散る桜:超えられない壁
やっぱりね。
そうなったら嫌だなって思っていたのに、こうなってしまった。
やってみなきゃわからない事ってあるじゃない?
極端な事だから、理解できない人の方が多いと思う。
でもね、私は後悔なんかしていない。こうなる事も予測はしていた。
だから、こうなっても、前よりかは気は楽かな。
出来事?なんて呼んだら不謹慎かもね。
私がやってしまった事だもん。事故じゃないよね。
事件だもんね。
散る桜ね。
あぁ。私、自分の事をそう表現していたの。
別に、美しく散りたいって事じゃないよ。
妹とね、見た桜が綺麗だったの。ただそれだけ。
毎年「来年も一緒に見たいね」なんて言っていたっけ。
2年。
私は一人で桜を見たよ。
うん。私は頑張ったと思う。でもね、今年は耐えられなかった。
もう桜を見るのが辛くなった。
他の誰かが、私と桜を見てくれるかもしれないって期待できなかったよ。もうね、限界を超え続けていたんだよ。そんな人間に「死なないで」なんて声は聞こえなかったよ。聞こえても、聞こえないフリするしかなかったよ。
あまり人に迷惑をかけないようにしたよ。アパートも解約したし、荷物もきちんと片付けてきた。もちろん仕事の引継ぎも終わったよ。
でもね、私、浮いてきちゃった。
重りをつけたのに、私の体だったモノが浮いてきちゃった。
これを見つける人は気の毒だな。
その事だけが気がかりかな。本当に申し訳ないと思う。
私は後悔していないって思うけど、やっぱり、こういう事は、大声では人には勧められないな。それって狡い考えかもね。
自分はいいけど、他の人はダメだって。
いや。ダメじゃないか。
どうしようもなく辛い時って絶対にあるよ。
頑張って、頑張って生きても、耐えられない時だってあるよ。
「死にたい」って思う事は悪い事じゃない。
そう思ってもいいと私は思ってきた。本当に実行するか、しないかには大きな差があるけどね。
私は自死をえらんだ。
自分を殺したわけじゃないよ。自ら死ぬ事を選んだ。
まぁ、大差はないか。
生きて笑える方が幸せだよ。
私は幸せだった。
やっぱりね、生きたかったな。
「次の年も一緒に見たいね」って言いながら、散ってゆく花びらを妹と見たかったな。
死んだら会える事を信じていたよ。
でもね、そんなに上手くはいかないんだよね。どこにもいないんだ。
妹は突然だったんだ。
自分で選んで、自分で死んだ。
妹だけじゃなかった。
その前にも、付き合っていた彼氏も同じ死に方をした。
2回もそんな事があったら、流石に考えちゃったよ。
私が原因じゃないかって。
それで、私も選んだんだ。
会えてないね。
会えればいいなって思っていたけど、そんな事ないね。
私は、浮かんでいる私だったモノをただ見つめている。
今年も桜は咲くのだろうね。
こんな山の中では見えないよ。
大きなダムなんだよ。緑色に見える水面は、鏡のように真っ平になっている。
妹に会いたい。
ここで死ねば会えると思ったけど、そうはさせてくれないみたいだね。
私、やっぱり嘘ついた。
同じなんだよ。
こんな事をしても、同じなの。
可能性が無くなった分、今の方が辛い。
生きている間は、いつかは妹に会えると思えることが希望だった。
いつかは、桜を一緒に見てくれる誰かが現れると期待できた。
でも、こうなったらそんな希望も期待もできないの。
泣く事もできないよ。
だからね、やめたほうがいい。
ここはそういう名所だって言われているけど、私は全力で阻止するよ。
引きずり込もうとする霊もいるかもしれないけれど、私は生きる事を勧めるよ。
こうなったら、本当の絶望なんだ。楽じゃないよ。
楽そうに振舞っても無理なんだよ。
だから、死ぬ事を希望にして生きてみて。
わかるかな?
少しの希望だけでもいいの。
桜は咲く。
そう思えたら、生きられるよ。
散る桜はね、儚いわけじゃない。
必ず、来年も咲くよって約束してくれていると思うんだ。
おわり