保育現場から見る「マタニティリープ」:「お母さんが健康である、幸せであることが子どもの育ちに大事です」〜前田武司さんとの対談から
本日は石川県社会福祉協議会保育部会部会長で社会福祉法人額小鳩保育園など4つの施設を運営する理事長でもある前田武司さん(タケさん)にお越しいただきました。マタニティリープ共同代表のなべゆき こと 渡辺有貴とは20年近い家族ぐるみのお付き合いで、ママを応援する本の出版に際して、今回対談させていただきました。保育の現場で起きていること、そしてタケさんの思いとマタニティリープの思いをお話します。皆さんにとって妊娠出産子育ての経験が広がったり、今感じたり経験されていることの意味が感じられるような記事となったら嬉しいです。
石川県の状況と保育の現場
――お久しぶりです。その後、石川県の皆さんの状況はいかがですか?
地震の直後、いろいろと協力してくれてありがとうございます。現在は2割ぐらいの就学前の子どもが地元から離れて散らばっている状態です。保育者も2割ぐらいが辞めてしまっています。
――安心した日常に早く戻ることを祈っています。そんな中、対談をお引き受けいただいてありがとうございます。
まずは、普段どんなお仕事をされているのか、お聞きしてもいいでしょうか?
石川県で社会福祉事業を営む法人の理事長をしています。こども園と保育園を運営しています。あとは、全国に保育の3団体がありますが、その一つで民間も公立も所属している全国保育協議会というのがあります。その下部組織にあたる石川県保育部会の長をしています。世話役です。(笑)組織の中には保育士会があります。
保育の課題と展望
――そのお立場からいろんなことが見えていらっしゃると思うのですが、最近はどんなことを課題と思われますか?
経営者や管理職という立場から見ると、少子化が切実に感じられます。出生率が1.20。73万人ぐらいしか子どもが生まれないわけです。保育園やこども園の存続が大きな課題になってきています。これからますます少子化が続きます。保育施設は明らかに少なくなってきています。
以前から大学の存続が厳しいと言われてきました。そういった流れの中でも
福祉職はそもそも人気がなく、保育希望者は更に志望者が少ないという状況にあります。保育施設は、一時期待機児童の問題で定員が増えましたが、現在は空きが多いです。東京でも充足率9割。1割空いているわけです。
子どもの発達と保育の目的
――そんな環境なんですね。その中で、どんなことを願っているというか、感じていらっしゃいますか?
確かにそういった課題は表面的にありますが、子どもをどう育てるか?ということですね。保育の目的の一つに、一人一人の発達を保証するというのがあります。このことは当たり前だけど、注意が必要な考え方です。発達心理学がベースになっていますが、問題の一つは発達や能力に焦点が当たりすぎていることです。確かに年齢相応の発達が見られ、能力が育つに越したことはないですが、人の幸せという観点から観れば、それは決して十分条件ではありません。どんなに学力が高くても不幸な人はいるし、障碍を抱えていても幸せに生きることはできます。
もう一つの問題は、正常に発達するかどうかの原因がその子自身の中に求められ、もし発達に問題があるとなると、その原因を除去したり改善するために、その子を変えて問題解決しようとする傾向です。例えば、発達障害といわれると、どうしてもその子を変えようとしてしまうんです。でも本当はその子と周囲の人の関係のあり様が課題で、その関係をどう築くかということが、それこそその子を生きづらくさせたり、反対に幸せにする鍵です。その子を変えさえすればよいということではないんです。何かができるようになるということだけではなく、理解してくれる人がいて、コミュニケーションが苦手だけど、理解してあげれば、それが幸せだよねということが大事なポイントなんです。
発達支援とそのアプローチ
――なるほど。その子ができるようにしていくことだけが目的ではないんですね、発達支援とは。
操作してその子をきちんとさせるということではないんです。発達だけが目的ではないということです。OECD内でも教育において発達にこだわりを持っているところと、アイデンティティの形成を主に支援するところと2つに考え方が分かれています。子どもを一つの人格として尊重し、この子は何に興味を持っているんだろう?関心があるんだろうといったところからアイデンティティの形成を大事にしていくのが発達支援だと私は考えています。
発達についての偏った考え方は社会一般に広がっていると思います。多くの保育者やお母さんは発達の延長上の物差しで、人よりできた方がいいし、それは本人次第という考え方を疑っていません。でも、大切なことは、あなたにとって大事なことは何か、どう生きたいのかです。そして、苦しいときは助けてほしいといえる人間関係を作っていくということが大切です。そのような人間関係づくりをサポートしたいということなんですね。
子どもとの対話と関係性づくり
通常の保育でも子どもの育ちを支えるには、お母さんと子どもの関係を支えるという考え方になっています。日本もこども家庭庁が始まって、キャリアのブランク、その人の望んでいることを理解して、支えるということを始めています。
――その人がもっとハッピーになる環境をどう作るのか?ということですね。ママを応援するマタニティリープという考え方や実践を発信していますが、「選択肢と可能性を広げる」ということを大事にしています。誰かが犠牲になるのはいい方向へはいかないわけです。助け合える環境を選択肢と可能性からいかに作るのかというのは保育と保育を支えるタケさんたちと同じで、ママを応援して、そして応援もしてもらって、もはやどちらが応援していて応援されているのかがわからないというのが理想だと思っています。
そうなんです。OECDが提唱する、共主体:Co-agencyという考え方があります。子どもだけではなく、保護者同士がつながって、学び合い支え合うということです。保護者会もお手伝い何人が必要ですとかではなく、保護者も一緒に対等な関係で子どもの話を話していきましょうと関係づくりをしています。だから対話がキーワードです。子どもとの対話、先生との対話、親との対話。フラットな関係での対話です。保育者がまず慣れていくということで何年か前からトライしていきました。それを応用して、子どもの年齢に合わせて、自分たちで話して、自分で決めていくということをやっています。
子どもたちの自主性と行事の在り方
――実際にどのようにされているのでしょう?
何かをやる時のプロセスの中のポイントとして実践しています。例えば、園で子どもたちが行う行事です。伝統的な行事はそのあり方を伝承することが大切になりますが、それ以外の行事では、何をやるかは子ども達が決めて日程もフレキシブルでいいんです。保護者にも参加してもらって一緒に作っていけるような形です。「四季の会」という行事がありますが、例えば日常の保育で経験した絵本から発展し、親子でよもぎ団子づくりにつながってというような積み上げ式です。
ママたちの奮闘と保育園の役割
――すごいですね。私も三人子どもがいて、正直仕事をしながら子育てをするのは大変です。先ほどの発達の話ではないですが、子どもはなかなかいうことを聞いてくれないし、真っ直ぐにはことが進みません。だからその大変さというかすごさを感じます。
そうなんです。子どもは思うように育たない。二人目、三人目は見通しが持てるので手抜きができるけど、初めての子は大変です。経験がこれまでにないから。保育園は親子で登園します。だからその不安や職場での出来事や愚痴も含めて、受け止めて、共感していくことを意識しています。子どももそうなんだねと受け止めます。保護者の方にも、押し付けず、こうして育つんだよって。それを支えるのが仕事です。少子化で経験が少ないのもありますし、例えば転勤で頼れる親がいないと、保育園に来る人もいます。だから支える。コロナの時期は特にコミュニケーションがとれなくなりましたが、今は対面でそれができます。
少子化の影響とその対策
――話がずれますが、少し前に出生率1.20というニュースがありました。あれは一人目が生まれたけれど、二人目を躊躇する人が多いのかな?と私は受け取ったのですが、どうでしょうか?
少子化の理由の大きなところは晩婚化や非婚化です。カップルになることが減っていてシングルが多いというのがありますね。
――そうなんですね。私がこの活動でお母さんと接していると、例えば大きな企業で働いていて、30代になって、一人目を出産したけれど、出世やキャリアのことがあって二人目を躊躇するという話をよく聞きます。躊躇していたらそのまま時間が経っていって、お子さんは一人というような。この活動をしていて思うことは、「安心して悩んでいい」ということです。正解はあるようでないから。そして人によっても正解は違う。
保育者として大切にしていること
――ところで、タケさんがこれまで大事にされてきたことはなんですか?
家族も含めて仕事の仲間です。私は元々この業界にいたわけではなかった。私には三人子どもがいますが、この業界に入って反省しました。私自身が父として子どもの成長を見つめていると、思い通りに行かないわけです。「良くも悪くも親の期待を裏切っていく」というのが成長なんですね。だから子育てはこうだとは言えません。親以外のたくさんの人との出会いで育てられること多いです。
一方で、今、日本の公立学校は限界にきています。そんな中、オルタナティブスクールに興味があります。来年度から発達支援のスクールを立ち上げたいと思っています。就学前の子どもの支援と放課後デイサービスもですね。人間関係が豊かで、自ら学んでいけるような場所を目指しています。
例えば、こんなことがありました。ある子供が他の子供を噛んだんです。保育の側からすると、ダメでしょうとなるところなんですが、子ども同士の方がわかっている。
「先生、この子は噛むことが言葉なんだよ」と。その子の表現をわかって、関係性を作っています。
また、子ども目線で言うと、お母さんのwellbeing。つまりお母さんが健康である、幸せであることが子どもの育ちに大事です。それがなかなかできない。それが可能になる仕組みが大事です。支える/支えられるようなことが可能な仕組みがです。お母さん同士もいろいろなので、そんな支えの仕組みがあるといいですね。
パパの育児と職場の環境
――先ほどタケさんの子育ての話が出ましたが、パパさんの方はどんな感じなんでしょうか?
実は今年、男性の育休1号が保育園で出ました。一般的に男性は弱音を吐けない。男は弱音を吐いてはいけないという文化の中で育っている。だから、素直に弱音を吐くことは難しいと思います。子育てを通して、自分の内面に気づいて、それを言葉にして話していくということができるといいと思います。
また、職場ではコロナ禍を経て、いろんなことが起きています。例えば、妊活している人もいれば、妊活していても叶わないこともある。そんな場合は養子縁組のような選択肢もありえます。いろんな人がいろんな思いで妊娠出産子育てに関わっていて、その思いを知ったりすることもあります。答えはないのですが、そんなことに思いを寄せることがあります。
マタニティリープの未来と可能性
――そろそろ終わりに近づいてきました。この対談を経てこのマタニティリープという活動でどういった変化が生まれるかということを思います。私が思っているのは、それぞれの当事者がつながりの中で本音を話せ、話すことで夢や希望を見つけていくことができたらいいなと思っています。この本音、つながり、夢の3つのセットをマタニティリープコンパスと呼んでいます。このコンパスを使って保育の現場やパパの話にもあるように、その人なりの選択や関係性の中で進んでいくことができたらと嬉しく思います。
今日はお忙しい中、お話を伺わせていただき、ありがとうございました。
編集後記
タケさんとの対談では、保育の現場では子どもとその親御さんを支えるという言葉がとても心に沁みました。同じ意図を持って、秋に出るママを応援する本を執筆しています。
その出版のクラファンもあと4日となりました。今週は無料のクラファン感謝トークイベントが目白押しです。9日と13日のイベントはアーカイブ配信もクラファンのリターンとしてありますので、どうぞ引き続きご支援やクラファンのシェア、そしてインスタなどのフォロー、どうぞよろしくお願いいたします!
***今週のトークイベント**********
7月9日20-21時@終了しました!アーカイブ配信、リターンにあります。
「ママとパパのwellbeing」
by山田博さん&渡辺有貴
https://peatix.com/event/4040051/
7月11日20-21:30@本日です!
「フェミニズムの歴史から 『脱ママ』を考える」by近藤あつこさん&中西実和&渡辺有貴
https://peatix.com/event/4039746/
7月13日10-11時
「罪悪感」からの解放 ー女性が自信をもって活躍するためにー by葛山智子さん&渡辺有貴
https://peatix.com/event/4039096/
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