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甲状腺がんと放射線治療

難病の話をしていたところだが、がんの話もしてみたくなったので、今回はまた甲状腺がんのお話です。

私は甲状腺を全摘出したのち、アブレーションという放射線治療を6回受けた。
最初は2回で終わる予定だったが、手術で甲状腺を全摘出しても細胞レベルで甲状腺の組織というものは残っていて、半年ごとに繰り返し6回行った。6回終えたところでアブレーションは一旦終え、医師と相談の上、しばらく経過観察のみ行うことに方針を転換した。
なぜかというと、「生涯浴びれる放射線量にも限度がある」という医師の説明があり、既に1/4くらいは浴びている、とのこと。
このまま半年に一度のペースで放射線治療を続けるより、将来転移等があった場合に備え、放射線治療の余地を残しておいた方がいいのでは?と素人なりに考えた。医師もこの考えに同意してくれた。

前置きが長くなったが、アブレーションのことについて書きたいと思う。
まず、放射性ヨウ素(1,000ベクレルくらい)を経口摂取し、体内から残存甲状腺組織に放射線を浴びせる、というもの。

大震災の後、「放射能」(正確には放射線を出す能力が放射能なので、誤用である)という言葉が一人歩きして、放射線にアレルギーを持っている人も多いと思う。
私の妻もそういうタイプだった。
「1ベクレルも取りたくない」と言い、ネットでロシア製のガイガーカウンター(線量計)を購入。空いた時間に自宅の周囲の放射線量を測定していた。さながら放射能警察の様相である。
日本の水は危ない、とクリスタルガイザーを買うことも強要された。
500mlのペットボトルで家庭の飲料水を全て賄うのは大きな出費だったので記憶に残っている。
(なお、決して元妻を非難したいわけではない。当時は不安を煽る偏向報道等も多く、このような思考に陥ってしまうのも理解はできる)

私は「そもそもバナナに数ベクレル(カリウムが含まれている)あるし、飛行機に乗ったら100マイクロシーベルトくらい浴びるよね?」と合理的に考えるタイプなので、放射線に対する理解不足からくる「アンチ放射能」のような思考ではなかった。そのため、アブレーションに対する不安も正直全くなかった。

余談であるが、私の住んでいるところの新聞(地域新聞)は、「今日の放射線量」と題し、放射線量の数値の記載と「健康に影響があるレベルではありません」と必ずコメントがある。
そこに「どのくらいなら健康に影響が出るか?」といった考察のようなものは見受けられない。
個人的には、がんで仕方なく放射線治療を受けている人の心情も少しは理解して欲しいと思うのだが、放射線を有害物質のように印象操作するのは正直やめていただきたいと思っている。

また、アブレーションを受けるには、家族の協力が得られることが前提である。
(介助者も一定程度の放射線量を浴びることとなるため)
私は既に離婚していたので、同居している血縁上の両親に同意を得るだけで済んだが、パートナーが放射線に対する正しい知識を持っていること、これが一つのハードルである。

また、甲状腺を全摘出している場合、TSH(甲状腺刺激ホルモン)の値を上げるためにチラーヂンを中断しなければならない。これが2つ目のハードルといったところか。素人知識だが、一時的に甲状腺機能低下症のような状態になることが予想される。
最近は「タイロゲン」という注射薬でチラーヂンを中止することなくTSHを上げる方法もあるようだ。(値段は少々お高くつくのだが、体調を崩したくないので私はこちらを選択した)

アブレーション当日は、まず放射性ヨウ素を経口接種。普通のカプセル錠剤のようなものなので飲むのはごく簡単だ。
その後、放射線隔離能力のある個室にご案内され、一定時間経過後に医師が防護服を着て入室。線量計で放射線量を測定。一定の値以下であれば帰れる、というものである。
ただし公共交通機関は利用できないので留意してほしい。
(物理的に距離が近い人に被曝のリスクがあるため)
私は自分で車を運転して家と病院を往復しただけ、という単純なものである。

ただ、3日間は出勤禁止となる。人の集まるところにも行ってはいけない。
流石に「職場に来い」とか「テレワークでも仕事しろ」とは言われないので、私は精神疾患からくる蓄積した疲労を減らすためのちょうどいい機会ととらえ、休むことにただ専念していた。

アブレーションの翌々日に画像撮影を行い、1ヶ月後に効果を検証する。
また、放射性ヨウ素の投与から3日を過ぎれば、通常生活が可能となる。
ただ微量の放射線を発しているので、携帯用の治療カードを渡される。国境の入国審査などでは高度の放射線検知器を用いているようだが、仮に引っかかってしまっても治療カードを見せれば大丈夫だ。(英文の記載もあり)

私は何度アブレーションをしても喉元の黒い影(甲状腺の細胞レベルの残存組織)が消えず、結果6回受けても消えることはなかった。アブレーションの目的自体は残存甲状腺組織の破壊であるが、細胞レベルで甲状腺が残っていると黒い影として写ってしまう。
私の場合、リスクとベネフィットを比較衡量して、アブレーションは6回で終えることにしたが、普通は2回くらいだというので多いようなのではと思う。

その後は特にチラーヂンを服用していれば、日常生活に支障はない。
本記事が、アブレーションについてご不安に思っている方のご参考になれば幸いである。





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