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SF小説「東京安定剤」

「精神にも安定剤が必要なように、この東京にも安定剤が必要なんだ…」
そういう言葉をかけられた私は即座にサッと身を引く思いになった。何か本能的な恐怖というか、そういう根源的なモノを感じ取らざるを得なかった。

私はこの東京に来てどれくらい経つだろう。日記でもつけてりゃ毎日何してたかは分かるだろうけど、あいにくそんな習慣があるぐらいなら、こんなところまで何も深く考えずに来ちゃいない。
というのも、もうお察しの読者もいるだろうけど、実は家出してきたんだ、私。私の住んでる田舎が嫌ンなっちゃって…。というと訳アリな感じだけど、まあよくある〝訳アリ〟ってヤツかな。ってことで私の名前は…差し障りがあるだろうし、一応仮名を使っとく。まあ〝アリコ〟でイイかな。テキトー!

ってな超テキトーな自己紹介ついでに年齢も一応言っとくかあ。まあ14歳…かな…?間違いなく補導されちゃうよね…。あと東京のコワ~イ噂は私の田舎でもイヤっちゅ~ほど聞かされて、特に東京に一度上京してUターンしたヒトっていうと聞こえはイイけど、まあある種の負け組のイイワケ…が聞くのがイヤでイヤで…。脱線したね、まあとにかく貯金は一応持ってきたつっても、限界があるのは百も承知。って具合で途方に暮れてたところに、どしゃ降りの雨。とっとと田舎に帰れ、この東京はそんなに甘くねえゾ、とでも言いたいのかなあ?東京サンよォ…。

そんな時コンビニの外で雨宿りしてたら、知らないヒトに声をかけられた。
「嬢ちゃん、見たところ、どっかから出てきた…」
そこまで言われたところで、さすがに本能的に大粒の雨に濡れるにも構わず、ダッシュで逃げた。逃げて逃げて逃げまくった。で、逃げたところがちょうど路地裏のもっとアヤしそうな感じのところ。
「しまった!余計にヤバイところに来ちゃったじゃん」
と言っても時すでに遅し。次の瞬間には私は気を失ってしまったかのようだった。

次に目を覚ました時にはどっかのビルのどっかの部屋の椅子に座らせられていた。
「う~む、この娘はどうだろう、安定剤になるかなァ?」
フト見たらコンビニで見た知らないヒト。何されんだろ私…。こんなことなら家出なんか…。
「ウム、そうだな、安定剤には無理でもクスリにするクスリ〝ぐらい〟にはなるか!?よし、コイツでまた安定剤の候補をかき集めるとするか!?」

そして私はクスリになった。
〝クスリ漬け〟になったんじゃないよ、ママ。
〝クスリ〟そのもの、クスリ自体になったんだよ、パパ。
〝クスリ漬け〟なら、まだイイ…ってコトないけど、まだ立ち直る可能性あるケド。
そんでこのハナシの最初に戻るけど、
「精神にも安定剤が必要なように、この東京にも安定剤が必要なんだ…」
その言葉が私が〝人間〟だった時に聞いた最期の言葉だったかなァ…。
でも知らないヒトが言ってたように、そんなモノにすらなれないんだね、私って…、おじ~ちゃん。
でもね、でもね、私、その〝クスリにするクスリ〟ってのにはなれたんだ、おば~ちゃん。
でも…でもでも…その私が…上京してるお兄ちゃんに…イヤ…お兄ちゃんを…も…クスリ…に……!

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。


以前に書いた元になった小説です。よかったら、ご一緒にお楽しみください。👇


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