風が吹いて桶屋が忙しくなる話。
気づけば、新型コロナウイルス感染症と同居するような日常になっている。
数日前にも部下が陽性者になったが、自部署に陽性者が出たときの対応・申請にも、すっかり慣れてしまった。
きっとそんな人は、私だけではないと思う。
この感染症のせいで、仕事を失った人、家族を失った人、年に一度の楽しみを失った人など、なにかをなくしてしまった人は多い。
私も、長年にわたり情熱を傾けてきたことを、やめた。できなくなったのだ。
他方で、この感染症の影響で仕事が増えている領域がある。
病院などの医療機関はもちろん、目も回る忙しさだろうが、例えば衛生用品や消毒スプレーなどのメーカー、あるいは通販ユーザーの増加により宅配便の会社などは、社会のニーズ拡大に対応しようと必死だろう。
儲かるのか儲からないのか、それは別として、コロナのせいですっかり忙しくなってしまった領域が、ある。
消費者ニーズとはまた違う領域にも、ある。
それの追い風となったのは、コロナを機に規制改革に勢いがついたことだ。
ビジネスシーンでDXという流行語ができ、規制改革担当大臣の発言が話題になり、さらにデジタル庁もできた。
欧米から見てひどく遅れをとっていた「日本の紙文化」からの脱却を、図っている。
紙文化がなくなれば、物理出社が減らせて、コロナ禍に対応した「在宅勤務」「分散勤務」が実現できるのだ。
企業や自治体での「証憑」のデジタル化や、既得権益に守られ進まなかった医療のICT活用なんかが、課題として挙げられた。
そして、急激に「舵を切る」状態になりつつある。
急に方向転換しようとすると、その周辺では激しく波が立ち、下手すれば巻き込まれて命を落とす。
そんなことはわかりきっていても、感染症拡大防止のために、人と距離をとり、接触を避けたいこの状況では、とても重要な解決すべき課題だ。
そんな、激しく波立つ渦中に身を投じた会社に勤める私は、「DX」をキーワードによくわけのわからない仕事に追われ、よくわけのわからない社内政治に巻き込まれて身も心もぼろぼろになり、足元に口を開けた陥穽を、じっと見つめるようになった。
風が吹いて、桶屋が儲かるか儲からないかは別の話だ。
ただ、ここに金の匂いをかぎつけた人たちが群がり、ブルーオーシャンはあっという間に赤潮に飲まれた。