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意識と量子力学 第4回 量子力学になぜ意識が登場したのか

この回まで記事を読んでくださり、ありがとうございます。

量子力学とつながるのは、観測可能な世界ばかりではなく、目に見えない世界も存在することを、前回「第3回 量子論とつながる見えない世界」で見てきました。

量子力学の観測問題で考察されるようになった「意識」も、やはり量子力学とつながる目に見えない世界の一つです。しかし、そもそも意識が観測問題でなぜ考察され始めたのかその理由がはっきりしないと、意識が偶然、量子力学で取り上げられるようになったと受け取られかねないので、今回はその理由を簡単に紹介したいと思います。その後、意識の世界での量子論の位置付けについても、次回でご紹介していけたらなと思います。

■ 量子力学の問題になぜ意識が登場したのか

量子力学では観測によって、もともと多くの可能性のある運動状態にある量子の波束(波動関数)から、たった一つの運動状態が選択される「波束の収縮」が起こることが実験的に示されました。観測前のぼんやりとした量子の波束という実在と、観測するたびに確定される実在との不思議な分裂の解消を説明するために、観測問題が起きたことは「第2回 量子力学の観測問題」でも述べた通りです。そして、なぜ波束の収縮が起きるのかその謎について議論がなされました。

ハイゼンベルグとシュレーディンガーらにより量子力学が構築された1926年から約10年後の1930年代にこの議論が始まりました。物理学者のフリッツ・ロンドンとエドモント・バウアー[13]、そしてノーベル賞物理学者のユージン・ウィグナー[14]が、この観測問題の謎を解く鍵は「意識」にあるかもしれないという説を打ち出しました。ここで量子力学の論争に初めて「意識」が登場しました。

当初、量子力学は、観測対象の粒子だけにあてはまるルールであると考えていましたが、波束の収縮を説明するには、それだけでは説明がつかないことに気付き、量子力学のルールを観測対象から測定装置を構成する粒子にまで拡張しました。しかしそれでも、満足のいく説明は難しい状況でした。そこで、測定装置を使って測定する人を含めて波束の収縮を考察をするようになりました。人の「なにか」が波束の収縮をもたらすと考えたのです。その「なにか」は量子力学の法則に従わない、量子の法則に取って代わられるものでした。それがまさに「意識」でした。

量子力学に意識を取り入れた観測問題の説明はとても魅力的に見えます。しかし、量子力学の系に意識が介在してこの世界で一つの状態が確定して観測されるこの考え方に対して、否定的な立場をとる物理学者は当時も今もいるのは事実です。量子力学は意識となんのつながりもなく、量子力学の波動方程式を使って機械的に計算すれば観測結果を9桁の精度で説明できるのだからこれ以上なにが必要だろうかとする物理学者さえいます。実際、超弦理論の研究で著名なブライアン・グリーンもそのような立場をとる物理学者の一人です[15]。

しかし、仮に量子力学において意識の介入を否定したとしても、波束の収縮を説明する「なにか」が欠落していることは確かです。その「なにか」が意識であるとして、今後研究を進めることは価値があると筆者は考えています。今回、この記事を終える前に、量子力学の観測問題において指摘されてきたもう一つの問題を意識との関連で紹介しておきます。

それは、粒子を観測するとき、観測する主体と観測される対象の線引きが曖昧になることです。量子力学において観測対象に全く干渉せず観測することは不可能であるということです。言うなれば、「主客の融合」のようなことが観測で起きることです。観測対象に意識が介在する立場をとるなら、意識と観測対象(物質)の線引きが曖昧になるということです。このように、量子力学は意識と物質の橋渡しとしての可能性があらためて見えるのです。

次回は、物質から意識への橋たわしとしての可能性を秘める量子論が、意識という広大な世界でどのような位置付けにあるか簡単に紹介してみようと思います。

■ 参考文献

[13] Fritz London and Edmond Bauer, La théorie de l'observation en mécanique quantique, No. 775 of Actualités scientifiques et industrielles; Exposés de physique générale, publiés sous la direction de Paul Langevin (Paris: Hermann, 1939). 英訳 は次の文献に収録。John Archibald Wheeler and Wojciech Zurek, Quantum Theory and Measurement (Princeton: Princeton University Press, 1983), 220.
[14] Eugene Wigner, Symmetries and Reflections (Cambridge, MA: MIT Press, 1970).
[15] Brian Greene, Until the end of time : mind, matter, and our search for meaning in an evolving universe (First ed., New York: Alfred A. Knopf Books, 2020). 日本語版は次に収録。「時間の終わりまで」講談社(2021年).

よろしかったら次の回もご覧ください。

by Jaros

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