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特殊な経験はいらないです。やる気さえあれば。〜川本町の場合〜

徳島県・海陽町のご担当者との個別相談会のあと、私は友人宅で枝豆をつまみにビールを飲んでいた。
もう1人の友人と3人、マスクを付けたり外したりしながら、少量のビールを飲み、なんとなく「最近の話」などをしながら、時間を過ごしていた。

友人たちと大勢で集まったり飲んだりするのが憚られる昨今、とても久しぶりの対面だった。

「友人A」は、勤めている会社の親会社が変わってから、すかした人たちがやってきて、なにかと今までの仕事に文句をつけ、給与まで下がってしまった、と目を伏せながら話していた。

「友人B」は、一人娘が就職したこと、彼女の彼氏がユニークな人であることなどを、楽しそうに話していた。
その膝の上には、飼い猫が喉を鳴らしながら甘えていた。

なんとなくつられて、私は、地方に移住しようかと考えて相談セミナーに参加していることを話した。
2人は、多少驚いたようだが、「急に奥地に引っ込むと、もしうまくいかなかったときに戻ってこれなくなるから、都市部に近いところから始めていくほうがいいんじゃないか」「人口が少ない地域では、ちょっとしたことも噂になるから気をつけたほうがいい」など、地方移住に対するアドバイスをしてくれた。

2人はそれぞれ関東エリアの出身ではあるが、1人は関東エリアの中でも都市部から遠く人口が少ない町の出身で、もう1人は両親が地方に引っ越した関係で、頻度高くその地方を訪れていたので、なんとなく「地方に住む」というイメージが付いたのだと思う。

友人との久しぶりの会話を楽しんだあと、あまり遅くならないうちに帰宅の途についた。

友人からのアドバイスも頭の中に残りながら、翌日は、私は島根県・川本町の移住オンラインツアーに参加した。

川本町は、平成の大合併に加わらず、小さい町ながら独自の発展を遂げてきたところだ。
コンパクトにいろいろな設備が整っている。
オンラインツアーではそのような町の紹介から始まり、中盤には、地域おこし協力隊として赴任した人・している人が登場して、仲良さそうに各々の仕事や生活を話していた。

とても、楽しそうに話す3人の女性。
海外協力隊での経験を持つ人、機織りや染織の勉強をしている人。
私はその方々の話を聞いているうちに、自信がどんどんなくなってきた。

次に登場したのは、元自衛官で今は林業に就いている男性。
炎がゆらめく薪ストーブを背景に、妻と子どもと、とても楽しそうに笑顔いっぱいに話をしている。
こんな家庭で育ったら、子どもたちは幸せだろう。大人になったら都心で暮らそうなどとは、思わないかもしれない。

あまりに幸せそうな人たちの話を聞きながら、パソコンのこちら側で私は、ひどく孤独だった。

この方たちは、川本町に来るべくして来た、という意味性をしっかり持っている。
これまでの経験や得た知識を、川本町に来て存分に活かし、地域に貢献できている。

かたや私は、単に、東京に居場所がなくてさまよっているだけのただの会社員だ。

川本町の、なんの役にも立つことはできない。

セミナー中に質問があれば、随時、オンライン会議システムのチャットに入れていい、とのことだったので、私は、悲しい気持ちをなんとか払拭しようと、おそるおそる書き込んだ。
「地域おこし協力隊は、特殊な経験や知識を持たなければ、なることはできませんか?」
すると、司会者が私からの投稿を拾ってくれた。
「…とのことですが、どうですか?」

質問は、町役場の担当の男性職員に、まわされた。
その男性職員は、少し間を置き、答えてくれた。
「そんなことはないです。特殊な経験がなくても、やる気さえあれば。」

私の思考は、ここでストップした。
やる気はどうやって測るのだろうか?
やる気だけなら、きっと、みんな持っているから応募するのではないのか?

このとき、私はまだ、地域おこし協力隊のことを、それほどわかっていなかった。
このとき、川本町の男性職員の方が回答したこの言葉の理由を、私はもっと後になって知ることになる。

そして、川本町でもし自分が生活するなら、何をすれば貢献できるか、という考えがまとまらないまま、オンラインツアーは終了となった。

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