サクラの誕生日          :超えられない壁

思いつめて「死にたい」と言うと、それを聞いた人は、まるで悪事でも働いていた人のように、急に笑顔を引っ込めてしまうだろうね。過去も未来もない人みたいに突っ立ったまま、刃物の剣先や、銃口を突きつけられたかのような恐怖を感じ、声が出なくなってしまう。
私だったらそうなるね。そんな相談をされた事なんてないけれども、簡単に想像できる。
だから、私は自分の周りの人には何も言わなかった。そんな事を言ったって、聞いた人は困るだろうと思っていた。
だって「死にたいです」なんて言ったって、言われた側は、とにかく何かを言わないと、その場の空気が湿気を吸ったように重たく感じるに決まっている。そうかと言って、下手に何かを言ってしまうと、自分が帰ったあとに、その対応がきっかけでその人は、自殺をはかってしまうかもしれないという心配がちらつく。その時点で、後悔の門の閂が外れるのだろうね。「取り返しのつかない事になってしまう」とか考えてしまうはず。

私がその立場だったら、軽はずみな言葉はかけられないだろうね。わずかな沈黙によって、額からは汗が噴き出す。必死に考えてなんとかあたり障りのないような言葉をかけ、その場をやり過ごしたいと思う。

「死にたいと言う人は、実際に自殺しない」
「本当に自殺するときは何も言わない」
そんな事はなかったよ。
リアルな生活にいる周りの人には言わなかったけれど、私はSNSには書き込んだ。
私は言葉が欲しいわけじゃなかった。
ただ、素直になりたかっただけだと思う。

「頑張ればなんとかなる!」
「根性がないからダメなんだ!」
「それくらい甘えるな!」
そんな事を言う人がいたっておかしくない。そう言いたくなる気持ちはわかる。でも、よけい辛くなるんだよね。こんなに頑張っているのに「もっと頑張れ」って言われたらしんどいよね。

「そう考えてもいい」

まだそんな言葉をくれる人の方がましだった。

コップに水が溢れんばかりに入っている状態。そうだったのかもしれない。
何に精一杯だったのか、今となってはわからない。
だから、私は私の死体を見続ける羽目になった。

桜の木が無いのに、花弁が落ちてきた。
朽ちかけている私の顔を隠すように、はらりと私の頬に落ちてきた。
日付はわからないけれども、きっと今日は私の誕生日なのだろう。


つづく



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中島亮
一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!