守番させてごめんね。これからも2週間に一度、除霊→実家に泊まることにしました


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