お面(ちょっとだけ怖い話)
また1つ昔の話を思い出した。今日もあなたにその話をしよう。誰かに話さないと私が眠れないのだ。
そう、あれは私がまだ小学生に上がって、まもない頃だった。貧乏だった我が家は、母方の兄、おじさんの家に、いそうろうして暮らしていた。私は、その家で、いとこと遊びながら毎日を過ごしていた。
ある日、詳しい理由は忘れてしまったが、私1人で、その家で留守番をしていた。
誰もいない。その家で、私は一人で、いとこが普段なら貸してくれないおもちゃで遊んだり、いえ中を走り回ったり、一人でなければ出来ないことをやり尽くしてやろうとはしゃいでいた。
さて、次は、布団の中で、1人かくれんぼだ。そう思って、家の奥のほうにある、おじさん夫婦の部屋に入ってみた。その部屋は、雨戸を半開きにした程度で、いつもほおって置かれていて、薄暗い部屋だった。そして、おじさん夫婦の布団が敷きっぱなしにされていた。
部屋の中ほどにある柱には、子供では手が届かないような高さに、お面が飾られていた。薄い目を開け、少し笑っているような口元の、その、お面が、子供の私には、とても不気味だった。今日もその部屋に入るまでは、そのことを忘れていたが、部屋に入った途端、そのお面が目についた。
嫌だなぁと思いながらも、布団で遊びたい気持ちを抑えられず、しばらくは布団に潜って1人かくれんぼで遊んでいた。しかし、少し経つと、やはり、どうにも、その面が気になって仕方がなくなった。そこで、布団の隙間から、そおっとそのお面を覗いてみた。
柱にかかった、目を薄く開けているお面の、その目は、なぜかこっちを見ているように見えた。目といっても、隙間が空いているだけなはずなのに、なぜか常に自分のほうを見ているようであった。
その目に見つめられ、私は、ぞくっと背筋が凍りつき、慌てて布団をかぶった。どうにも気を紛らわしたくて、隣の布団にも潜り直してみた。しかし、どうにも気になってしかたがない。そして、結局、私は、また、お面を布団の隙間から覗いた。やはり、こちらを見ているような気がする。ちくしょう、こんなお面に負けてなるものかと、私は勇気をふり絞って、布団の隙間からお面をにらみつけてみた。
すると、その時だ。お面がみるみる大きくなって、私を強く睨みつけ、そして、ググッと勢いよく迫ってきた。
私は、びっくりして恐怖に怯え、布団の隙間をピタッと閉じた。そして布団の中で、ただただ震えた。怖くて声は出なかったし、例え、いくら叫んでも、今日は1人で留守番をしているのだ。誰も助けにはきてくれないだろう。
どれくらい布団の中に潜っていただろう。お面は布団の中には襲って来ず、何事も起こらなかった。
怖かったが、いつまでも、布団の中にじっとしてはいられなかった。おしっこがしたくてたまらなかったし、かなり、息苦しくもなってきた。それでもしばらくは、怖くて我慢していたが、私はついに意を決して、お面がどうなったのかを確認しようと、布団の隙間をゆっくりと開けると、そおーっと、柱のほうを見上げてみた。
すると、なんと、柱にかかっていたはずのお面はなくなっていた。なぜだ?私は、そのことに、また、びっくりしながらも、そうだ、この隙に逃げるんだと、部屋を飛び出した。あまりに慌てていたので、出口付近の障子に手を突っ込んで破ってしまいながらも、必死でその部屋を飛び出して、明るい光の指す方へと走って逃げた。
まもなく、おじさんが家に帰ってきた。別の部屋でその後ずっと震えていた私は、ほっとして、今日の出来事をおじさんに話そうとした。
しかし、私は急に黙り込んでしまった。なぜなら、今日のおじさんの顔はいつもと少し違っていた。いつもより、薄い目をして曖昧に私を見つめて、笑っていた。
そう。あの、お面のように薄い目をして笑っていた。
END
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