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PureDataワークショップ

ソニックジャム技術顧問の久世です。簡単に自己紹介をしますと、アートユニット「MATHRAX(マスラックス)」として、電子回路やコンピュータを使ったインタラクティブな作品を制作しながら、ソニックジャム技術顧問として週1回ワークショップを担当しています。今回の参加者は社内有志で、業務と並行してのんびりとゆるめに進めています。

ここでは音響ソフト「PureData(以下Pd)」を使ったワークショップの成果をまとめます。ワークショップ内容はこちらにあります。

はじめに

Pdとは、音を扱うソフトで、オブジェクトを線で結んでプログラムするビジュアルプログラミング言語のひとつです。サイン波のような音は非常にシンプルですが、楽器のような音階や音色で演奏しようとすると急に複雑になる印象があります。なのでPdって難しいなと思われがちですが、慣れてくると音をつくるための数値がたくさんあって、少し値を変えるだけで音も変化することが発見できます。それをインタラクティブに変化させれば、音の表現の幅も広がってきます。またPdはオープンソースで無料な上に、WindowsやMacやRasbpberryPiでも動作しますので、身につけたスキルの応用範囲も広くなるのが魅力です。

ワークショップでは、Pdの貴重な日本語書籍「Pure Data -チュートリアル&リファレンス-」(なんと絶版!)にそって、Pdのインストールや基本的な使い方、音階や音色の作り方、エフェクタの作り方からはじめ、応用としてOSC(OpenSoundContorol)、ArduinoでMIDIデバイスを作る、というような内容を取り上げました。最終成果として「オリジナルの音色の楽器をつくる」というテーマでスタートしましたが、自粛期間などもあり、そのプロトタイプを作るまでとし、noteでまとめることにしました。

課題は2つ「1分間の自動演奏」と「オリジナル楽器のプロタイピング」を設定しています。その中から、いくつかご紹介します。恐縮ですがせっかくなので僕のコメントも記しておきます。


課題1「1分間の自動演奏」

アセット 2@4x

「Pdで60秒をカウントし自動演奏させる」というお題です。その音を録音してもらいました。作品の音源と作者それぞれのコメントもあります。この記事の最後に「1分間の自動演奏」データのダウンロードもあります。

 No.1-1  「ピコピコ夏休み~未知との遭遇~」 by oT

作者からひとこと:
夏の音(波や花火)を使って曲を作ろうとしたらあやしい感じになってしまいました。

久世からひとこと:
あやしい感じということですが、そんなことはなく、面白い曲になっていると思います。演奏の出だしが特に好きです。音の弾けるような感じが花火や夏休みのイメージと合ってる気がしますね。oTさんは普段はWEBのバックエンドエンジニアということで、今回のPdはなかなかクセがあって技術的な難しさがあったと思いますが、作品の音を聞くとそんなことは感じさせず、起承転結も感じられてシンプルにカッコイイな〜と思いました!やってみるとサウンドデザインとかできるかもしれませんね。


 No.1-2 「湯沸かし器セッション」 by Norimaki.jp

作者からひとこと:
湯沸かし機器の操作コントロールパネルは色んな電子音を発するのでその一部を切り取り組み合わせてみました。銭湯などのボイラー室は色んな機械があり、その機械たちがセッションをしているようなイメージをしました。

久世からひとこと:
電子音をうまく加工して、もとの音とは違うイメージのキラキラしたきれいな音色(ガラスの器を指で弾いて鳴らしているような)を作っていますね。音をイメージした画像のおかげで、途中うしろで聞こえるフォッフォッフォという音もボイラー装置の何かの音かな?と思わせてくれる気がして面白いなぁと思いました!


 No.1-3 「マンボ・パンチ」 by tomoSK

作者からひとこと:
マンボのリズムに合わせて、いろんな音がランダムに聞こえてきて、フルーツポンチみたいなごちゃ混ぜの音楽です。トランペットを打楽器のように使うマンボらしさで引き締めつつ、たまに聞こえる掛け声がアクセントです。
マンボといえば"No.5"という曲が有名ですが、"punch"というカクテルの語源は数字の"5"ということもあってタイトルをこれにしました。

久世からひとこと:
ジャケット写真は旅行の際に自分で撮影したキューバの風景だそうですね。いつも自分の興味を記録しておくと、この課題のような機会に個性を発揮できて本当によいですね。いつ必要になるかわからないけど行動することは、誰にでもできることじゃないなぁと尊敬します。音のほうも、そのような経験があってマンボにこだわったんだろうと思います。掛け声の音色も、和風の音、くしゃみ(?)の音、いろんな音が混じっていて、いままで見てきた多くの風景を音に閉じ込めたように感じました。自由なテーマを決めていいよと言われると、何から始めていいかわからなくなることも多いと思いますが、自分で取っかかりを見つけながら、少しずつでも前に進む力を感じます!


 No.1-4 「pig」 by 永島誠記

作者からひとこと:
この作品は、英文の中に含まれる文字と特定の単語を、MIDIノートとサンプリング音源のトリガー情報に変換することで文章を楽器にするものです。テキスト情報を音響情報へ単純に変換するのではなく、特定の単語へ銘々に音を割り当てることで執筆と作曲行為が同居するような、表現世界を目指しました。今回の音源では、BBCのニュース記事の中から一部の単語を"pig"に書き換え、そこに豚の鳴き声を割り当た自動演奏プログラムを作成しました。

久世からひとこと:
風刺的な匂いもするコンセプチュアルな作品ですね。音を聞いた感じ、なんとなく不穏な印象が頭をよぎります。世界情勢を感じるような(?)。手法としても、執筆と作曲行為が同居すると考え方が面白いですね。書いている途中にも自動演奏されていて・・という展開もできそうですね。シンプルに自動演奏するプログラムに、ちょっと人間臭い要素が加わったように感じます。それは永島さんにしかできないことなので、大切にしてほしいなと思うと同時に、いざというときの武器になるように思います!



課題2「オリジナル楽器のプロトタイピング」

アセット 3@4x

さて次の課題は「作品を想定して、Pd・Arduino・MIDIインターフェイスなどを使って、インタラクティブな楽器のプロトタイプを行う」というお題です。自由な発想を求める上に、Pdとデバイスとを連携させたプロトタイピングで、作品をつくる前の試行錯誤をまとめるので、なかなか難しかったと思います。でもこの混沌は、たくさんの要素をまだそぎ落とす前でもあり、作品の案の宝庫でもあると思います。

 No.2-1 「星に願いを」 by oT

iOS の画像 - 大塚彩華

作者からひとこと:
すみませんアイデアだけです…。センサを手に持って祈るようにしたらキラーンと音がなるものを考えました。

久世からひとこと:
アイデアだけということですが、こういうプレーンなアイデアは、実はとても貴重だと思います。というのは、技術や知識が身に付くと、簡単なことや難しいことがわかってしまって、難所を避ける案ばかり考えてしまうからです。アイデア通りに完成したけどそれほど面白くない・・という感じたとき、このスケッチを思い出すと初心に返ることができそうです。デザインとエンジニアリングの狭間では、別人格になるくらい頭を切り替える必要があるので、怖いもの知らずのアイデアスケッチはとても貴重です。この描いてくれたスケッチだけを見ても、これを体験する人は心穏やかで幸せそうだし、手にするデバイスもほどよい重さで、水面の光のようにキラキラ輝く感じを受けます。配線とか仕組みが見えないように、本当にこれができたらすごくいいなぁと思います!


 No.2-2 「涼しい空間の音色発生器」 by Norimaki.jp

sketch - 寺口徳一

コンセプト:
距離センサーを埋め込んだ石みたいなものに手を近づけると距離により跳ね返りの音を再現。完成系のイメージとしては鍾乳洞の中の溜まっている水溜りに水滴がポトンと落ちたあとに空間内で反響するようなの音の広がりを再現する音色発生器。

作業中の様子:

作業様子 - 寺口徳一

作者からひとこと:
PDのワークショップ内のテーマの一つであった「フィードバックディレイ」を用いると空間に反響するような音を再現できるのでは考えて、フリー音源の水の音を使用しフィードバックディレイさせて徐々に小さくなっていくような音の再現を試みました。
完成形としては鍾乳洞内の石のような形を模した木材に距離センサーを取り付けて、それに手を近づけることで鳴らすよな造作を作りたかったのですが、木材加工等は今回はできないので、音作りの部分に注力してみました。実際に家でボウルに水を張り水滴が落ちるような音を録音してみようとしたのですが、想像していたようなきれいなものが中々撮れなかったので、ネット上のフリーの音源を使用することに切り替えて制作してみました。
実際に鍾乳洞足を運んで良いマイクを使い録音したものを使うとよりリアリティーのある音になるかなと想像しています。また、このフィードバックディレイは色んな音に適用して面白い音色が出せると思うので、日常で面白そうな音があれば録音して試してみようと思っています。

Pdパッチ:

スクリーンショット 2020-08-03 15.43.33

サウンドプレビュー:


久世からひとこと:
シンプルな音を追求した感じがよいですね。水にまつわる音を鳴らす場合、水がどのようにして音を鳴らすのか、動きを考えるとよいかもしれません。水一滴が鳴らす音なのか、次から次にくる水滴の音が重なる音なのか、水が何かにぶつかる衝撃音なのか、空間に響く残響音なのか、いろんな要素があると思います。個人的には、いったん自分の解釈を通してアウトプットすることが、オリジナルの表現ができる面白いところかなと思います。なので実際の鍾乳洞で録音するアプローチでも、再生速度を変えてみたり、多重再生してみたり、何かしら実験的要素を取り入れると楽しくなるのではないかと思います。作り込むほど音源やツールに引っ張られると思うので、初心に戻って、どんな音が出したかったのか自分の口で音を再現してみたりすると、体でわかってくるかもしれませんね。変な人にみられそうですけど(笑)。。


 No.2-3 「煩悩Mixer(仮)」 by tomoSK

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コンセプト:
MamboとZenが出会いました。

スケッチ:

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サウンドプレビュー:

作者からひとこと:
いろんな音でマンボのリズムを鳴らしていた時に、木魚の音を手に入れて切り替えることを思いつきました。
単調になってしまったので、もうちょっとランダム性とかセンサーで変化するものを入れて、聞き飽きないものにしたかったな…という感じです。

久世からひとこと:
再びマンボですね!そのこだわりがいいと思います!「1分間の自動演奏」課題でも感じましたが、当たり前のマンボじゃなくて咳き込む声やZenの木魚が入ったりと、そのチョイスに作者の心の奥の何かが出てきてますね。絶妙でとても面白いと思います。tomoSKさんは理解が早いので、技術と自分から湧き出るものとのバランスがよいのかもしれません。うまく作品を作れている時は、頭と手のバランスがとてもいい状態で、そのことすら意識しません。現在はまだPdに不慣れなこともあり意図した考えに技術が追いついない状態かと思いますが、逆にその制限の中だから面白い作品を生み出したのかもしれません。もしスイスイできる技術が身についたら、制限の枠も広がってもっと自由になれるので、どんな表現になるのかなぁと期待大です。きっとPdもプログラムもtomoSKさんならすぐ身につきそうですので、自分で考えて自分で作ることができる最強な人になれると思います!


No.2-4 「色彩歌唱盤」 by 永島誠記

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コンセプト:
シルクスクリーンで作成した、7インチレコードサイズのグラフィックボードを使ったソフトシンセのMIDIインターフェースを作製した。発音の原理は下記の通り。

①ターンテーブルのレコード針のカートリッジ部分にカラーセンサを取り付ける。
②ターンテーブルを回転させ、通常のレコード同じ要領でグラフィックボードの色情報を読み取る。
③色情報はArduino内でMIDIデータに変換され、PC側のソフトシンセへ送られる。
④センサーのRGB値をそれぞれ別のシンセ音源に割り当てることで、一枚のグラフィックボードから多様な演奏が可能となる。

システム図・作業の記録:

20200513_久世さんWSアイディアスケッチ


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作者からひとこと:
・MIDIに変換されたRGB値をそれぞれドラムキットやシンセなどそれぞれ別のパートに分ける事で演奏のバリエーションを広げることができた。
・印刷物を演奏の媒体とすることで、偶発的な表現と意図的な表現を混在させることができる。
・センサ値をMIDIデータとして出力することで、既存の電子楽器と容易に接続することができミュージシャンとのコラボがやりやすい。
・シンセ部分をPdだけで作るのは大変だったので、音源はソフトシンセを使った。

Pdパッチ:

スクリーンショット 2020-08-03 18.11.35

サウンドプレビュー:

久世からひとこと:
もう素晴らしい!の一言です。自分の興味を足がかりにして、スキルを身につけながら開拓していくスタイルが、本当に素晴らしいと思います。わからないことを怖がらず、やってみようの精神もいいですね。自分でパーツを入手したり、いろんな機材を使ったりと新しいことに挑戦しながらも、日頃から音に興味があるとのことで、音に対するデリケートな扱いがベースに感じられ、音色が丁寧で美しいと思います。シルクスクリーンをその場で刷って即興したり、知り合いのミュージシャンとコラボしたりと具体的に発展する案も当初からあって、実際に演奏しているところがぜひ見たいです!なぜか僕もドキドキ興奮します!


総評

ひとまず最後までおつかれさまでした!「1分間の自動演奏」課題では、見た目は同じようなPdのプログラムなのに、音を聞いてみるとすごく個性がある作品たちでした。それぞれの作者の頭の中が垣間見れたようで、思考や好みや経験などがにじみ出ているなぁと思います。僕が大学で油絵を学んでいた頃の先生が「個性は無理やり作るものじゃない。ぞうきんを絞って絞って、もう何も出てこないと思ったところから、ポタっと出てくる水滴が個性だ。どうしてもにじみ出てくるものなんだ」と言っていたのを思い出しました。「ぞうきん」で例えるところが泥臭いですが(笑)。たまに、部屋中ピンクなグッズを集めてそれを個性と捉える人とかテレビに出たりしますが、正直無理やりな印象も否めません。そこまでしないと個性は出ないのかと考えてみると、今回の課題で垣間見れたように多くの人の場合は、日頃の自分の多方面の興味をたっぷり楽しんで経験にしていくことが、地に足のついた個性を生み出す大事なことなんだろうなと思います。あ、ピンクも興味の赴くまま楽しんでるってことになりますね。。

「オリジナル楽器のプロトタイピング」課題は、自由な発想を求めた課題でした。自由に何でも考えていいよという条件で、具体的に自分でアプローチしなくてはならないという課題です。面白いことを考えて実現する、理想を現実にするプロセスを重視したものでした。このプロセスには、コンセプトや技術が未整理の混沌とした状態が多く含まれます。それぞれ着眼点の違うアプローチでしたが、自分以外のアプローチにもきっと何かヒントがあると思います。また別のテーマでワークショップを行うかもしれませんが、この頭と手の往復は、テーマ問わず応用できるのではないかなと思います。

いろんなデザイナーも芸術家も、有名な作品たちの裏で誰にも見せないスケッチやプロトタイプをフットワーク軽くたくさん作っているはずです。今後のワークショップでも作品の完成形だけを求めるのではなく、焦点を絞って短時間でも続けること、そのプロセスを共有することなど、社会人だからこそできる内容を考えていきたいと思ってます。

ダウンロード

「1分間の自動演奏」課題のデータはダウンロードできます。
PureDataで開くと実際に聞くことができます。





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