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同じもの:超えられない壁

伝えたい事が多すぎて、何が一番大事なのかわからない。前までと同じように、ずっとそばにいたい。そうする事だけで、気持ちが伝わればいいのに、それができない。
わかっている。ケンイチの近くにいても触れられないことぐらい、わかっている。手を握る事はおろか、名前を呼んでも声が届かない。

これから私、どうすればいいのだろう?いつまでもこんな事をしていたら、私自身が辛くなるだけなのに、私はケンイチから離れられないでいる。どこに行けばいいのかわからないから、私はこんな事をしているのかもしれない。死んだらすぐに天国とか地獄に行くと思っていた。しかしながら、私は前までと変わらないままでいる。ただわかっているのは、私は自分が死んだことを自覚している事だけ。自分が死んだ事に、気がついていない魂とかが彷徨っているのが幽霊だと思っていた。
病気だった。病気を知った時、私はそれこそ顔が崩れるのではないだろうかというぐらい泣いた。治る事を期待する事の方が辛かった。それは、私が生きる事を諦めたからかもしれなかった。
そして、私は死んだ。
ケンイチが一人でいる姿を見て、安心している自分が嫌だ。私はそう思うようになってきた。
彼の幸せを願いたい。しかし、私の事を忘れられるのが怖い。

ケンイチが中華料理店で冷やし中華を頼んだ。
しばらくすると、店員が冷やし中華を2つ持ってきてテーブルに置いた。ケンイチが、「1つでいいんだけど」と言うと、「お連れさまも注文されてましたが?」と店員が言った。彼は気がついていなかったが、おしぼりも2枚きていた。

ケンイチは怪訝な顔をして、店員に詳しく聞くと、
若い女を後ろに連れて入店し、女は向かい側に座り、彼の冷やし中華の注文に合わせ、「私も冷やし中華を」と話したと言う。

私ではない。
私は冷やし中華など頼んでいなかった。
頼んだのは、多分私よりも年上の女。今まで気がついていなかっただけで、彼女は私が生きている間からケンイチに取り憑いていたのかもしれない。

「死んでも鬱陶しい女だね」

私は生きている時と同じように、顔が崩れるほど泣いた。

ケンイチはというと、冷やし中華一人前の代金だけを支払って店を出ていった。どうせ女と約束しているんだろうな。


おわり


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中島亮
一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!