【第1話】なぜ算数を学ぶの?
今日は土曜日。
T先生の朝は遅い。時計の長針と短針が重なり合う時間に起きる。
朝ごはん(?)を準備しようとしたが、あいにく冷蔵庫の中は空っぽ。重い身体を仕方なく動かし、近くのスーパーへ向かうことにする。
さっきまで雨が降ったのだろう。地面が濡れている。それが嘘のように今は太陽にさんさんと照らされている。
公園の前を通りかかったとき、2人の子どもたちの声が聞こえた。いつもここで遊んでいる小学校中学年くらいの2人。おそらくご近所さんであろうが、まだ挨拶すらしたことない関係だ。
「月曜日も算数の授業ある〜」
「イヤだな〜」
こういう類の話にT先生は黙っていられない。それは、自分が好きなものを悪く言われた怒りではなく、この2人をなんとかしてあげたいというおせっかいだ。
「2人とも算数は嫌いなん?」
ご時世的に知らない子どもに話しかけるのはいかがなものか。しかし、そんな不安をものともせず、2人から返事が返ってきた。
「うん、イヤや」
「嫌いではないけど、難しい」
どうやら2人は、こうくんとりんちゃんという名前らしい。
T「オレはT。高校で数学を教えているんだ。2人の話が気になってしまってね。」
こう「算数がイヤってこと?」
T「そう。ところで2人はなんで算数を学ぶか考えたことある?」
こう「考えたことない。」
T「実は算数を学ぶ目的は3つあるんだ。なんだと思う?」
こう「そんなにあるの?なんだろう?」
りん「この前、お母さんと買い物に行ったとき、お肉に20%引きのシールが貼られていて、学校で習っていたからすぐに何円か求めることができた。」
T「おっ、すごい!学校で勉強したことが役立ったんだね。そう、今言ってくれた通り、目的の1つは算数は日常生活の役に立つから学ぶんだ。」
こう「そんなこと考えたことないなぁ。」
T「こうくん、正解!」
こう「え、なにが?」
T「目的の2つめは、考える力をつけることができるから学ぶんだ。」
こう「たしかに算数の授業では、どうやって計算しようか考えることが多いなぁ。」
りん「でも、それ以外になんで学ぶかもう思いつかないよ。」
T「最後の1つはね、」
りん「うん。」
T「算数はおもしろいから学ぶんだ。」
りん「なにそれ!」
こう「へんなの〜」
T「よし、じゃあそんな一面を覗いてみようか。」
りん「わ、見て!虹が出てる!」
こう「ホンマや!」
T「ちょっと!話聞いてる?
よし、今から虹の数字を見に行こう。」
こう「そんなのあるわけないやん。」
T「算数はおもしろいからね。」
りん「どこに見に行くん?」
T「うーん、、よし、あそこの砂場に行こう。」