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MT数学史#3 古代エジプトの文字とパピルス

今回は、ジャン・シャンポリオンによるロゼッタストーンよりも遊戯王でお馴染みの古代エジプト文字のお話です。

実は単にエジプト文字といっても、種類も違えば時代ごとに色々あるのですが、ここでは3種類ほど紹介していきます。

① 聖刻文字(Hieroglyph)

ヒエログリフ


まずは石碑などに刻印されるために使われた聖刻文字(Hieroglyph)です。おそらくみなさんが想像する想像するものに一番近いのはこれで、鷲とか鷹などの猛禽類やホルスな目が印象的かと思います。つまり遊戯王的なやつです。

寺院建築や国家的祭事のために使われたものですから、一部の特権的支配階級と神官にのみ使われることが許されたものです。というより、相当の教育と訓練なしには書けるようにも読めるようにもなれませんので、身分的許可のみならず知的にも優れていないといけなかったでしょう。

数学史として面白いのは、この段階で既に記号十進換字法を採用しています。以下の図のように、1〜9に特別の記号、10〜90にも別の特別の記号を与えて、、、として並べたものを和として表現していました。僕らが漢字で数表現するのと原理は同じです。ちなみに読み方は僕たちとは逆で、右の方から大きい桁として配置されています。

デザイン性が素晴らしいですね。
百万の記号は「大きすぎてびっくり、神!」の絵ですって、マジやばくね。
千もファイアフラワーにしかみえないしかわいい、よね?

ちなみに古代マヤ文明のヒエログリフもデザイン性凄いです。

マヤのヒエログリフ

また、すでにこの時代から分数を単位分数で表現するという古代エジプトのこだわりが聖刻文字にも強く反映されていることです。

ホルスの目

単位分数にこだわったのは、仕事や給料、パンやビールなど実生活に直結したものの割り振りが簡単になるからでしょう。

たとえば10人で6つのパンを分配する役人になったとしましょう。このとき、「各パンを10等分したものがあるので6個ずつ持っていってくださーい」というより
6/10 = 1/2 +1/10
を用いて、1つのパンだけ10等分、あとの5つは2等分とした方が、配る側も楽だし貰う側も嬉しいでしょう?(たぶん)

そんな文化的・実用的背景から、分数を単位分数で表現されるようになり、その為の表が整備されていたようですが、数学的には表記の一意性も面白みもそんなにないですし、やたらと煩雑になったために、エジプトにおける算術はバビロニアと比べてそんなに発展しなかったようです。そのかわりといってはなんですが幾何がとても発展し、その程度たるや、神秘なる建築物・ピラミッド(金字塔)の基礎的基盤となるほどでした。



② 神官文字(Hieratic)

ヒエラティック

次は、パピルス用筆記体の神官文字(Hieratic)です。聖刻文字から作られているので随分と似ていますが、筆記用に作られたもので目的も描きやすさも違うと思われますので分けてみました。ペーパーの語源となったパピルスへの記録の文化があったということは文明史上大きな飛躍ですが、前回のバビロニアの年度版と異なりこちらは物理的に脆いため余り残っていません。

数少ないパピルス資料としてはアフメス・パピルスとモスクワ・パピルスが有名ですが、それぞれ発見者や所持者による別名として、リンド・パピルス、ゴレニチェフパピルスなどと呼ばれることがあります。後者の方が多少古いようですが、共にこのHieraticで書かれており、内容も基本的な問題集となっています。古代バビロニアやエジプトで何故このような問題集が発展したかについては、またおいおい解説していきますのでお待ちを。

ちなみにこの二大パピルス、サイズ感が面白くて、巻物としての幅と長さは
アーメスパピルス:約33cm×5.5m
モスクワパピルス:約7.6cm×4.6m
らしいです。7.6cmは小ささは、おそらく手に持って気楽に読めるものとして書かれたのでしょう。勉強熱心です。

筆記化したこの段階ですでに、ヒエログリフより簡単な記号による十進換字法を採用しています。建築設計からそのための人員と材料管理、税金計算から貸借対照表までこれを用いていました。すごい。

分数も依然として単位分数表記が好まれ、「分の一」のための略記号まで専用のものが用意されました。

ゼロ記号は数としてはなかったものの、水準線のようなものを表す記号はあって、これが後世部分的に使われたりもしています。




③ 民衆文字(Demotic)

ロゼッタストーンのデモティック

さて、最後の3つ目は、神官文字から大衆化していった民衆文字(Demotic)です。これは数学的にどうということではないのですが史的に重要で、これはヒエログリフと区別された上で広がっていったこと、そしてなによりロゼッタストーンには3種の文字が書かれており、それはヒエログリフ・デモティック・ギリシャ古語であったことにより解読に成功したという点が大切なことです。ギリシャ語で書かれた"プトレマイオス"から解読していったようです。すごい。あとヒエログリフは表音文字だそうで。なんとなく表意だと思ってませんでした?そう思われて解読できない時期も長かったそうですよ。




というわけで、

古代における最高の考古学的数学文献であるバビロニアの粘土板とエジプトのパピルスのお話でした。いいねとサポートの方も是非よろしくお願いします。

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