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汗をかかないラフマニノフ:プレトニョフの新譜
プレトニョフは現役のピアニストの中で一番好きかもしれない。アゴーギグで癖のあるベートーヴェンの協奏曲もいいし、静かに内破していくショパンも聴きこんでしまう。
来日すれば、金欠でない限りコンサートに足を運びたい。千人以上もいる観客の息を止めるような微かなピアニッシモを経験したことは、今も強く記憶している。
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そんなプレトニョフによる、ラフマニノフ協奏曲とパガニーニ変奏曲のライブ録音がリリースされた。早速聴いてみたので、少し感想を書いておく。
まずは2番の冒頭。前からそうだが、プレトニョフは速い。(といっても、楽譜のマーキングは二分音符=66だったと思うので、割と「楽譜に忠実」だったりする。)この2番をCDの前に持ってくるのも「あなたの慣れ親しんだ解釈じゃないよ」と言わんばかりだ。
その他の演奏も、ピアノが主役だったり、ピアノとオケが交互に見せ場を作るような曲作りをしていない。協奏曲というよりは協奏交響曲といった印象を受ける。それもあってか、従来の演奏ではピアノが鳴らしまくる部分では静かで、金管のソロが際立つことが多い。
テンポも、従来は速いところが遅く、遅いところは速く、ということが多い。クライマックスも抑制されている。それもあってか、技術的に難しい曲にも聴こえない。汗をかきながら超絶技巧で難曲を征服する感覚は皆無だ。(動画などを見ても、プレトニョフは汗をかいていない。)
何よりも特徴的なのはルバートだ。
余談だが、学生時代、音大生のピアノワークショップに通っていたころ、友人がベートーヴェンのピアノ協奏曲4番を演奏していた。冒頭はピアノのソロで始まるが、その終わりにリタルダンドをかけた友人に、先生たちは眉をひそめた。それではオケが入るテンポが分からなくなるではないか、と。
何を言っているんだろうと思った。友人よりリタルダンドをかけたり、ルバートだらけに弾いても、ちょうどいいテンポでオケが入ってくる録音なんていくらでも挙げられるのに。
だが、息が合えば何とでもなると思っている私でさえ、プレトニョフのルバートは予測不能な場合がある。若手指揮者期待の星、クラウス・マケラとの演奏では、相性が最悪だったのか、頭を抱えるほどのバラバラ感であった。
経験も豊富で、リズムがより複雑なモダン音楽を数多くこなしてきたナガノ氏は、プレトニョフの奇想天外な(と言うと語弊があるのだが)抑揚とオーケストラを一心同体にする。「オケと合うか合わないか」を心配せずに音楽に没頭できるのは助かる。
初めて聴くラフマニノフとしていいのかどうかは疑問だ。やはり、情熱と炎にあふれた演奏(ルービンシュタイン、アシュケナージ、ホロヴィッツ、アルゲッチ、などなど)を聴くのが先だろう。
ラフマニノフを聴きまくっていて、違う構想で練られた演奏を試してみたいと思うならば、プレトニョフによる、"汗をかかないラフマニノフ"を聴いてみるのもいいのではないか。