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【青年海外協力隊ベトナム日記 2006〜08】 第27話 この町のスピード

現代のベトナムは経済発展が著しいと言われる。

確かに私の住むような都会から遠く離れた田舎町でさえ、短期間で急激な経済発展を遂げていく様を目の当たりにしてきた。

林が切り拓かれ、田が埋め立てられ、次から次へと新しい建物が建ち並び、市場が新しくなり、砂利道が舗装され、新しい店やホテルがオープンし、近代的な総合施設ができ、公共バスやタクシーが走りだし…、この町は私のいた2年弱の間にそれまでとは比べ物にならないほど便利になった。

現在も町の至る場所で新たな開発が止むことはない。
この様子だと今後も短期間で飛躍的に発展していくのは間違いないだろう。

そんな町の発展に比例するように物価も日々着実に上がっているが、当然のことながら住民が皆一様にそれに比例して経済的に豊かになっているわけではない。
やはり大多数の人が以前と変わらないつつましい生活を送っているし、冷蔵庫や洗濯機などの生活家電が無い家もまだ多い。
学校に行くこともできないような貧困層もやはり少なからず存在する。

しかしそんな中、自家用車を持ち、家を新築し、自宅にPCを設置してインターネットを楽しみ、大型液晶テレビや最新の家電を数多く所有するような富裕層(※あくまでもこの町基準だが)も現れてきている。
こんな田舎町に暮らしていて、どこからそのような収入を得ているのかはわからないが、その貧富の差は確実に開いてきていると感じる。

一方、市街地を離れると昔と変わらない農村風景が広がる。

そこには緩やかな時間が流れ、人間が自然界の一部として豊かな緑の中で動物たちと共に暮らしている。
人々は家族を大切にし、なんでもないことでもそこに笑いが起こる。
皆が金銭的には裕福でないのである意味貧富の差がほとんど無い。

そういった光景を見る度に「この町は確かに物質的には物足りないかもしれないが、無理に急いで都会になる必要があるのだろうか。今あるものに満足して質素に生活していけば、それは十分に豊かな暮らしなのではないだろうか。」と、答えの出ない自問自答を繰り返した。

私はいつも自分の中で葛藤があった。

ベトナムにはベトナムのスピードがある。
この町にはこの町のスピードがある。
日本には日本のスピードがあるし、私にも私のスピードがある。

私はここベトナムで今、彼らにとって必要なものは「情報」だと思い活動してきた。
だが、その私の持ち込む新たな情報は彼らのスピードを無理に速めバランスを崩して、それがゆくゆくは更なる貧富の差の拡大へとつながってしまわないだろうかと考えることもあった。

とはいえ、やはり世界が日に日に発展していく中でこの町に住む彼らだけが現状に留まることなんてできない。

そもそも彼らだって多くが経済発展を望んでいるだろうし、この先この町もさらに開発が進み、いずれ都会に近づいていくのだろう。

そこで何が生まれ、何が失われていくのか、私にはまだわからない。

ただ、この町がどのように変わっていこうとも、この町の美しい海を、緑を、ここで過ごした素晴らしい日々を、そして学生たちの笑顔を、私は一生忘れることはないだろう。

帰国まで、残り2カ月。

続く ↓

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