初めて買ったCD


スイミングの送り迎えで父親の車でかかっていたのは、
柴咲コウや小田和正。

そういう歌を聴いて育ってきた中で、

自分からCDを買いに行こうなんて思ったことはなかった。

そういうのは大人になってから買う物で、

水泳しかしていない河童小学生だった僕には、

それにお金を使うことの意味がよくわからなかった。

高校生になったころ。

相変わらずの河童だった僕は、たまに九州大会に出るくらいの飛魚にはなっていた。

そんな中で繰り返しルーティンしていたのは、

レンタルビデオ店で借りてきたYUIやBUMP OF CHICKENのアルバム。

そういうのを聴いた時、記録が良くなるものだった。

だけど繰り返す日常の中で立ち止まることはあるもので、

ある時さっぱりと記録が伸びなくなってしまった。

いわゆるスランプである。

練習を変えたりフォームを変えたり様々に試したが、

一向に記録はよくならず。

ついには練習に行かなくなってしまった。

二年生のシーズン終わり、秋ごろのことである。


その頃の僕は小説を書くことを趣味にしていて、

それが心の支えになっていた。

学校から帰ると部屋に閉じこもって、

パソコンに向かって真夜中まで小説を書く。

それから夜中のテレビを見て、眠る。

朝起きて、学校へ行く。

そんな生活だった。

そんな中であった最も気に入りの番組が、当時BS日テレで放送されていた、「音燃え!」という番組だった。

高校生バンドが2組出てきて、各回につき1組、アーティストの楽曲をアレンジ、披露し、スタジオゲストの審査によって勝ち負けが決まる。トーナメント形式で進み、敗者復活戦を経て決勝戦でオリジナル楽曲を披露する。

当時同い年の子たちが音楽をぶつけ合っていて、素直にかっこいいなぁと思って見ていた。(多分再放送だと思う。放送期間が記憶と1年くらいずれてる。)

そしてその第一回大会の優勝者が、「ボブとモヒカン」。

なんじゃその名前?と思うかもしれない。

僕もそう思う。

でもボーカルの女の子のユニークな声質。

ベースの男の子のモヒカンスタイル(彼も当時高校生。いいの!?って思ってた)。

そして何より、楽しそうに演奏しているメンバーたちの笑顔。

名前なんてどうでもよくなった。

もっとゆっくりと生きてたいな
そう思ってるのに
何も変わらずに生きてたいな
そう思ってるのに
僕を乗せて時は過ぎ
僕を置いて過去になるの
            ー変色モノマニアー

当時立ち止まっていた僕にとって、

同世代の女の子の唇から溢れる言葉が突き刺さって、

気づけばテレビの前で涙ぐんでいた。

翌日、避けていたプールに上がり、顧問にたらふく怒られた後、久しぶりに泳いだ。

10月秋の終わり、水温は15度を切っていたけれど、

なんだかこれまでよりもすごく泳げた気がした。

その夜に近くのCDショップへ走り、

彼女たちが出していたCDを取り寄せ。

1週間後届いたそれは、僕の宝物になった。


「ボブとモヒカン」は解散してしまったけれど、ボーカルのヤマモトモモナは現在名を山本きゅーりと名を変えて(!)、「ノンブラリ」というバンドで歌っている。

10年という時を超えて、

また彼女の声を久しぶりに聞けて、

僕も頑張らなきゃ

と思った夜でした。

#初めて買ったCD

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集