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ダイヤル#88888:創作
「ねぇ?知ってる?#88888に電話して、呼び出し音が聞こえることがあるんだよ」
ナナエが、よくわからない事を唐突に言ってきた。「また」と思ったが、私は、ナナエのこういう話が好きだったりする。
「ふぅん。じゃあ今、かけてみよっか?」
私はスマートフォンを取り出して、普段操作しないダイヤル入力画面から、#888888に電話した。
「つながんないじゃん」
「だから、つながる事があるかもしれないって話」
「つながったらどうなんの?」
「8コール以内に誰かが電話に出るらしいの」
「それで?」
「なんか、願い事を叶えてくれるらしいよ」
テキトー。でも、ナナエのそんなところが好きだったりする。
その夜、なんとなくの思いつきで、私は#88888に電話をした。
「おかけになった電話番号は、現在使われておりません」というアナウンスのかわりにコール音が鳴った。
けれども、私は恐くなって、1コール目で電話を切った。
夜中。
電話のバイブ音で目が覚めた。
どうせナナエだと思って、表示も見ずに電話に出た。
「もしもし?よかった!つながった。ヤエコか?」
聞き覚えのある男の人の声。
「電話に出られなくてすまなかったな!お父さん、嬉しかったよ。元気か?」
驚いた私は、再び電話を切った。
父は、8年前に亡くなったのだ。
震える音がした。
スマートフォンが揺れている。
#88888からの着信表示が見えた。
8コール以内に出る勇気はない。
仮に父だとしても、願い事を聞くのは怖い。
おわり
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