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夢に出る
「なぁ。生きている人間の夢に出るというのはどんな感じなんだ?」
幽霊が夢に出てくるというのはよく聞く話だ。しかしながら、俺はそういう経験がない。本当にそんな事ができるのだろうか。
「その人の夢を一緒に見る訳ではないんだ。枕もとで語りかける感じ。寝ている時って言うのは、そういう隙があるんだ」
トシヤ君の説明を聞いても、俺はピンとこなかった。
「俺の母さんと会話はできるのか?」
「できなくはないと思うけれど、それができた事は僕にはなかった」
「それはできないって事だよね」
「まぁそうなるか」
要するに、人が寝ている時というのは無防備という事だな。霊の声が聞こえやすいのだろう。昔から幽霊が枕元に出るというのは有名な話だ。
「会話ができなくてもいいや。母さんに俺の声が届けばいい。トシヤ君はコツを知っているんだよね。今から行こうか?」
移動する事も、俺にとっては初めての経験だった。生きている時のように両足を交互に出すわけではない。意識すれば、行きたい方向に滑っていくという感じだった。
「そうそう。上手いね。もっと簡単に動く手段は、お母さんの事をイメージする事。会いたい人がどこにいたとしても、その場所に飛んで行ける。僕らには生きている人物の気配がわかるんだ。それを辿る事ができる」
なんだか漫画みたいな話だと思った。しかし、やってみると母さんの気配はすぐにわかった。懐かしい匂いがするような感じ。といっても、幽霊になると匂いはわからないんだな。死んでからは嗅いだことがない。気配というのは嗅覚のかわりに身についた感覚かもしれない。
「そんなに遠くではないから、ゆっくり行こう。慣れたら海を越える事も一瞬になる。瞬間移動みたいなものなんだ」
つくづく自由になれてよかったと思う。自殺した魂は不便だった。それが普通だと思っていたけれど、自分で命を絶つことは特殊だという意味がわかった。
「あれ?誰だ?」
トシヤ君が声をあげた。俺にも視えた。生きていない。その証拠に彼女は少し浮いている。俺にとっては2人目の幽霊だ。
「ダムには行かない方がいい。あいつらが何を企んでいるのかわからないけれど、『母親』を連れていっては駄目」
ダム?女の幽霊が何を言っているのか俺には理解できなかった。ただ、俺の母さんの事ではない気がした。それはタチバナさんの事を言っているのだと感じた。
つづく
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