ためいき :超えられない壁
自分が話そうとする事におびえたように、カオリと名乗る女性は思わず躊躇した。しかし、止めた息を一気に吐くように語り始めた。
「私は多分、少なくとも3回は『裏』として生まれ変わっている。カオリという名前は、最近病気で亡くなった女の子の事。その前の名前は忘れた。多分、カオリという名前も忘れてしまうと思う。生まれ変わると、そういう細かい事を忘れていくの」
トシヤ君の質問にすぐに答える訳でなく、彼女は長い前置きを話した。恐らくだが、彼女にもわからない事があるのだろう。
俺も、自分が2回目のトシヤ君だと思っていたにもかかわらず、生まれ変わりなんて、与太話だと思っていた。しかしながら、確かに、そんな話はテレビなどで聞いたことがある。
まだオムツをしている子供が、オムツを替えていた父親の顔を見上げて「僕がパパと同じぐらいの年齢だった時も、よく子供のオムツを替えていたよ」と言った事とか、前世でナイフで胸を刺されて、殺された記憶を持つ子供の胸に、そんな感じの傷跡があった、というような話があるのを知っているが、俺は信じていなかった。
「そう。信じられない事ばかりなの。死んだら終わりだって、あなたも思っていたでしょ?実際はそうではなかった。ちなみにあなた達はどうやって死んだの」
トシヤ君は事故の事を語り、俺と俺の母親との関係性を伝えた。
俺はというと、自分が自殺した事を話すのに抵抗を感じた。恥ずかしいような、自分の情けなさに、暗澹とした気持ちになった。
「あなたは自殺したの?なのに、なぜ自由なの?」
カオリと名乗る女の人は、怪訝そうな顔を少し前に出して、そう答えた。そんな事を言われてもどういう事なのか、俺にもわからない。自分に正直になれたから自由になれたなんて、ちゃんとした理屈になっていない。
「もしかして、あの子たちの母親に会ったのでしょう?それで自由になった」
彼女は自分だけで納得した。相変わらず俺は説明を求めた。タチバナさんに視つけてもらってから、俺はわからない事ばかりに遭遇している。
「あのダムは、自殺したい人を引き寄せる場所なの。自殺の名所ってあるじゃない?あれって確実に死ねる場所だと思っている人が目指してくる場所なの。そういう噂を見聞きして、そういう前例を積み重ねていった場所。あのダムはそういう場所でもあるのだけれど、死んだ魂にとっても、悪い場所なの」
カオリと名乗る女の人は、話をする事が苦手なのかもしれない。口を開けば謎ばかり。話が進まない。トシヤ君もそう思っているのか、頬に空気をためて、深い呼吸をしていた。
つづく