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551:頭ン中シリーズ
しまったな。
あたしが気がついたんやし、声かけてあげたらよかった。
なんとなく、恥ずかしかったんや。
めっちゃ後悔や。
気がつくと思ってたんやけど、あかんかった。
あの人、紙袋を置いたまま、電車から降りてもうたで。
今となっては、この匂いが切ないわ。
大声で「すみませーん」って呼び止めたりするんは、あたしにはできへん。
ああいうの、おばちゃんとかやったら、普通やもんな。
知らん人やのに、「ねぇちゃん!」とか言うて、声かけるんは、ある意味、尊敬できるわ。
それやのに、あたしは薄情モンや。「忘れてますよ!」と言えばよかったんや。
できんかった。
声が出せんかったんや。恥ずかしくて。
もしかしたら、家族が、これを楽しみしとるんかもしれへん。
これを忘れたとか言うたら、子供とかやったら、泣くかもしれへん。
あたしが声かけてあげたら、それを救えたかもしれへん。
リアルに「ないとき~!」やんか。
そう考えたら、辛いわ。
あかん。
この匂いは、注目集めてまう。
さっきの人が荷物棚に置いたんは、どちらかと言うと、あたしの上に寄っとるねん。
あたしが買ったみたいになっとる。
恥ずかしいわ。
しかも、大きい袋やん。
あたし一人暮らしやし、こんなに食べられへんわ。
あかん。あかん。
今、あたし持って帰る事を想像してもうたわ。
匂いにやられとるわ。
あたしの頭ん中は、「あるとき~!」になっとるやんか。
持って帰ったらあかんねん。ねこばばや。
せやけど、どうする?
まぁ、そのまま置いて帰るやろな。
なんもない顔して。
せやけど、その後、これは、どうなるんや?
ずーと、このまんまやったら、駅員さんもいずれは捨てるやろな。
あかん。あかん。
あたし今、「もったいない」って思ってもうた。
ほんで、また、持って帰る事を考えてもうた。
あたし食いしん坊キャラやないのに、豚まんの事しか考えられへん。
それも、これも、この匂いのせいや。
強烈やで。
さっきの人、なんで忘れんねん。ありえへんやろ。
子供を泣かすような事したらあかんて。
ホンマ、きついわ。
おし!
着いたわ。このまんま置いて帰ったろ。
あたしは、これに関わらへん。
こんな、白地に赤で印字された紙袋の事は知りません!
「ちょっと!待ち!ねぇちゃん!忘れてんで!」
やっぱりや。
誰かに、声かけられるかもしれへんと思っとったんや。
それやったら、さっきの人に声かけたってや!
あたしの上に置くから、あかんねん。
この電車の中では、この紙袋は、あたしの持ちモンになっとんねん。
「あっ、いや、その……」
「えぇから!えぇから!これ、忘れたらえらい事になるで!」
おばちゃん、閉まる寸前のドアまで持ってきてくれた。
なんて、ええ人なんやろ。ホンマ、尊敬するわ。
「ありがとうございました!」
あっ。あたし、声でてるわ。
親切に触れたら、「ありがとう」って言いたなるんやな。
これ、重いなぁ。
絶対に忘れたらあかんやつやんか。
駅員さんに、さっきの駅で降りた人の忘れモンやと言うて、届けとこ。
忘れた事に気がついてくれとったら、ええんやけどな。
おわり
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