旧態依然の組織に電子契約書を導入する話/承認申立準備編
ウィズコロナのテレワーク体制のなか、遅ればせながら僕の会社でも電子契約書の導入検討を進めることにした。
運営サービスの加盟店のITリテラシーが低い業界で且つ古いハンコ文化が残る旧態依然の組織下のベンチャーという生業上、新しい概念のサービスを会社にインストールするには毎回骨が折れる。なんとなく便利なのは分かるのだけど、今のやり方を変えることでの新しいリスクや導入にあたって発生する社内調整の面倒さから案件が放置され、結局導入されないことが日常茶飯事だ。
新しい概念のサービスをインストールする場合に決裁者に示すには「足元で見えている課題解決の手段であることを伝える」「コスト的なメリットを明確に見せる」の二点が重要だと僕は思っている。何度かこのような案件の上申をしているが、当たり前の話ながら如何に導入後のシミュレーションや享受できるメリットが素晴らしくても、足元見えている課題が解決したり、今使っているコストがどれぐらいカットされるのかといった具体的な定量根拠には敵わない。導入した結果「決裁した自分が判断を誤った」という状況を招きたくない想いか、なんともケツの穴が小さ...もとい、保守的な姿勢だろう。
ここで以下のような導入目的で承認申立を展開することにした。
現在当社における契約書締結に関わる業務は紙での押印を前提としているため、ウィズコロナにおける外部環境・社内体制下において押印・郵送による出社の必要性から、押印担当部署においてテレワーク体制の不公平が発生している。
本顕在化した課題解決と合わせて、2020年6月19日に出された政府見解(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60536320Z10C20A6EAF000/)を受け、契約書押印手続きに係るコスト削減の可能性や事業推進スピード向上を目的として電子契約の導入を進める。
足元の課題を提示し、これからのスタンダードになるであろうこと、それによる副次的なメリットを簡潔に記載した。
続いて享受できるメリットを具体的に挙げる。副次的とは言っているがご存じの通り導入の思惑としてはこちらの方がメイン。
1) 相互押印に係る期間の短縮化
2) 押印進捗状況の可視化 = 押印済回収漏れ防止
3) 締結契約のデジタルindex化による保管・検索利便の向上
4) 印紙・印刷・郵送代など契約書締結に係る雑費用の削減
(1)~(3)は定性的なメリットなので挙げるだけに留め、(4)のみは昨年度にかかった当該費用を事前に集計試算しておく。
また、対象となる契約書類の洗い出しを行うことで今回ターゲットとしている範囲を明確化する。今回は以下3つが対象。
・基本契約書(NDA・業務委託契約書など)
・当社事業加盟店向け契約書
・取締役議事録署名
余談だが、前述したように僕の会社が運営するサービス加盟店のITリテラシーは他の業界に比べても著しく低い。「自分達以上に導入障壁の高い加盟店に対してどう電子契約書を締結させるのか」という部分は必ず争点になるので、しっかりとしたカウンターを用意しておく必要がある。
そのために後に記載する導入検討対象サービスやサービス比較のところで責任者のメールアドレスさえ取得できれば締結効力のある電子サインの有無と、電子サインの証拠力に関するAppendixを用意する。これは各電子契約サービス提供会社の資料に必ず記載があるので情報収集にも苦労しない。何事も懸念に思うだろうことに対して、先回りして事を進めておくことが決裁判断の早さを上げる秘訣。準備不足で決裁判断が次回にリスケなんて時間の無駄の最たる例だ。
ということで、料金・電子契約機能・基本機能・権限設定・セキュリティ・導入実績の6軸でまずは大手3サービスの比較表(2020年6月時点)を作成。
比較表作成においては前述の導入思惑の(1)~(3)を重視した項目をピックアップしている。
比較表を作ると面白いもので、月額費用やトランザクション費用といったベースでかかるランニングコストだけ見ると安価に見えるが、必要な過去契約のインポート機能や権限設定を入れると結果高額になるケースもある。自社導入にあたり必要な要件をキチンと洗い出し、現状導入しているワークフローやSSOとの併用も考えて導入すべきサービスを選ぶべき。
ちなみに電子契約機能の比較軸に置いた「電子証明局発行証明書付の電子署名」は法的な証拠力が高いので必須条件ではと目が行きがちだが、契約相手にも電子証明書の取得が必要なので負担と手間は大きい。であれば、旧来の紙での押印契約を使う方が相手も慣れているだろうし「重要度の高い契約は実印での締結を継続する」と決めてしまえば、ここは重視するところではなく、基本機能の比較軸に置いた「過去契約PDFインポート」のランニングコストや容量などが優先する比較項目になる。
この辺の代替観点がなく「あの場合は~、この場合は~」と出来ないことの理由を探しはじめる不毛な議論に巻き込まれたくはない。あくまで電子決裁を導入する目的は、電子契約への完全移行ではなく生産性を向上させ事業推進のスピードを上げることだ。決してブレてはいけない。
最後に、出てきそうな質問をQ&A形式でまとめておく。
Q.電子サインの証拠力は実印と比べて劣るのではないか?
A.偽造防止と法的効力の強さのマトリクスに落とすと、実印の効力と付合する電子契約が以下に当たる。
認印→電子印影
契約印→電子サイン(メール)での電子契約
実印→電子証明書付での電子契約
通常当社に関わる契約で利用しているのは「契約印」がほぼすべてとなり、メールでの電子サインへの変更のみで偽造防止や法的効力は担保されるもの。2020年6月19日に内閣府・法務省・経産省の連名で出された「押印についてのQ&A(http://www.moj.go.jp/content/001322410.pdf)」上でも、文書の成立の真正を証明する手段を確保の方法として「電子署名や電子認証サービスの活用(利用時のログイン ID・日時や認証結果などを記録・保存できるサービスを含む。)」とあり、電子サインの認証結果が記録・保存されていれば契約成立の証明となることが見解として出されている。
Q.紙の契約書と異なる保存場所となる状況をどう解決するか?
A.各電子契約サービスでPDF化して保存するオプションサービスを利用することで、これから締結する電子契約書と合わせてindex化することができる。(サービス比較表「過去契約PDFインポート」参照)
また、契約書が多い場合、各電子契約サービスでPDF化作業の委託業務も有料オプションとして用意されており、社内作業リソース不足や実施時からのindex化が実施課題であれば当該オプションを利用することで早期開始の実現は可能。
Q.契約のバックデートが必要な際の対応をどうするか?
A.原則電子契約は認証タイムスタンプの発行で契約日の管理をするためバックデート対応はできないが、契約書に「契約開始を〇月〇日まで遡って締結するものとする」といった記載を設けることで同様の対応として代替できる。社内規定や法務見解で、本対応が難しい場合は現行同様に紙の契約書での締結し、締結した契約書をPDFで保存することでバックデート契約の対応を行う。
本電子契約導入は大多数を占める通常契約の効率化を目的としたものであるため、バックデート対応をはじめイレギュラーが伴うものについては紙の契約書押印を利用し、紙・電子の併用を前提とする。
Q.相手先が別の電子契約サービスを利用していた場合のフローは?
A.当社と相手先でどちらの電子契約サービスを使いで電子サインのやり取りをするか決定し、相手先が利用する電子契約サービスにて締結する場合は、紙での契約締結時と同様、最終的に締結された契約書のPDFをダウンロードし、当社電子契約サービスへ保存する。
Q.電子契約導入後に、利用を中止したら保存した契約書はどうなるのか?
A.電子契約サービスの利用を終了しても、そこで締結された契約の効力は継続する。ただし原本としてサービス側から一括でダウンロードして、新規サービスに移行(または紙での保存に戻す)する。
これで一旦の承認申立準備は完了。別途細かいリスクの洗い出しをしながらQ&Aを追加しつつ上申日を待つ。がんばるぞ!
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