たばこの話〜3本目、役者〜
MVが300回再生をいただきましたので、裏話的なものを綴ろうという今回のシリーズ。
今回は、配役した2人について。
今回のMVにおいては、演じて欲しい役者は決まっていました。
まずは主人公役、内田智大。
彼は僕が知る若手俳優の中で、
最も「普通」を知る俳優です。
纏う空気というものは役者それぞれの武器で、それに応じて役が振り分けられるもの
僕はそう信じているのだけれど、
彼は佐賀の若手の中で唯一と思える
「悲しみを抱えた普通の男」
を演じられる役者だと思っています。
普通を知るからこそ、「怪演」と言われる役ができる。
彼の演じる役柄は常にどこか一癖あって、そのくせ妙に人間臭い。
僕は彼のそういう部分が好きで、いつも尊敬の念を持って接しています。
今回の主人公は心のどこかに影を持っていて、だけどそれは、表情には見えない必要があった。
その細かなニュアンスを表現できるのは、僕の知る中では、彼しかいないと思ったのです。
そしてヒロイン、知花ちな。
透明感とミステリアス。明るさと儚さ。
光る笑顔と、その裏に潜む影。
彼女はその表裏を表現できる女性だと思っています。
舞台上で彼女を目にすると、誰かの前に立つ強い女性が多く現れます。
けれど彼女自身は繊細で美しい女の子で、そして芯の強い女優でもあります。
その芯の筋がスッと瞳に顕れたとき、彼女が舞台上で発する「強さ」や「嫋やかさ」に姿を変えて見えるのです。
これはあまり本人には言ったことありませんが、僕はおそらく「女優・知花ちな」のファンなのだと思います。
まあ、そこは置いておくとしても。
今回はそういったミステリアスさを備えた上で、女性らしい強さを持つヒロインを表現したかったのです。
このタバコという歌の女性は、男の視点で描かれるだけで、歌の中では実は表情を見せません。
一緒に見た古い映画。
タバコを嫌がる表情。
ベゴニアの花言葉、「幸福な日々」。
タバコを吸うと、嫌そうな顔をする。
歌詞の中では、わずかにここに綴られるだけの人。
だけど、確かに主人公の中には彼女が存在しているのです。
彼女はきっと。
どこか大人びていて。
たよりなさげな主人公を引っ張るみたいで。
だけど、それはお姉さんとかの関係ではなく、確かに恋人で。
そんな人だと思うのです。
彼女は見事に演じてくれたと思います。
たばこという楽曲が持つヒロインのボヤけた感覚や色を、彼女がこの世に映し出してくれました。
ちなみに、最後の大サビ前のBメロ、この辺りで入る、ヒロインが薬を飲むシーン。
実はこのシーン、当初香盤表にはありませんでした。
ちなさんがこれを助言してくれたことによって、彼女が一体何者だったのか、より質感を持って映像から伝わるようになりました。
彼女がまだこの世にいるのかどうか、それすらもわからない。
だけど、主人公の中に確かに生きる想いがある。
それだけ想える女性がいる。
ちなさんは、本当にそういう女性を描いてくれました。
この2人の撮影時、実は台本を当日に渡しています。
主人公たちの日常のように、少しずつ関係が進んでいくのを見たくて。
だからセリフも最小限です。劇中喋っているシーンは、全て2人の中から出る言葉で喋ってもらっています。
僕がセリフを指定したのは、ここだけです。
楽曲が終わった後に流れる最後のシーン。
彼らが何を話し、何をしていたのか。
それは是非とも、MVをご覧いただき、皆さんの中で考えていただきたいと思います。
というわけで、今回はこの辺りで。
映像の話と少しばかり物語は、次回に。