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『荊棘の道は何処へ』から見る、暁山瑞希と配慮されることの恐怖

ついに来てしまいました。瑞希が自分自身と向き合い、そして今まで話せずにいたことについて絵名に打ち明ける回が。

あまりにも打ち明ける姿にふさわしくない絵とともに。

ということでこんにちは、恋心ミルフィーユです。プロセカ初期からずっと追っていてニーゴ(特に瑞希関連)に関しては毎回ブログで感想を書いていたのですが、最近はご無沙汰でした。

というのもプロセカから離れてしまっていたんですよね。ソシャゲが続かない質なもので。進級するまではシナリオは追っていたものの、ここ1年くらいは曲が来たら聞くくらいのゆるーい距離感でいました。

しかしもうね、このような場を設けられてしまっては仕方ない。半日かけてニーゴ関連のシナリオは全部読み、最速で『荊棘の道は何処へ』も読んできました。

今まで向き合えずずっと待たせていた瑞希がついに絵名に向き合うこの回。感想を一言で言うと

凄い。凄すぎた。

運営の描くジェンダー観の解像度があまりにも高すぎる。不穏とか曇らせとかのように描かれていたこの瑞希の苦悩を、このような形にまとめ上げることができる技量に度肝を抜かれました。この内容、シナリオ監修(というかシナリオ班)に当事者がいなければ生まれない目線すぎます。

瑞希の抱える問題、そしてジェンダーでの葛藤の描き方についての感想を語っていきたいと思います。当然ですが、

シナリオを読んでから続きを読んでください。


隙自語

隙があるので自語りさせてください。(別に読まなくても大丈夫です)

私自身はトランスジェンダーです。常に『可愛い』を求め続けていた瑞希と違い、私は『可愛い』が好きなのを表に出せない側の人間でした。

自分自身が生まれた性別のことを憎み、周囲からの「男らしく」のような言葉が棘のように深く刺さり、そしてどうしようもない現実に向き合うことも出来ず、ただただ受け入れられない現実に嘆くだけでした。子どもの頃は右向け右のような性格のため受け入れてはいたものの、大人になるにつれて自分自身がどうなりたいかどうありたいかが完全に迷子になってしまい、一度心を壊していました。

そんな私を救ってくれたのは暁山瑞希さんでした。ちょうど4年前ですね。

どれだけ苦しくても自分の信じる『可愛い』を貫く強さ、そしてどうしようもない事実にもがき苦しむ弱さと脆さに、絶望の底にいた私は手を差し伸べられた気がしました。

『ボクは、ボクでいたいだけなのに』

自分らしい自分でいる。皆が当たり前のように思っていることも、当事者にとってはかなりハードルの高いものとなっています。向き合うことが出来ずに諦めてしまう人もいます。しかし瑞希はどれだけ苦しくても、常に「自分」を信じていました。

そんな瑞希のおかげで生きる希望を貰いました。自分自身も変わろうと思い、1からすべての勉強を始め。試行錯誤の日々を過ごしました。いわゆる性別移行というやつです。

私自身はノンバイナリー(性別が無い)なのですが、どのように過ごしたいのかを暗中模索のなか探り続け、手術もし、名前も変え、今ではかなり自分の中でも結論を出すことが出来るようになりました。昔の写真に「垢ぬけてねぇなぁ~w」と笑えるくらいには。

私自身はオープンでいます。隠すつもりは特にないし、その方が自分の性格にあっていたので。

ですが、周りがどう思うかはまた別問題です。私自身好きな服着て自由にメイクして見た目のパス度はかなり高いと思っているものの、そのような人から低い声が出たら相手がどう思うのか何を感じるのかについては私は干渉することができません。また、インターネットの文字だけで知り合った仲の人と話すときなど、疎外感を覚えることも少なくありません。

ふとした拍子に今までの関係が崩れてしまうことへの恐怖、そしてシス女性と自分は一生同じラインに立つことはできないという劣等感(これはノンバイナリーだと自覚した今でもずっと残っています)は、一生消えないことでしょう。

めっちゃ自語りしていましたが、本筋に戻ります。

語ることの恐怖

正直、プロセカ運営は私の想像を一瞬にして超えてきました。

瑞希が絵名に自身の秘密を打ち明ける回ということで覚悟をしていましたし、私も周りも「えななんがどう受け取るんだろう」「えななんなら大丈夫」のような受け取る際の衝撃についての言及が多くみられていました。

しかしイベント開始時点から、瑞希はその先を見ていました。拒絶されるとは思わないし、受け入れてもらえる。でも「傷つけないようにしなきゃ」「気をつけなきゃ」と絵名たちに配慮をさせてしまうことが一番の問題なんだと。

もうこの時点で、私の負けです。話の作り方が上手すぎる。絵名なら奏ならまふゆなら大丈夫…と思っていた私が浅かったです。大丈夫だとわかっていても、受け入れてもらえても、壁ができてしまう。その壁は3人が作り出すものではなく、瑞希の心に。3人が特に変わらなくても、気を遣わせてしまった「かも」という瑞希の負い目は、消えることはないのだから。


そんな瑞希の隣にいられる存在としての類が、本当に素晴らしい。この懐の広さ、本当に高校生か!?『願っているよ』と、この言葉を出せる高校生がいていいんですか…?

君の痛みは君だけのものであり、僕の痛みは僕だけのもの。瑞希のことを誰よりも知っているからこそ、瑞希の苦しみは誰にも理解できないことを知っている。干渉しようとはしない。知ったような口をきかない。でもそばにいることはできる。

この『願い』という言葉一つに、類のそのような気持ちが詰まっているように感じました。『応援』は時としてその思いを相手に背負わせてしまうことにもなり得る。だからこその『願い』なんだなぁと。


語られることの恐怖

この物語の結末が、アウティングによって壊されることは、バナーによって明らかになってはいました。

1年前に絵名に打ち明けられないときは『いっそのこと、ボクの代わりに、誰かが全部話してくれたらいいのに』と、自分自身が前に進めないことへの葛藤が誰かによって壊されてしまえば楽になれると思っていたのに。奇しくもそれが叶ってしまう。

まずはじめに言っておくと、アウティングは絶対に許されない行為です。

アウティング
アウティングとは、人のSOGI(性自認、性的指向)を、LGBTQ+ 当事者の許可なく他の人に言いふらしたり、SNSなどに書き込み暴露することをいいます。
  LGBTQ+ についての情報を得るときに、必ずと言っていいほど出てくる「カミングアウト」。そんなカミングアウトと似ているようで全く異なるのが「アウティング」。カミングアウトは当事者が自分で相手にセクシュアリティを打ち明けるものであることに対し、アウティングは自分でなく他の人が勝手に行うという点が大きく異なります。  
セクシャリティは非常にプライベートな情報であり、個人のアイデンティティ、個人情報の一つです。どのような理由であれ、これを本人の了承を得ないまま他者が公表することは、プライバシー侵害、選択の自由の侵害問題や職場や様々なコミュニティでの人間関係の問題にも引き起こすことがあり、実際にアウティングに対する訴訟や法整備が日本でも行われています。

アウティング | SDGs用語集 | 一般社団法人 日本ノハム協会

たとえ、本人が隠していないような素振りをしていたとしても、他人がべらべらと話していいものではありません。

これは性的マイノリティーに関わらず、すべてのことに言うことができます。抱えているもの、抱えていること、それはその人だけのものであり、他者が勝手に干渉していいものではありません。たとえこのような雑談の場でも。

正直私としてはこの一連の流れ、「モブカスがよぉ~~~?」という気持ちはありつつも、シナリオ班の手腕にただただ驚かされていました。

これまでの瑞希の描き方として、性について絶対に直接は触れない姿勢を取っていました。瑞希本人や姉はもちろん、モブ生徒の言動でも全て統率されていただけに、そのような状態でどのようにして瑞希の結末を描くのかが想像つきませんでした。「実は…」で画面が暗転して全てを話した描写にするくらいしか想像がつかなかったから、この「絵名を対象にすることで直接語る」という手法を取ってくるのは、上手すぎる…。


そして『普通』という言葉の暴力も…。今回のシナリオ、瑞希のことをこれまで追っていた人ほどダメージが大きく、そして今まで提示されてきた問題を一気に総ざらいしていく内容になっているのが、本当に凄いです。(私は1年くらい追ってなかった身ですが)

この世に『普通』なんて存在しない。可愛いことが好きだって何も問題は無い。自分の好きを無理に捨てないでいい。『そしていま、リボンを結んで』や『変わらぬあたたかさの隣で』などで最近描かれていた物語は特に、この『普通』というものの在り方を否定するような構成になっていました。姉が瑞希の世界を広げてくれる。ボクはボクでいていいと示してくれる。

でも現実はそうはいかない。本人がいくら納得しようと、外野まで同じ解像度で物事を見ていることなんてないのだから。外の世界には『普通』も『異常』も存在する。文句や悪口でしか会話が出来ない人や、セックス中心で生きている人、男だ女だということを当然のように求めてくる人なんて見渡せば限りなくいる。

私自身も吹っ切れて生きることができるようになったものの、やっぱり人の目には敏感にはなっているから…。相手の視線が、相手の言葉が、自分のことをどのように見ているのかを伝えてしまう。『普通』を意識しないようにすればするほど、『普通』を意識してしまう。この普通の暴力は、個人的には読んでいて一番キツかったです。


演出という面では、スチルの迫力も…。

瑞希と絵名の顔はもちろんだけど、これまでのスチルが一気に流れる瞬間。本当にこれまでの記憶を全て破壊されてしまうような衝撃がこちらにも届いてきて、冷や汗というか涙というか…なんかもう全てが溢れてしまいました。

向き合えない恐怖

この2人の物語の問題点は、瑞希の秘密を絵名が抱えきれるかどうかというところにはありません。先にも語ったとおり「配慮されてしまうことでこれまでになかった壁が生まれてしまう」ことにあります。

この配慮されてしまうという感覚、本当に当事者はめっちゃくちゃ感じます。もうそれは生きている間ずっと。人と人の付き合いでももちろんそうですが、特に社会のルールにおいて。「存在が例外」みたいなものだから、トイレではどうする、更衣室はどうする、保険証はどうするなど、私もかなり周りに迷惑をかけて生きています。会社では柔軟に対応してもらえるものの、柔軟に対応させてしまっていることで生まれる疎外感というものは、実際あります。

人との関係でも「全然気にしないでいいから!」と私が笑いながら言っても、聞く相手も同じ笑顔で返せているとは限らない。ふとしたとき、ふとした瞬間のやさしさ(配慮)が、お前は違うと叩きつけられるような感覚に勝手に陥ってしまう。誰も悪くない、悪くないからこそ、心が締めつけられてしまうのです。


このイベントは前半戦なわけですが、どのように後半戦が繰り広げられるのかは私にはもう想像がつきません。いっそのこと拒絶される方がよかった。仲をたがえるだけなら、ほどけた糸をもう一度結び直せばいいだけなのだから…。

瑞希は絵名と向き合えないと言っていますが、一番向き合えていなかったと感じているのは絵名の方なんだと思います。このような事態に陥っても、瑞希にどのような言葉をかけていいのかわからない。何をすればいいのかわからない。もちろん絵名自身は瑞希と向き合えていないわけではないのですが、拒絶する瑞希を引き留めることができなかったから…。どちらが悪いわけでもない。だからといってモブカスに責任を全部擦り付けることもできない。結局は2人の問題だから。


今回のイベントはかなり苦しいところで終わってしまいましたが、自然と心は冷静です。曇ってはいません。それはシナリオ班がめちゃくちゃ瑞希を尊重したシナリオを丁寧に組み上げてくれたからです。アウティングという結果になったとはいえ、かなり繊細に綿密に話を組み上げていたことは伝わります。

プロセカのシナリオ班、当事者目線の解像度が高すぎます。配慮されることについてここまで真摯に描かれるとは全く想像していませんでした。私が浅はかでした。最初に書いたんですが、当事者の監修が絶対に入ってると思うし、もしシナリオ班が全員シスストレートだったら脱帽…というか、どれだけの文献を読んで研究したのかと恐怖すら覚えてしまいます。


そして絵名。絵名なら大丈夫という信頼があるからこそ、後半に希望を持つことが出来ます。私はただ見守ることしか出来ない、こうやって野次を飛ばすことしか出来ませんが、絵名なら瑞希の手を掴むことができる。

だって絵名は、溺れている人がいたら真っ先に飛び込むような子だから。後先なんて関係なく今苦しんでる人を助けにいける子だから。自分が傷つくことを恐れない…そうやってみんなの殻を破ってむりやり侵入することで、メインストーリーではまふゆを救い出すことが出来たんだから。聡いせいで自己完結してしまう瑞希の手を、無理やり掴んで!!!壁を壊して!!!!!

類は「背負わない」ことで瑞希の隣にいることができた。絵名は「全てを背負い」隣に立つ子だから。

絵名ならなれる、ラフ・メイカーに。


追記(2024/10/29)

現在、このイベントを皮切りに瑞希に対し様々な意見や感想、考察などがたくさん出てきています。瑞希に共感する者、現状を俯瞰した考察をする者、そして現在のLGBT等マイノリティーが抱える問題と重ね合わせ考えてくれる者など、私自身読んでいてかなり勉強になるものばかりでとても嬉しいです。


ですが中には瑞希の「男性性」を強調する、瑞希が身体的男性ということだけに注目した感想や二次創作も数多くみられるようになりました。ですのでここではっきりと言わせていただきます。

瑞希の男性性を肯定することは、その人に死ねと言ってるということであり、人格を、人間を、全て否定しているということを。

奏に「音楽で親を殺せてよかった」と言わせる事と、

まふゆに「母親の言っていることは全部正しい」と思わせる事と、

絵名に「絵なんてなんの価値もない」と失望させ完全に筆を折らせる事と、

同義だということを。

ここまで読んでくれているあなたなら、きっとこれは間違っていると気づいてくれていると思います。改めて、暁山瑞希という人について、向き合ってもらえると助かります。


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