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VOL. 09 禁断の愛を越えて

  • 今回から,私のコメントは箇条書きで書くことにします.

02月27日(土)

■駅のホーム

羽村先生,二宮家からの帰りの駅のホームで蛻けの殻状態.


さっきのことがリフレインする羽村先生.

「娘ですよ」
「12のときです」


「向こうの部屋が,私の書斎です」
「娘は多分,今そこにいるでしょう」

電車が来たことにも気付かない羽村先生.


またさっきのことを思い出す羽村先生.


電車は行ってしまったが……

03月01日(月)

■2Bの教室(生物)

羽村先生,繭と父親との関係を知ったあとの初めての2Bでの授業.

教室に向かう羽村先生.

羽村先生教室に入る.

生徒:「起立,礼,着席」

繭は学校を休んでいる.

  • 小説版では2日間休んだことになっている.

心の中で小さく安堵のため息を漏らしていた.

あのときの僕は……

キミの顔をまともに見ることすら,きっとできなかったから.

03月04日(木)

■井の頭公園駅前

繭が四日振りの登校.

後ろから来た生徒がぶつかってきて……

繭の鞄が落ちて……

大仏キーホルダーが踏んづけられてしまう.

生徒:「ごめんなさい」

踏まれた大仏キーホルダーを……

見る繭.

学校に行くのを躊躇してる感じ.

■正門前

正門前では服装検査.

登校してきた繭に気付く羽村先生.

繭の方も,羽村先生に気付いた模様.

視線をそらす羽村先生.

繭はゆっくり歩いて……

羽村先生の前へ.

繭と羽村先生対面.だが,羽村先生は繭と目を合わせることができない.

繭:「おはようございます」
羽村先生:「おはよう」

羽村先生:「はい,行ってよし」

■生物室(2Bの授業)

ビデオ視聴中.

ビデオが終了したが,羽村先生は心ここにあらずで,それに気が付かない.
生徒:「先生.先生」

羽村先生:「ん?」
生徒:「終わりましたけど」

羽村先生:「ああ」

授業終了のチャイム.
羽村先生:「じゃあ,今日はここまでにします」

生徒:「起立,礼」

羽村先生:「二宮君」

呼びかけに,羽村先生の方を見る繭.

羽村先生:「明日の放課後,追試があるからね」

繭:「はい」

■いつものラーメン屋

羽村先生,新庄先生,夕飯.

新庄先生:「たまに電話あるぐらいや.すっかり向こうのうちに慣れてしもたんやろなぁ」

新庄先生:「いや,別にな,泣いて戻ってくるとか,そんなことを期待したわけやないねん」

新庄先生:「はぁ,息子ってしょうもないわな」

羽村先生:「娘だったら」
新庄先生:「ん?」

羽村先生:「女の子だったら,違う愛情を抱いたりしましたか」

新庄先生:「うーん,そらなぁ,悪さしてしばくとこでも,娘やったら,こうデレッとして大目に見るかとか,あるかもしれんわなぁ」

羽村先生:「性的な意味での愛情はどうです?」
新庄先生:「え?」

新庄先生:「ああ,嫁にやるとき,親父が冗談半分に言うてるわな.つまらん男にやるんやったら,自分が先にちゅうて」

新庄先生:「けどな,アメリカやったら,もうマジにこう娘に手ぇ出す父親おるかもしれんけど,今の日本じゃな.昔やったら別やけど」

羽村先生:「そうでしょうか」

新庄先生:「なんやこれ,陰気な話しやな.ザーサイ」

羽村先生:「娘の方はどうなんですか」

新庄先生:「え?」
羽村先生:「どういう気持ちでそんな」

■直子の家

夜,繭が直子の家に.

直子の背中をマッサージしてる繭.

二人でレンタルビデオを見ている.

直子:「このビデオ,前に見た.失敗だったなあ.タイトルまでなかなか覚えないからさ」

直子:「あ,もういいよ」

直子:「のど乾いたね.なんか持ってくる」

映画のキスシーンを見て……

微妙な顔になる繭.

ビデオの再生を止めて……

他に何かないか探す繭.

タイトルのないテープを見つけて……

デッキにテープを入れて,

再生すると……

そこに写っていたのは藤村先生と直子だった.

部屋に戻ってきた直子がお盆を落としてしまう.

気まずい空気の直子と繭.

直子:「消して!」

再生を止める繭.

繭:なお

直子:「参ったな.畳みに染み込んじゃった」

繭:「赤ちゃんも?」

無言のまま頷く直子.

直子の妊娠の事情を知った繭.

03月05日(金)

■視聴覚室

繭が早朝に視聴覚室に入り,ビデオを探す.

直子:「元のテープ,先生が持ってるの」

■職員室

藤村先生:「おはようございます」

■視聴覚室

繭,視聴覚室に無いとわかり準備室へ.

■職員室

藤村先生,視聴覚室の鍵がないことに気付く.

藤村先生:「宮原先生,斎藤先生,もういらしてるんですか」
宮原先生:「いいえ,まだいらしてないと思いますけど」

■視聴覚準備室

繭,ビデオを探すが,なかなか見つからない.

廊下では登校してきた生徒の声が聞こえる.

生徒:「寒いねぇ」「嫌んなるよね」「でも,朝練行かないとさあ」

焦りの色を隠せない繭.

藤村先生のロッカーに目を付ける繭.

■外通路

急ぎ足で視聴覚室に向かう藤村先生.

■視聴覚準備室

ロッカーには鍵がかかっていて開かない.

テープカッターに目を付け,

ロッカーの扉の取っ手を叩き壊す繭.

直子:「誰にも言わないでね.卒業までの我慢だと思うし.あたし,怖い」

藤村先生のロッカーを破壊.

中にあったビデオを探し出し,持ち出す.

■視聴覚室前廊下

早足でやって来る藤村先生.

■視聴覚準備室

藤村先生が視聴覚準備室に入るが……

ロッカーを確認する藤村先生.

ビデオを持っていかれたことに驚きとショックを隠せない藤村先生.

■昼休みの生物室

生物準備室の扉が開く音.
新庄先生:「羽村先生」

羽村先生:「はい」

新庄先生:「ああ,危ない危ない危ない」

新庄先生:「ここ,ビデオ再生できたな」

羽村先生:「ええ,見れますけど」

新庄先生:「あぁ,これなんやけどな」

羽村先生:「何ですか」

新庄先生:「いやぁ,今朝,オレの机の上においてあったんや」
羽村先生:「変なビデオじゃないでしょうね」
新庄先生:「男子校やったら,エロビデオの没収もあるけど,女子校やからな」

ビデオ再生.

羽村先生:「今,コーヒー入れますから」
新庄先生:「あぁ」

再生が始まった……

が……

想定外の内容に凍りつく二人.

■視聴覚室

藤村先生の英語の授業.

授業中,藤村先生はかなり苛ついている.

誰がロッカーを荒らしたのか計りかねている様子.

授業終了のチャイム.

藤村先生:「それでは,今日はここまでにします」
生徒:「起立,礼」

生徒:「先生,来年から担任持つって本当ですか」
藤村先生:「随分早いね,情報が」
生徒:「あたし,絶対先生のクラスにしてね」「あたしも先生のクラスがいい」

藤村先生:「そんなこと,ボクに言われても困るなあ.ボクが決めるわけじゃないんだから」
生徒:「えー,やーだー」

教室の後ろで藤村先生を睨み付ける羽村先生と新庄先生.

二人が教室の後ろにいることに気づく藤村先生.


羽村先生と新庄先生がビデオの件で藤村先生を問い詰める.

ビデオテープを藤村先生の前に置く.

藤村先生:「そうですか,準備室を荒らしたの,あなた達の仕業ですか」

羽村先生:「僕らじゃありません」
藤村先生:「じゃあ,誰が?」
新庄先生:「そんなこと,どうでもええやろ!」

藤村先生:「そうはいきませんよ.学校の備品もいくつか壊されてますからね.れっきとした犯罪行為ですよ」

新庄先生:「これが犯罪やないって言うんかい!」

戒める羽村先生.
羽村先生:「新庄先生」

藤村先生:「野蛮人はすぐに怒り出す」
新庄先生:「なに?」

羽村先生:「ボクには先生の方が野蛮に見えました」

藤村先生:「中を見たんでしょ? 野蛮とは心外だな」

藤村先生:「奇麗に撮れてんのに」

藤村先生につかみかかる新庄先生
新庄先生:「このガキ!」

止めに入る羽村先生
羽村先生:「先生,新庄先生,暴力は」

藤村先生:「そう,暴力はいけませんよ.そんなことをしても何の解決にもならない」

藤村先生:「つまり,このことは表沙汰にはできないわけですからね.いや,ボクはどちらでも構いませんけどね」

藤村先生:「学校側に知れても,おそらくマスコミや父兄を気にして隠蔽するでしょうから,ボクは謹慎処分か,せいぜい,転勤になるくらいでしょうね」

羽村先生:「警察に知らすことだってできますよ.ここに証拠があるんですから」

藤村先生:「ふ,そんなことできないのはわかってるくせに.生徒の一生,台無しになりますよ」

新庄先生:「貴様ぁ.貴様,生徒に何したかわかっとんのか! 妊娠までしとんやぞ!」

藤村先生:「そのこと考えると,ボクも胸が痛みますよ」

藤村先生:「多分,あなた達よりずっとね!」

新庄先生:「聞いたようなことを抜かすなこらぁ!」

殴りかかろうとする新庄先生を何とか止めに入る羽村先生.
羽村先生:「ボクは先生を見損ないました.優れた教育論は,立派な教師だと思ったのに」

藤村先生:「現代の女性には絶望してるんですよ.ボクだけじゃない.あなた達も含めたすべての男性がね.彼女たちは,すべてにおいて利己的です.愛情さえもね」

藤村先生:「純粋な母性を本能的に持ってるのは,性体験のないティーンの間だけだ」

藤村先生:「無論,個人差はあるでしょうけどね」

藤村先生:「羽村先生だったら,わかって下さると思ったんですがね」

準備室を出て行こうとする藤村先生.
羽村先生:「どういう意味ですか?」

藤村先生:「生徒との恋愛だったら,面倒になれば捨てればいい」

藤村先生:「彼女たちの年齢だったら,傷が癒えるのも早いですからね」

出て行く藤村先生.

新庄先生:「狂っとるわ」

新庄先生:「オレは何もしてやれんのか.このまま泣き寝入りせえいうんか」

■バルコニー(?)

動悸息切れ目まいの藤村先生.

■放課後の体育館

直子が剣道着を着て準備体操.

新庄先生遅れてやってくる.

素振り中の直子.新庄先生に気付く.

直子:「遅いぞ!」

新庄先生:「すまんすまん」

■放課後の生物室

繭に対する生物の再テスト.

ペンを置いて……

答案用紙を裏返す繭.

羽村先生:「まだ10分ぐらいあるよ」
繭:「わからないのは,わからないから」

羽村先生:「キミは……もう,学校へは来ないかと思ったよ」

何か言いたげな繭.

答案を持って……

答案を手渡す繭.受け取る羽村先生.

羽村先生,教壇へ移動.

繭は席に戻る.

羽村先生,採点を始める.

自席でそれを見守る繭,
羽村先生:「『環境』って字が違ってるなぁ」

羽村先生:「いいよ,おまけする」

赤鉛筆の芯が折れる.

繭が自分のペンを取り出し,

羽村先生に差し出す.

羽村先生,繭のペンで採点再開.

繭は教壇前で採点を見守る.

羽村先生:「74点」

羽村先生:「合格だ」

無言のまま軽く頷いて……

席に戻る繭.

筆記用具を片付け,鞄にしまう繭.

羽村先生,ペンを持って繭のそばへ.

目を合わせられない二人.

羽村先生:「誰か……力になってくれる人」

沈黙が流れる.

羽村先生,ペンを置いて……

教壇に戻ろうとするが……

繭:「やっぱり……本当は……凄くショックだった.先生には……一番,知られたくなかったの」

繭:「いっぱい,嫌われると思ったから」

繭:「けど……どこかで,ホッとしたとこもあって」

繭:「きっと……いつも……どこかで……びくびく怖かったから」

繭:「それに……ひょっとしたら……ひょっとしたら,先生なら」

繭:「だから,頑張ってきたの.一生懸命来たの」

繭:「けど……やっぱり,先生は,ヤダよね.こんなあたし,ヤダよね」

繭:「あたし……」

精いっぱいの笑顔を作る繭.
繭:
「先生のこと大好き」

繭:「さよなら」

繭,生物室を出て行く.

■校内

帰って行く繭.

途中立ち止まる.

帰って行く繭を見続ける羽村先生.

■相沢家

直子が学校から帰ってくる.

直子:「ただいま」

直子が帰宅すると,藤村先生が店のキッチンを掃除しているところだった.

藤村先生:「お帰り」

藤村先生:「お母さん,買い出しに行ったよ」

直子:「何してるんですか」

藤村先生:「キッチンが少し汚れてたからね.掃除してたんだ」

藤村先生:「もちろん,お母さんに断ってね」

藤村先生:「大変らしいね.女手ひとつでキミを育ててさ.ボクは,いい聞き手らしいよ.お母さん,少し泣いてらしたからね」

直子を殴り倒す藤村先生.
藤村先生:「ボクのロッカーを壊したお仕置きだよ」

さらに殴る藤村先生.床に倒れ込む直子.

藤村先生:「こそ泥みたいな真似は,ボクは嫌いだ」

直子:「なんのことですか」

今度はケリをいれる藤村先生.

藤村先生:「とぼけるのはよせ!」
咳き込む直子.

藤村先生:「今日ねぇ,羽村と新庄がボクのところに来たよ.ビデオを持ってね.奴らもすべて知ってしまった.キミはそれで助かるとでも思ったのか」

藤村先生:「やつらにはなんにもできやしないさ!」

直子を抱き起こす藤村先生.
藤村先生:「ふふ,見せたかったよ.奴らのバカ面をさ」

藤村先生:「殴ったりして悪かったね.けど,キミがボクに対して従順でいてくれないからだよ.ボクはただ,キミに愛して欲しいだけなんだよ.痛かったか.ごめんよ」

果物ナイフに目をやる藤村先生.

ナイフを持って直子の目の前にかざす藤村先生.

藤村先生:「キミと同じ痛みをボクも味わうよ」

  • あの,ナイフを引くとき『メリミリメリミリ』って嫌な音するんですけど……

あまりのことに声も出ない直子.

藤村先生:「次は,僕たちの赤ちゃんの痛みだ」

藤村先生,今度は自分の腕を切りつける.

それを見た直子は……

気絶.

藤村先生:「そう,それでいいんだよ.やればできるじゃないか」

03月06日(土)

■登校途中

新庄先生,直子を見つける.

新庄先生:「おっす」

直子は俯いたまま,黙って行こうとする.

新庄先生:「どないしたんや」

直子,アザになった顔を新庄先生に見られる.

新庄先生:「その顔,どないした」

直子:「階段で転んだの」

新庄先生:「藤村か」
立ち止まる直子.

怒りが湧き上がる新庄先生.

■職員室

新庄先生,職員室に入るなり,藤村先生をフルボッコ.

藤村先生:「おはようございます」

間髪を入れずに思い切り殴る新庄先生.

藤村先生:「何するんですか」

さらに殴って,

藤村先生の足にケリをいれ,

顔を机に叩きつける新庄先生.

羽村先生が出勤.

すぐに止めに入る.
羽村先生:「先生,新庄先生.やめて下さい!」

藤村先生は職員室から逃げ出す.

■教室(2B)

藤村先生は2Bの教室逃げ込むが,

追いかけてきた新庄先生は構わず殴る.

床に倒れた藤村先生をなおも執拗に殴り続ける新庄先生.

羽村先生:「新庄先生.先生.警察が来て問題になりますよ.よく考えて下さい」
新庄先生:「そんなもん知るかあ」

羽村先生:「先生もクビになりますよ」

新庄先生:「教師の前に,オレは人間じゃ!」
投げ飛ばされる羽村先生.

逃げる藤村先生と,それを追っかける新庄先生.
羽村先生:「先生!」

■屋上

藤村先生,屋上に逃げる.

が,新庄先生の勢いは止まらない.

逃げる藤村先生をつかまえてさらに殴る.

遅れてやってきた羽村先生.

馬乗りになって殴り続ける新庄先生.

羽村先生が何とか新庄先生を抑える.
羽村先生:「もういいでしょう」
新庄先生:「離せコラ!」

羽村先生:「死んじゃいますよ!」
何とか新庄先生を藤村先生から引き離す羽村先生.
新庄先生:「離せ! 離せコラ!」

羽村先生:「いけません!」

藤村先生が本音を吐く.
藤村先生:「ボクは何も悪いことをしてないのに」

藤村先生:「悪いのは,悪いのは僕を愛さない女達じゃないか」

藤村先生:「愛されることばかり求める女達じゃないかあ!」

立ち上がる新庄先生と羽村先生.
藤村先生:「ボクはただ……ボクはただ……誰かに愛されたかっただけなのに」

生徒達が屋上まで上がってきて,遠巻きに見ている.

藤村先生:「二人で……二人で,小さなうちを買うんだ.子犬をもらって」

藤村先生:「子供は多い方がいい.一人っ子はかわいそうだから.彼女は,いつもやさしくボクに微笑みかける.まばたきをするのも怖がるぐらい.いつも瞳の中にいる,小さなボクを捕まえようとして」 

藤村先生:「そして彼女は,子供たちにこう言うんだ.『ママは,パパが大好き.世界一好きなのよ.永遠に』」

泣き崩れる藤村先生. 

■警察署

新庄先生が警察で事情聴取される.

事情聴取が終わって,警察署から出てくる新庄先生.

羽村先生,表で待っている.

■池のほとり

羽村先生:「事情聴取では何て?」
藤村先生:「前から気に入らんから,しばいたんやってな」

羽村先生:「職員会議が緊急で開かれました」
藤村先生:「あぁ」
羽村先生:「とりあえずは,謹慎処分ということですが」
藤村先生:「わかってる.生徒のいてる前でのことや.どっちみちクビやろ」

羽村先生:「藤村先生は,全治一ヶ月です.彼がもし訴えたりすると,教職免許も」
藤村先生:「あぁ」

羽村先生:「ビデオはこっちにあります.事実を話せば」

軽く頷く新庄先生.

新庄先生:「オレが助けてやらんと,誰が助けてやんねん.そない思たんや.どっちにしろ冷静やなかった.教師失格や」

■帰りの電車内

ドアにもたれかかりながら,思い出す羽村先生.

『きっと……いつも……どこかで……びくびく怖かったから』

繭からの手紙をとり出す羽村先生.

『オレが助けてやらんと,誰が助けてやんねん.そない思たんや』

■下北沢駅踏切

踏切を渡る羽村先生.

■帰りのコンビニ

ここでも思い出す羽村先生.

『こんなあたし,ヤだよね』

エリーゼを手に取る羽村先生.

『面倒になれば捨てればいい』

■羽村先生のアパート

外は,雨が降り出している.

羽村先生,思案中.


ここでも色々思い出す羽村先生.

『ホントのあたしを知っても,嫌いにならないでね』


『先生のこと大好き』

■二宮家

繭はノミを研いでいる.

耕介:「どの新聞も,私のことを称賛している.くだらんよまったく.特にこの,芸術評論というやつはな.よっぽど一般大衆の方がいいよ.良いか悪いかだけで判断するんだからな」

繭は無言で作業中.

耕介:「あの男と,何か話したか」

手を止める繭.
繭:「あたし,転校したい」

耕介:「あぁ,それがいい.そりゃいい」

耕介:「そうだ.また昔のように,二人だけでどっかで,ゆっくりと暮らそう.な.そうしよう」

玄関のチャイムが鳴る.

繭が対応に出る.
耕介はイヤな予感の顔.

繭が玄関を開けると……

一人の男が立っている.

傘をあげると,羽村先生だった.

驚きの表情の繭.

羽村先生:「お父さんいるね」

繭の返事を待たずに玄関に入る羽村先生.
繭:「先生」

羽村先生:「すぐに着替えをまとめるんだ」

中へ入って……

アトリエの階段を下りる羽村先生.

  • 参考情報)家の時計は2135.

耕介:「これは先生.どうしましたこんなに遅くに.あ,家庭訪問ですか」

羽村先生:「彼女を連れて行きます」

耕介は『なに?』という表情.

羽村先生:「この家には,あなたと一緒には置いておけない」

後ろで黙って二人のやり取りを聞いている繭.

耕介:「誰に断って,そんなことが許されるんです?」
羽村先生:「誰に断る必要もありません.彼女には両親がいない」

耕介:「私は,実の父親ですよ」

羽村先生:「あなたには父親の資格などない」

羽村先生:「僕が連れて行きます」

耕介:「キミは,何の権利があって」

羽村先生:「僕は……」

羽村先生:「彼女を愛しています」

この言葉を聞いた繭が……

廊下を走って自室へ.

アトリエの踊り場に上がってくる耕介.
耕介:「ははははは.随分乱暴な話しだね」
羽村先生:「え?」

耕介:「青臭い正義感に燃えて,ここまできた勇気は認めるよ」
耕介,ソファに腰掛ける.

耕介:「しかし」
ウイスキーを口にする耕介.

耕介:「帰りたまえ!」

耕介:「はははは.前にも言ったはずだよ.娘はキミには受け止め切れやしないってね」

いらだちの表情を見せる羽村先生.

耕介:「私と娘はね,もっとふかぁいところで結ばれているんだよ」

羽村先生:「ボクが断ち切って見せます.それが彼女の望みなんです」

耕介:「はははははは.バカなことを言うんじゃないよ.え.ははははは」

耕介:「娘が私の元を離れられ」

荷物をまとめた繭が廊下に立っている.

立ち上がる耕介.
耕介:「繭……」

繭:「あたし,先生と一緒に行く」

耕介:「何を言ってんだ? ええ? お前は,自分の言ってることがわかってんのか?」

耕介:「え? お前は,私よりもこんな男がいいと思って」

耕介:「お前,本気で」

繭に近づこうとする耕介を体を張って止める羽村先生.

耕介:「娘は渡さん.娘は渡さん.娘は渡さん!」
羽村先生を殴る耕介.

耕介:「渡さん!」
もう一度殴る耕介.

頑としてひるまない羽村先生.
胸ぐらにつかみかかり,羽村先生をどかせようとする耕介.

 

耕介:「ああ,ちくしょう!」

耕介を体を入れ替えてかわす羽村先生.

バランスを崩して,踊り場からアトリエに倒れ込む耕介.

羽村先生:「行こう」

玄関に向かう繭だが……

一瞬立ち止まって,父の方を振り返る.

ひざまずき,呆然とした顔で繭を見る耕介.

振り切って玄関に行く繭.

耕介:「どうせお前は戻ってくるさ.きっと絶望して帰ってくるんだ」

玄関のドアノブに同時に手を出す二人.

顔を見合う二人.

耕介:「その男はお前を愛してなどいないぞ.あははは」

構わず玄関を開ける羽村先生.

玄関を出て……

ならんで階段を駆け降りる二人.

途中,バランスを崩す繭.それを支える羽村先生.

顔を見あって……

二人の表情が一瞬緩む.

先を急ぐ二人.

■羽村先生のアパート

繭:「ぶっかぶか」

羽村先生:「ああ」

繭:「出掛けるの?」
羽村先生:「ああ,ビジネスホテルに泊まるよ」

繭:「どうして?」

羽村先生:「一緒ってわけにはいかないだろう」

気分がダダ下がりの繭.

繭:「うん」

羽村先生:「これ,出掛けるときは,ポストに入れといてくれ」

繭に部屋の鍵を渡す羽村先生.頷く繭.

羽村先生:「それから,電話も出ちゃダメだよ.僕がワンコールするから」
繭:「うん」

何か忘れ物はないか確認する羽村先生.

羽村先生:「無くなったら言ってくれ」

当座の生活費を渡す羽村先生.

不安と不満が入り交じった顔の繭.

羽村先生:「心配しなくても,なんとかなるよ」

繭:「心配なんかしてないよ」

羽村先生:「そっか」

繭:「うん」

羽村先生:「ちゃんと戸締まりしてね」

頷く繭.

繭:「先生」

繭:「ありがと」

頷いて部屋を出る羽村先生.

不安そうな表情の繭.

■ビジネスホテル

羽村先生仕事(論文の執筆?)の続き.

■アパート

繭,ベッドの中で羽村先生の人形と遊んでる.

■ビジネスホテル

羽村先生,中々寝つけないのか,起き上がる.

■アパート

繭も寝つけないのか,洗濯を始める.

繭:「はくしゅ」

  • ⇧ 何度か言ってますけど,この「っぽくないくしゃみ」嫌いじゃない.

■ビジネスホテル

窓から外の雨を眺める羽村先生.

生まれて初めて,『愛している』という言葉を口にした.

あのときのボクは,一方でキミに,まだ拭い切れない嫌悪感を抱いていた.

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