VOL. 07 狂った果実
02月14日(日)
■テレクラ
テレクラ遊びのおっちゃん:「もしもし,やっとつながった.歳いくつ? 高校生? ウソだろう.ホントかなぁ.今何してんの? 僕とデートしようよ.ホント? じゃあね,駅の電話ボックスの前で八時.ホントに来るのかな?」
■バー
羽村先生:「ここは,よく来るの?」
里佳:「え?」
羽村先生:「洒落た店だなと思って」
里佳:「一応,現役の女子大生ですから」
羽村先生:「デートとかで?」
里佳:「気になります?」
羽村先生:「え?」
里佳:「この前,新庄先生との喧嘩」
羽村先生:「喧嘩じゃないさ」
羽村先生:「一方的に殴られただけだから」
里佳:「一人の女子生徒が原因らしいですね」
里佳:「恋愛してたんですか?」
■デートの待ち合わせ場所
里佳:「どういう瞬間なんですか? 生徒に恋愛感情を抱くときって.興味あるんです」
羽村先生:「論文でも書くつもりか」
■バー
羽村先生:「もう終わったことさ」
先にバーをあとにする里佳.
一人残る羽村先生.
02月15日(月)
■生物室
授業開始のチャイム.
直子:「テレクラの男とぉ!?」
繭と直子が水槽のところで話している.
直子:「まさか,繭.そのままホテルなんて」
繭:「御飯食べて,バイバイしただけよ」
直子:「それだけ?」
繭:「なんか,そのうち説教してくんの.『ダメだよ,まだ若いのに』とかなんとか」
直子:「ああ,いるいる.その説教で,身動き取れなくなっちゃうのよね」
直子:「うち帰って寝てから,もったいないオバケ,出ちゃうのよ」
直子:「もったいねぇ.女子高生と,できたのにぃ」
繭:「バカ」
直子の肩を叩く繭.
生徒:「来た」「先生きたよ」「来たよー」
直子:「けど,繭らしくないね.なんかさ.純愛だと思ったのになあ,繭と……羽村先生」
生徒:「起立,礼,着席」
繭は一人着席せず立ったまま.
直子に座るように促される.
直子:「繭!」
それでも繭は立ったまま.
羽村先生は状況を測りかねているが,平静を装っている.
繭は羽村先生に何か言いたげな感じ.
■ディスコ
化粧室で口紅をつける繭.
■夜の盛り場の見回り
藤村先生:「見て見ぬふりすることだって必要ですよ.高校生では特に」
羽村先生:「最近また,暴走族とか増えてきたらしいですね」
藤村先生:「日本が豊かな国だからですよ」
羽村先生:「新庄先生は,教育に問題があるって言ってましたけど」
藤村先生:「ふふ,大分影響を受けましたね」
羽村先生:「いえ,そんなことは」
藤村先生:「僕も,体罰をすべて否定しているわけじゃないんですよ.ただ,親と違って,教師は生徒それぞれに愛情のフォローはできない.だから,殴れば残るのは恐怖と怒りだけです.とっととこんなくだらん見回り,済ませましょうよ.ね」
■ディスコ
繭が退学になった元生徒と鉢合わせ.
美奈子:「繭」
◻️第二話で,避妊具を持ち歩いていたことが原因で退学処分になった(元二年D組の)遊佐美奈子か?
◻️⇧以下,一応そういうことにしておきます.
呼びかけに振り向く繭.
美奈子:「珍しいじゃん.こんなとこで会うなんて」
繭を男に紹介する美奈子.
美奈子:「同級生の子」
美奈子:「あたしは退学くらったけど」
苦笑いの彼氏.
美奈子:「ねえ」
美奈子:「一緒に来ない? ねぇ!」
■引き続きの盛り場の見回り
藤村先生:「羽村先生」
酔っぱらってフラフラの繭が美奈子に支えられて男達と移動中.
藤村先生:「見て見ぬふりしますか」
走って追いかける羽村先生.
羽村先生:「おい! 君達! 待ちなさい!」
逃げる繭と男達と,追いかける羽村先生と藤村先生.
クルマで行こうとする男達とそれを何とか止めようとする羽村先生.
羽村先生:「おい,何やってるんだ.降りなさい」
◻️⇧ このとき,羽村先生は『繭,何やってるんだ.降りなさい』と言ってるようにも聞こえるのですが,どうなんでしょうか?
男:「やべえんじゃねえの」
美奈子:「関係ないよ.はやく.はやく出して」
急発進する車.
追いかける羽村先生.振り返る繭.
振り切って走り去る車.
追いかける羽村先生だが……
踏切に引っ掛かり.クルマを見失ってしまう.
■とあるマンション
男:「おい,どうする」
男:「やっぱ,ジャンケンしかねえだろよ」
男:「オレ,さっき引っかけたばっかだぜ」
男:「ジャンケンほい」
男:「あいこでしょ」
男:「いこ」
男が美奈子を連れて隣の部屋へ.
ベッドで寝ている繭.
男:「おい,やっぱ順番にしねえか」
男:「バカ野郎.お前のあとなんか,やる気すっかよ」
覆いかぶさってくる男を,
男を思い切り突き飛ばして部屋を出ようとする繭.
別の男に捕まって押し戻されてしまう.
何とか抵抗を試みる繭だが,
繭:「やめてよ!」
そこに,部屋の主の亜弓が帰ってくる.
繭万事休す.
男の背中に飛んでくるコート.
亜弓の彼氏:「亜弓.店,早引きしたのか」
繭から手を引かせる彼氏.
亜弓の彼氏:「おい」
亜弓の彼氏:「オレは関係ねえんだよ.場所があれだって言うんでさ」
彼氏に包丁を突きつける亜弓.
亜弓の彼氏:「おい,冗談だろ.冗談だよな?」
さらに喉元に突きつける亜弓.
繭を見て諭す亜弓.
亜弓:「ウチ帰んな」
荷物を持って逃げるように部屋を飛び出す繭.
繭が部屋を出たことを確認.
気が抜けたように包丁を床に落としてしまう.
外に出た繭……
マンションを確認.
02月16日(火)
■朝の職員ロッカー
羽村先生,出勤.
羽村先生と藤村先生,昨夜の件の口裏合わせ.
羽村先生:「おはようございます」
藤村先生:「おはようございます」
藤村先生:「顔色悪いですね」
藤村先生:「連絡ありましたか」
羽村先生:「いえ,彼女の自宅には電話もできないんで」
藤村先生:「父親が出たら,また揉めますからね」
羽村先生:「先生,夕べのことは」
藤村先生:「大丈夫.報告したりしませんから」
羽村先生:「すいません」
藤村先生:「羽村先生,二宮のこと,ほんとうに好きなんですね」
羽村先生:「いえ」
藤村先生:「僕も,好きな人ができましたよ」
羽村先生:「え,あ,そうですか」
藤村先生:「ちょっとした,出会いがありましてね」
羽村先生:「奇麗な方なんでしょうね.藤村先生のお相手なら」
羽村先生:「あ,どんなお仕事ですか?」
藤村先生:「学校関係ですよ」
羽村先生:「あぁ,同業者,ですか」
藤村先生:「えぇ,まぁ」
■2B体育授業
走り高跳び.
⇧ 直子は体調が悪いのかしゃがみ込んでる……
繭が飛んだあと,直子の順番だが……
踏切の直前で倒れてしまう.
直子のサボり癖と勘違いした新庄先生.
新庄先生:「もうちょい下げたれ」
生徒:「110」
新庄先生:「おい,いつまで寝てんねん」
駆け寄る新庄先生と繭.
新庄先生:「おい.相沢.相沢.相沢.おい」
繭:「直」
新庄先生:「相沢.おい,おい.相沢.相沢」
繭:「直! 直!」
■病院
直子,病院へ.新庄先生と繭が付添.
羽村先生が遅れてやってきた(1350).
羽村先生:「容体は?」
黙ってクビを横に振る繭.
羽村先生:「新庄先生は?」
繭:「電話」
羽村先生:「あぁ」
繭の隣に座る羽村先生.
羽村先生:「昨日,あれからどうした? ちゃんと,ウチ帰ったろうね」
無言で俯いたままの繭.
羽村先生:「キミらしくないなぁ.あんなことで」
繭:「あんなこと?」
羽村先生:「当てつけで,夜遊びするなんて」
繭:「はぁ」
繭:「うぬぼれてる」
新庄先生が戻ってくる.
新庄先生:「あぁ,なんや,来とったんか」
羽村先生:「えぁ,六時間目は空きなんで」
病院の先生がやってくる.
新庄先生:「どうなんですか」
病院の先生:「いや,意識はもうしっかりしてますから」
新庄先生:「あぁ」
病院の先生:「念のため,今日,一晩,入院を」
新庄先生:「あぁ,それは」
羽村先生:「で,原因は何だったんですか」
病院の先生:「高校二年生でしたね」
羽村先生:「えぇ」
病院の先生:「お二人とも,先生?」
二人:「はい」
病院の先生:「彼女,妊娠してますね」
新庄先生:「ええ? まさか」
顔を見合わせる三人.
病室の直子.
繭が放課後(?)に直子の荷物を持って病室へ.
繭:「よっ」
直子:「よっ」
繭:「これ」
うなずく直子.
繭:「お母さん,来てるよ」
直子:「そう」
直子:「化粧,ケバくなかった?」
繭:「ちょっとね」
直子:「お店,開ける前だから」
繭:「うん」
若干の間が空く二人.
直子:「聞いた?」
繭:「ん?」
直子:「ここ,赤ちゃんいるんだって」
繭:「うん」
直子:「なぁんか,変な感じ」
直子:「退学かなぁ.あたし」
かける言葉が見つからない繭.
■いつものラーメン屋
羽村先生と新庄先生,いつものラーメン屋で夕食.
新庄先生:「悪いけど,担任には,食あたりってことにしときたいんや」
羽村先生:「わかってます」
店のおっちゃん:「はい,お待ち」
新庄先生:「一体,相手はどこのどいつや!」
新庄先生:「あぁ,いや,あの,ウチのクラブやし.監督不行き届きっていう責任もあるからなぁ」
羽村先生:「いやぁ,先生に責任なんか」
新庄先生:「アイツ,そんな簡単やと思えへんかった」
新庄先生:「今どきの女子高生って,みんなそんなんなんかなぁ」
羽村先生:「さぁ」
新庄先生:「あぁ,このあいだ,すまんかったなぁ.殴って」
羽村先生:「いえ」
新庄先生:「けど,二宮のことはそれで良かったんや」
羽村先生:「そうですか?」
新庄先生:「余計なこと,言うんやないぞ.また,問題ぶり返すだけやから」
羽村先生:「彼女のことだけじゃないんです.僕も上手くいえませんが」
新庄先生:「大人げないこと言うな.アンタが自制せな,どうにもならんやないか」
羽村先生:「だから,そうしてるじゃないですか!」
新庄先生:「そんなに好きやったら,卒業すんの待ったらどうや,はい」
羽村先生にビールを注ごうとするが……
羽村先生はナチュラルに拒否.
羽村先生:「おばちゃん,ビールもう一本」
店のおばちゃん:「はぁい」
新庄先生:「お前,体育教師,バカにしとんのんか」
新庄先生:「あぁ,チキショー,なんぼ飲んでも酔わんわ」
新庄先生:「おっちゃん,酒や」
店のおっちゃん:「はぁい」
■病院帰りのバス
◻️直子の病院の帰りと勝手に決めたけど,あってるよね? 通学にバスは使ってないし.
繭,バスに乗ってくる亜弓に気付く.
バスを降りて,亜弓の後をつける繭.
お店までつけてはみたが,さすがに入るわけにもいかず……
諦めて行こうとする繭.
気付いた亜弓に声を掛けられる.
亜弓:「ちょっとアンタ」
亜弓:「何の用?」
繭:「あたし,あの」
亜弓:「このあいだの子?」
ちょっとキョドった様子の繭.
■羽村先生のアパート
水槽の水草の剪定中の羽村先生.
電話が鳴る.
夜,羽村先生のアパートに(繭からの)無言電話.
羽村先生:「はい,羽村です」
羽村先生:「もしもし.もしもし.どちら様ですか.もしもし」
切れる電話.
受話器を置く羽村先生.
溜め息の羽村先生.
02月17日(水)
朝,新庄先生が直子に体育の授業を休むように,クラブも退部するように諭す.
■正門〜校舎前
新庄先生,出勤.
直子,登校.
直子,新庄先生を見つけて駆け寄って……
後ろからいたずら.
直子:「おはようございます」
新庄先生:「あぁ」
直子:「今日の体育出るから」
新庄先生:「アホ言うな」
直子:「大丈夫よ」
新庄先生:「見学せぇ」
直子:「今日は機嫌が悪そう」
新庄先生:「クラブも退部せぇ」
直子:「え?」
■教員下足室
羽村先生の下足箱にしばらく振りの『助けて』が入っている.
羽村先生:「しばらくなかったのにな」
里佳が出勤.
里佳:「あ,おはようございます」
羽村先生:「おはよう」
里佳:「何ですか?」
羽村先生:「あぁ,いや」
里佳:「先生,今日お暇ですか」
羽村先生:「え?」
里佳:「せっかくの土曜だし」
◻️いや,里佳君,この日を土曜日に設定するのはやめてくれないか.タイムラインが総崩れになる.
■遊園地
◻️放課後ですかね.
直子,藤村先生と遊園地の観覧車.
直子:「あたし,高いところ本当にダメなんです」
藤村先生:「下を見るからだよ.僕を見てればいい」
直子の横に座り直す藤村先生.
藤村先生:「妊娠してるんだってねぇ」
直子:「ちゃんと堕しますから」
藤村先生:「休学して,どこかで内緒で生めばいい」
直子:「あたしと結婚するつもりなんですか?」
藤村先生:「キミは僕をこの先愛してくれる?」
藤村先生:「僕はねぇ.キミが妊娠してるって知って気が付いたんだ.キミからの愛情を望むより,もっと素晴らしいことがあるんだってね」
藤村先生:「子供だよ.何の知識も思想もない,まったく無垢の状態で生まれる僕の赤ん坊さ」
藤村先生:「僕の言う通りに,僕の思うがままに,僕を愛してくれる」
藤村先生:「キミは僕の子供を産むんだ」
直子:「そんなことできません!」
直子:「そんなこと……」
藤村先生:「きみはするよ」
藤村先生:「自分を解放するためにね」
逃げる直子.
ゴンドラを揺らす藤村先生.
直子:「やめて下さい!」
構わず揺らし続ける藤村先生.
直子:「やめてー!」
■新庄先生宅
直子,夜に新庄先生宅へ.
玄関前に立つ直子.
新庄先生:「なんやお前,こんな遅ぉ」
新庄先生:「寒いから,中入れ」
新庄先生:「おい」
直子:「病院,連れてって」
直子:「今すぐ連れてって」
新庄先生:「どないしたんや,一体」
直子:「今すぐ病院連れてって.お願い」
新庄先生:「おいおい」
直子:「お願い」
新庄先生:「打つで」
直子:「もういやぁだぁ!」
■バー
羽村先生,里佳とバーへ.
羽村先生:「前に彼女に話したことがある」
羽村先生:「人間には三つの顔があるってね.ひとつは自分が知る顔.他人の知る顔.そして,本当の自分」
羽村先生:「本当のオレはきっと,吐き気のするような顔をしてるよ」
里佳:「すべてが解放されたときの顔なら,もっと無邪気でかわいらしいんじゃないですか」
里佳の顔を見る羽村先生.
里佳:「吐き気を起こしてるのは,さっきトイレで見た自分の写ってる顔でしょ」
羽村先生:「きついな,キミは」
タバコを手に取る羽村先生.
里佳:「理解できないから引き込まれたんじゃないですか」
里佳:「何を考えてるかわからない.だから,どんどん,その生徒に引き込まれた」
里佳:「恋愛というよりも,興味深い研究対象をみるように」
羽村先生:「キミに何がわかる」
里佳:「慰めてあげましょうか」
思わず里佳の顔を見る羽村先生.
■二宮家
繭が外出しようとアトリエ前の廊下を通る.
耕介:「繭,どう思う?」
立ち止まって振り向く繭.
耕介:「今度の展覧会に出品する作品だ」
繭:「わからない」
耕介:「自信がある.昔のように,こう,掌からオーラが出てくるようだ」
黙って出掛けようとする繭.
耕介:「どこ行くんだ?」
繭:「いちいち,説明しなくちゃダメ?」
耕介:「いや,うるさいことを言うつもりはないよ」
耕介:「あの教師を切り捨ててくれた今ではね」
繭:「そんなこと,どうしてわかるの」
耕介:「わかるさ」
高笑いの耕介.
耕介:「あはははは」
黙って出て行く繭.
耕介:「すぐに忘れるさ」
耕介:「くだらん人間のことはすぐにね.あはははは」
玄関から出る繭.
■羽村先生のアパート
羽村先生,里佳をアパートに連れ込んで大人の情事.
だが,我に返る羽村先生.
羽村先生:「ごめん……どうかしてた」
羽村先生:「すまない」
里佳:「謝らないで下さい.気にしませんから」
里佳:「飲み直しましょう」
部屋の明かりをつける羽村先生.
大仏キーホルダー.
◻️多分ですが,上着を脱がされたときに落ちた大仏キーホールダーで我に返ったものと推測.
電話が鳴る.
羽村先生:「はい,羽村です」
羽村先生:「もしもし」
冷蔵庫の扉をわざと音を立てるように開ける里佳.
羽村先生:「もしもし」
電話ボックスの繭.
羽村先生:「キミか」
羽村先生:「キミなんだろう」
黙っている繭.
羽村先生:「こんなことをしても無意味じゃないか」
羽村先生:「もう,僕のことは忘れて欲しい」
電話ボックスの繭.
羽村先生:「けど,もし,なにか他のことで相談があるんだったら,いつでも聞いてあげるよ.教師として」
小さなため息をつく繭.
言葉を探す羽村先生.
コップを……
わざと落とす里佳.
振り返る羽村先生.
里佳:「あ,ごめんなさい」
女の人を連れ込んでいることを知った繭.
羽村先生:「もしもし」
電話を切って,電話ボックスの中で座り込む繭.
溜め息の羽村先生.
『これで良かったのか.他に方法はなかったのか』を思案する羽村先生.
02月18日(木)
■産婦人科
◻️放課後?
直子,新庄先生に連れられて病院へ.
新庄先生,受付で同意書に記名捺印して提出.
新庄先生:「お願いします」
◻️これ打ち込んでるときに気が付いたけど,同意書の日付はちゃんと二月十八日になってた.
振り返る新庄先生.待合室の長イスに座っている直子.
看護師:「相沢さん.こちらへどうぞ」
うつむいたままの直子.
心配そうに直子を見る新庄先生.
看護師のあとを行きかけて,赤子の鳴き声が聞こえて立ち止まる直子.
看護師:「相沢さん?」
直子,手術室へ.
■放課後の視聴覚室
藤村先生,視聴覚室で例のビデオを観賞.
■産婦人科手術室
看護師:「どうぞ」
先生:「では,そこに横になって下さい」
◻️こういうシーンは見ててツライです.
■視聴覚室
藤村先生,視聴覚室で例のビデオを観賞中.
羽村先生が先日の巡回の報告書を持って視聴覚室に来る.
ドアをノックするが,反応なし.
ドアに鍵がかかっている.
羽村先生,後ろのドアへ
■産婦人科
待合室で待つ新庄先生.
■視聴覚室
入ってきた羽村先生に気付いた藤村先生.
準備室の方から視聴覚室に入室する羽村先生.
羽村先生:「やっぱりいらっしゃったんですか」
ヘッドホンを外す藤村先生.
藤村先生:「なにか」
羽村先生:「このあいだの巡回報告書を見て頂こうかと」
藤村先生:「ええ」
藤村先生,ギリギリのところでモニターをオフにする.
羽村先生を睨めつける藤村先生.
■いつものラーメン屋
直子,新庄先生と夕食.
■バス停
新庄先生,直子をバス停まで見送る.
直子:「わざわざ,済みませんでした.ほんとに」
バスの時刻を確認する直子.
新庄先生:「相沢.相手誰やった?」
振り向く直子.
新庄先生:「誰の子やった?」
うつむいたままの直子.
黙って首を振るだけの直子.
直子,何も言わず,小さく会釈してバスに乗り込む.
それ以上は何も言えず,黙って見送る新庄先生.
バスの中で涙が止まらない直子.
バス停で立ち尽くす新庄先生.
■亜弓のマンション
亜弓のマンションを訪ねる繭.
亜弓:「あんた,また来たの」
黙って頷く繭.
■羽村先生のアパート
新庄先生,出来上がった状態で羽村先生のアパートへ.
新庄先生:「ひゃはははは」
羽村先生:「新庄先生,どうしたんですか,こんな遅くに」
新庄先生:「かっこええ? かっこええ?」
新庄先生:「ちょっとな,一人で飲んどったんや.ひゃはははは」
羽村先生,とりあえず,新庄先生を食卓のテーブルに座らせる.
新庄先生:「え? メシ食とったんかい」
羽村先生:「あっ」
羽村先生:「貴広君は?」
急に素になる新庄先生.
新庄先生:「あぁ.別れた嫁はんのとこいっとんねん」
新庄先生:「裁判終わるまでな,週にいっぺん,向こうに行くことになっとるんや」
羽村先生:「そうですか」
新庄先生:「ぶふぉ」
新庄先生:「なんやこれ,お茶やないかい」
羽村先生:「もう大分出来上がってるみたいだから」
新庄先生:「出来上がってへんわい.出来上がる前にな,堕しては来たけど」
羽村先生:「病院,付き添って?」
新庄先生:「ああ」
新庄先生:「なんや,酒ないんか」
指を差す羽村先生.
ウイスキーの瓶を手に取る新庄先生.
新庄先生:「聞いたんや」
羽村先生:「え?」
新庄先生:「相手は誰やねんって.相沢にな」
羽村先生:「言ったんですか?」
新庄先生:「いや」
羽村先生:「相手に,迷惑がかかると思ったんですかね」
新庄先生:「そんなに好きやったら,そいつに頼んだらええやないか.泣くほど好きなそいつにな」
羽村先生:「泣かしたんですか?」
新庄先生:「オレが金出したんやで.相手ぐらい聞いてもええやろ」
羽村先生:「カネねえ」
新庄先生:「いやぁ,銭金のことはええねん」
羽村先生:「じゃあ,嫉妬ですか?」
新庄先生:「え?」
羽村先生:「自分のかわいがってた生徒が,どこの誰だかわからない奴にって」
笑う新庄先生.
新庄先生:「んなアホな.アンタとは違うわ.誰が生徒なんかに惚れるかい」
新庄先生:「ははは」
新庄先生:「……あぁ,悪かった」
羽村先生:「無言電話があります」
新庄先生:「え?」
羽村先生:「毎晩のように」
新庄先生:「二宮か」
羽村先生:「たぶん」
新庄先生:「あ,あかんあかん,あかんぞ.ちゃんと突き放せ」
新庄先生:「あれぐらいの年頃はな,時間経ったら割と簡単にこう立ち直れんねん,あんなん」
羽村先生:「他のことなら,相談に乗るって言いました」
新庄先生:「それやったら,前と一緒やないか」
羽村先生:「教師としてなら,相談に乗るって」
新庄先生:「教師としてなら?」
羽村先生:「もう,電話さえかけてこないでしょう」
羽村先生:「先生の言う通り,僕のことは忘れますよ」
溜め息交じりのやるせない表情の羽村先生.
■亜弓のマンション
繭,左手にマニキュアを塗っている.
亜弓:「あんたちゃんと学校行ってる?」
黙って頷く繭.
亜弓:「こんな時間に,親が心配してんじゃないの」
亜弓の方を見上げる繭.
亜弓:「あたしが言うのもなんだよね」
亜弓:「親もあきれて見放してるからね」
亜弓:「このあいだ,あんた,まわそうとした,あんなかの一人.ほら,一番年食ってるの,あの人,あたしの彼氏なのよ」
手を止めて周りを見回す繭.
亜弓:「心配しなくても,来やしないよ」
亜弓:「月末,あたしの給料出たころ,ちょこっと来ちゃ,たかって行くのよ」
亜弓:「前はあんなんじゃなかったのよ.田舎から一緒に出てきて,お互いやりたいこともいっぱいあって……」
亜弓:「あたしも,昼間,OLやってるだけならまだ良かったんだけどね」
時計を見る亜弓.
時刻は,もうすぐ0時.
亜弓:「ホントに来ないね」
カレンダーの今日の日付にバツ印を着ける亜弓.今日は誕生日だったらしい.
亜弓,冷蔵庫から誕生日のケーキを持ってくる.
ロウソクを立てる二人.
亜弓:「二十六だから,六本ね」
亜弓:「多く立てないでよ(笑)」
ロウソクに灯をともす亜弓.
部屋の明かりを消す繭.
亜弓:「縁起物だからね」
やっぱり彼氏に祝ってもらえないことにちょっと寂しそうな亜弓.
繭:「ハッピィ バースデイ トゥ〜ユ〜」
少し笑顔になる亜弓姉さん.
繭:「ハッピィ バースデイ トゥ〜ユ〜」
繭:「ハッピィ バースデイ ディア……」
亜弓:「亜弓」
繭:「あゆみ〜」
繭:「ハッピィ バースデイ トゥ〜ユ〜」
ロウソクの火を吹き消す亜弓.
拍手する二人.
繭:「おめでと」
■羽村先生のアパート
羽村先生が風呂から出ると,新庄先生はリビングで既に寝てる.
やっぱり繭からの『無言電話』が気になる羽村先生.
■亜弓のマンション
繭はベッドに入っているが……
リビングを見ると,
亜弓がずっと電話している.
ちょっと心配そうに亜弓を見ている繭.
■羽村先生のアパート
羽村先生は,机で仕事の続き.
受話器は机の横に置いている.
やはり繭からの電話の有無が気になる模様.
羽村先生,スタンドの電気を消して就寝.
■亜弓のマンション
ちょっと寝つけない様子の繭.
結局は寝ちゃったみたいですが(当たり前).
02月19日(金)
■亜弓のマンション
朝,目が覚める繭.
リビングに亜弓の姿がない.
昨夜のままのテーブルを見る繭.
ケーキもそのまま……
なぜかテーブルに置かれている包丁.
なんとなく不穏な空気を察する繭.
シャワーの音に気付く繭.
浴室の明かりがついたまま.
繭,『もしや?』のいやな予感……
浴室の様子を見に行く繭.
下を見ると……
畳まれた亜弓の服.
浴室の扉をノックするが返事はない.
ほぼ状況を察してしまった表情の繭.
そっと扉を開けてると……
ショックでその場にへたり込んでしまう繭.
浴槽に浸かったままの変わり果てた亜弓の姿が.
■職員室
職員室に警察から羽村先生宛に電話.
宮原先生:「はい,職員室です」
宮原先生:「え,あ,今参りました」
宮原先生:「羽村先生,お電話です」
羽村先生:「ああ,すみません」
宮原先生:「警察ですって」
『え?』という表情の羽村先生.
■警察署
◻️参考情報)警察署の時計は0840.
羽村先生,タクシーで警察署へ.
刑事:「まあ,事情聴取が終わり次第,今日のところは引取って頂いて結構です」
刑事:「それから,一応,検視の結果も含めて,もう一度ご連絡したいんですがなぁ」
羽村先生:「それじゃ,ウチの自宅の番号を」
刑事:「あ,じゃ,お手数ですが.どうぞ」
刑事:「いやあ,どうしても,親御さんの連絡先を教えてくれないもんですからね」
刑事:「で,担任の先生に御足労願ったわけです」
羽村先生:「担任?」
刑事:「ええ」
羽村先生:「ああ,僕のことですよね」
廊下で繭を待つ羽村先生.
署員に付き添われてきた繭.
刑事:「ああどうも先生.お待たせしました.ひとつよろしくお願いします」
羽村先生:「ありがとうございました」
繭の方を見る羽村先生.
うつむいてる繭……
羽村先生の方を見るが,目が少し泳いでる.
少し安堵の表情を見せる羽村先生.
◻️そりゃまあ,警察から電話があったらビックリするしね.
■警察署からの帰りの橋の上
羽村先生:「とにかく,今日は帰って休んだ方がいい」
繭:「迷惑かけて,ごめんなさい」
羽村先生:「いいんだ.こんな事情だったんだから」
繭,吐き気を催す.
現場の状況を思い出して嘔吐.
ハンカチを差し出す羽村先生.
羽村先生:「大丈夫か」
繭の背中をさすってやる羽村先生.
繭:「あたし……死にたくない」
繭:「死にたくない」
繭:「先生,汚れちゃうよ」
羽村先生:「いいんだ」
繭を抱きしめる羽村先生.
羽村先生:「いいんだ」