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生まれ変わり           :超えられない壁

聞きたいことは色々ある。目の前のカオリと名乗った女の人が、何者なのかという根本的な事は勿論のこと、人は死んでから最終的にはどこに行くのかという曖昧な事まで聞きたかった。

「いなくなる。生まれ変わったとしても、いつかはいなくなるの。そして生まれ変わりではなく、あたらしい魂として再び生まれる」

人の考えている事がわかる系の人なんだなぁと俺は呑気な事を考えた。生きている時に、出会いたくないタイプの人だ。迂闊に悪口なんかを考えたらすぐにバレてしまう。こんな不可思議な現象に出くわしているのに、俺は驚いていない。生きている時の感覚が薄くなっている。幽霊になった俺は、こんな事を普通に受け入れている。

「ねぇ、さっき言っていた、ケンイチとリエコって人達の事を詳しく教えてくれない?」

見た目は子供だが、トシヤ君は40歳ぐらい。俺よりも年上だ。聞きたい事の優先順位が整理されている感じがする。そういう思考力というのは死んでからも成長するものかもしれない。

「ケンイチと呼ばれている存在は厄介なの。それに今回は『表』を殺して、体を手に入れている。静かな方法で、これからも人を殺してゆくと思う」

まるっきり意味がわからない。『表』とか『裏』とか。

「生きている人間の中には、生まれ変わりの魂が宿る事があるの。知らない筈の外国語を話す子供の話とか、ありもしない記憶を語る人の話ってどこかで聞いたことあると思う。それは、1つの体の中に2つ魂が宿っているの。その体の持ち主を『表』と呼んでいる。もう1つが『裏』それが生まれ変わりの魂。『裏』の魂が現れたら、過去の生きた記憶を語る事があるの」

それって、誰もがそうなのだろうか?

「そんなことない。『裏』がある人間は少ない。生まれ変わりの理屈は不明確だけど、おそらく強く願う事でそうなるのかもしれない」

「ねぇ、じゃあ、あなたは何のために生まれ変わったの?」

トシヤ君は自然に聞きたい事を聞いている。俺は、生きている時から聞きたいことがあっても、すぐに聞く事をしなかった。相手に失礼があってはならないと思い、遠回しに聞きたい事を聞く。それは、相手に気がつかせるような聞き方。まどろっこい方法だと思う。相手に同情してほしいとか気がついてほしいという態度で、いつでも誰にでも接していたと思う。

「私はケンイチと呼ばれている存在をいつだって追いかけている。彼の目的がわからないのに、彼を止めなければいけないと思っている」

どうやら、彼女にもわからない事はあるようだ。

「じゃあ、何でタチバナさんをダムに連れていってはいけないの?」

少しだけ間があった。それは深刻な話をする前触れ。そういう間っていうのは死んでもあるものなんだな。

つづく


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中島亮
一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!