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エア・地方めぐりの開始

密を避け感染リスクを下げる行動が推奨されるようになってから、私も時差通勤を始めた。
私が通勤で使う電車は、遅い朝より早い朝のほうがまだ空いている、ということがわかり、朝は5時過ぎに起きて6時半ごろの電車に乗り、7時過ぎには出社する、という毎日を送るようになった。

早起きは昔からとても苦手で、起床してから何時間経ってもまったく血圧が上がらず、目の前にあるさまざまなものが、目には入るが見えてはおらず、たとえ誰とすれ違おうが挨拶もできず、茫然としたままオフィスに到着し、よれよれと椅子に座り込んでパソコンを立ち上げるような状態を毎日続けていたが、あるときから私は変わった。

そう。ふるさと回帰支援センターでの体験を経て私には、「移住をして花や木を育てる仕事、あるいは農業に就く」という目標ができたのだ。

早起きは相変わらず苦手だったが、人が少ない早朝の電車でスマホを開き、島根県の移住相談サイト(くらしまネット)に自身の詳細情報を登録するとともに、他の道府県の移住についても、熱心に調べるようになった。

ほどなくして、「花や木」と「農業」を組み合わせるのが最適解だと気づき、花生産量の多い道府県を調べ、その地域の移住相談窓口に行こうと決意した。
花の生産量が多ければ当然、花農園の数も多く、そのなかのひとつくらいは私が働く余地があるのではないかと考えたのだ。

調べればすぐに、農林水産省が発表している「作況調査(花き)」に行くつく。
そして知った。花の種類にもよるが、花きに強いのは「北海道」「愛知県」「静岡県」だ。特に、「愛知県」が強い。
しかし、北海道への移住は、あまりに気候が違いすぎてとてもじゃないが、自分が適応できるとは思えない。
また、愛知県は人口も多く大都市・名古屋があるのだから、移住者なんて期待していないだろうと考えた。

そして考えた。
私は、花の中でも特にバラが好きだ。
バラの季節(春・秋)には、バラ園や植物園のバラ花壇で、4時間ほど過ごすのを、毎年とても楽しみにしている。

バラの生産量が多いところ、あるいは有名なバラ園があるところはどうだろうか。

あちこちのサイトを見ていくうちに、ひとつの情報に行き当たった。
それは、徳島県だ。
徳島県は、洋ランなど特定の種類に限られるようだが花の出荷がそれなりにありそうで、かつ、いくつかバラ農園・バラ園があるということだ。
徳島県は、気候も温暖だろうし静かな町も多そうだ。
私の興味関心は一気に徳島県へ集中した。
そして、徳島県の移住相談サイトを見ると、折しも徳島県の移住セミナーが開催されようとしていた。

私は、慌ててそのセミナーに申込みをし、そしてコメント欄に、「バラ農園での就業を希望している」旨を書き添えた。
すると、翌日、移住相談担当者から早速の返信が来た。
セミナーの応募を受け付けたこと、そして、バラ農園での就業を希望しているなら、セミナー後の個別相談会で、有名なバラ農園がある海陽町の担当者を紹介する旨、記載があった。

私の心は一気に沸き立ち、「海陽町のバラ農園」を調べ、そのバラ園が岡松ローズであることを知ると、得意のネットストーキングで、岡松ローズのオーナーが苦労の末に海陽町でバラ農園を開いたこと、妻と二人三脚で素晴らしいバラをたくさん作っていること、海外からのスタッフも積極的に受け入れていることなどを調べ上げ、移住セミナーを心待ちにした。

そのようにして、徳島県への期待を勝手に膨らませ、心躍る日々を送っていたが、実は並行して調べていた県がある。

愛媛県だ。
愛媛県には、バラ生産で有名な西条市があり、さらに松山市にはフラワーショップが多いということを調べていた。
温暖な気候の愛媛県は、全体的な花き生産量で上位にはならずとも、花農園や花にまつわる仕事がいかにも多そうに思えたのだ。

愛媛県の移住相談サイトを見ると、徳島県の移住相談セミナーの翌日(日曜日)に、交通会館でリアル相談セミナーを開催していることを知った。
前半は事例を交えた講演会、その後は県・農協などの個別ブースで相談ができるというもので、個別ブースの相談は予約不要とのことだった。
同日には、以前申込みをしていた島根県川本町のオンラインツアーの予定を入れていたが、オンラインツアーが終わってから交通会館に向かっても、ぎりぎり間に合う。しかも予約不要だ。
万が一、オンラインツアーが長引いても、予約を入れていないのだから行けなくても問題はないし、もし行けなかったら次の機会を狙えばいい。
そう思った。

そうこうしているうちに、あっという間に徳島県の移住セミナー当日となり、そして私の「エア・地方めぐり」が幕を開けることとなった。


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