冪零でない複素可解リー環でキリング形式が恒等的に0である例


佐武一郎著「リー環の話」第5章問題4の冪零でない可解複素リー環でキリング形式が恒等的に0である例を見つけました。

$${\mathfrak{g}}$$ を $${e_1,e_2,e_3}$$ を基底とする3次元複素ベクトル空間として,括弧積を

$${[e_1,e_2]=0,[e_1,e_3]=e_1,[e_2,e_3]=ie_2}$$ で定義します.

(これを双線形性と交代性を用いて $${\mathfrak{g}}$$ 全体に拡張することで括弧積を定義します.)

するとこの括弧積はJacobi恒等式を満たすので,$${\mathfrak{g}}$$ は複素リー環をなすことがわかります.

このとき $${C\mathfrak{g}=D\mathfrak{g}=[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]=\{e_1,e_2\}_{\mathbf{C}}}$$ より $${C^2\mathfrak{g}=[\mathfrak{g},C\mathfrak{g}]=C\mathfrak{g}}$$

となるので $${\mathfrak{g}}$$ は冪零リー環ではありません.

一方で $${D^2\mathfrak{g}=[D\mathfrak{g},D\mathfrak{g}]=\{0\}}$$ となるので $${\mathfrak{g}}$$ は可解リー環です.


さて $${ad:\mathfrak{g}\rightarrow\mathfrak{gl(g)}}$$ を $${\mathfrak{g}}$$ の随伴表現として $${ad(e_j)}$$ を $${e_1,e_2,e_3}$$ に関して行列表示すると

$${ad(e_1)=\begin{pmatrix}0&0&1\\0&0&0\\0&0&0\\\end{pmatrix}}$$,$${ad(e_2)=\begin{pmatrix}0&0&0\\0&0&i\\0&0&0\\\end{pmatrix}}$$,$${ad(e_3)=\begin{pmatrix}-1&0&0\\0&-i&0\\0&0&0\\\end{pmatrix}}$$

となるので $${B(e_i,e_j)=0}$$ がすべての $${i,j=1,2,3}$$ に対して成り立ちます.

キリング形式は双線形形式なのでこれでキリング形式が恒等的に0であることがわかります.

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