宮沢賢治 やまなし 本質の解明 ⑩
⑥やまなし
やまなしは、宮沢賢治の「木の実」に対する思い入れの強さから、登場することになったと考えられます。他の作品において、「木の実」がかなり肯定的な意味をもって登場してきます。特に、「木の実」が「落ちてくる」ことにこだわっています。自ら他の生物のために命を与える存在の崇高さを必死に表現しているのです。そして、たいていは「木の実」には、金のイメージが施されます。
中でも「いちょうの実」が最も木の実にクローズアップした作品と言えるでしょう。この作品では、木がお母さんで、その金色の実が子どもたちです。彼らの最後の日の様子を描き、決死の落下で話は終わります。そこには、自ら命を捧げるいちょうの子どもたちの覚悟が感じられます。
「どんぐりと山猫」では、主人公の一郎くんが手紙をたよりに山猫を追う際に道案内をしてくれる「栗の木」が描かれます。
すきとおった風が
ざあっとふくと、
栗の木はばらばらと、
実を落としました。
その他には、りす、きのこ、笛吹の滝が登場します。そして、言い争うのがやはり「木の実」の代表とでも言うべきどんぐりです。一郎くんは、山猫からお礼にどんぐりを一升もらいますが、それはやはり金色なのです。
そして、「風の又三郎」です。この作品で最も有名な部分がこの歌です。
どっどどどどうど
どどうどどどう
青いくるみも吹きとばせ
すっぱいかりんも吹きとばせ
どっどどどどうど
どどうどどどう
くるみとかりんが出てきました。主人公三郎は風と重なるキャラクターで、周りの子どもたちは風の化け物か妖精かもしれないと思い、最終的三郎を疎外してしまいます。
この作品では、三郎がうまく仲間に入れてもらえなかったこともあり、金色が使われないので、少し不気味さはありますが、やはり「木の実」にこだわっています。
もっと簡単に伝えたいです。
これで、「やまなし」が題名となったわけがよく分かってきました。宮沢賢治は、風が吹くことによって木から恵みが降ってくるという無償の自己犠牲こそがこの世の幸いであることに気づいたのです。だから、自分もそうなりたいとまで思ったのでしょう。そしめ、自然の恵を採集して暮らすことの尊さを説いたのです。
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