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【美術展2024#88】 「岡本太郎に挑む 淺井裕介・福田美蘭」展@川崎市岡本太郎美術館

会期:20241012()20250113()

川崎市市制100周年、そして当館の開館25周年を記念して、淺井裕介(1981-)と福⽥美蘭(1963-)の2⼈の現代作家による展覧会を開催します。常設展⽰室と企画展⽰室の双⽅で開催する特別な展覧会です。

淺井は⼟、⽔、⼩⻨粉、テープ、ペンなどの⾝近な素材によって、あらゆる⽣物の根源を想起させるような神話的世界を描く作家です。展覧会が開催される各地で採取した⼟を絵具にし、現地の⼈々と協⼒して⼤規模な作品を制作するなど、⼟地に根ざした作品を⼿掛けることでも知られています。
福⽥は、芸術や⽂化、現代社会への批評的まなざしを可視化する作家です。綿密なリサーチと福⽥ならではのウィットに富んだ視点に基づく作品は、鑑賞者へ物事に対する新たな視点をもたらします。今回は、福⽥がいう「⽣真⾯⽬」な岡本太郎に、全点新作で挑みます。

本展では、アートシーンの第⼀線で活躍する2⼈の作家が、岡本太郎と関連づけた⾃作を企画展⽰室に展⽰します。本展のために、淺井は川崎市内で採取した⼟を絵具にして巨⼤な新作を制作します。福⽥は新作を展⽰するほか、岡本の作品によるインスタレーションを展開します。また、常設展⽰室では、2⼈の作家がそれぞれ独⾃の視点で選んだ当館収蔵の岡本作品を紹介します。
芸術⼀家に⽣まれ、⻘年時代に哲学や⺠族学を学んだ岡本太郎は、執筆活動で⾃⾝の思想を深めながら、絵画・彫刻・⼯芸・デザインなどの既存の枠組みを超えて活躍をしました。本展は、そうした岡本の表現・思想の多⾯性を、 世代や表現⽅法の異なる2⼈の現代作家の視点で⾒直す機会でもあります。互いに触発しあうことで⾒えてくる、3者それぞれの新たな⼀⾯をぜひお楽しみください。

川崎市岡本太郎美術館


開館25周年記念ということで館全体を用いて行う特別展。
キャリアも表現方法も違う二人が岡本太郎と絡んでどのような表現を行うのか。
そんな二人を起用して一つの展覧会としてどう作り上げているのか。
諸々気になって足を運んでみた。


常設展示室ではそれぞれがチョイスした岡本作品を展示している。
基本的には普段の常設展示と同じような内容なのだが、二人が選んだ作品にはそれぞれのマークが付いており、どのような観点でその作品を選んだのかを想像しながら見ると、岡本作品がまた違った角度で見えてくるから面白い。

中には二人が共に選んだ作品もある。
表現方法の違う二人の感性が交差する岡本作品を通して互いの作品を思い浮かべると二人の作品の共通項がぼんやりと見えてきたりする。
私ならどれを選ぶかなあ、なんて考えながら巡る。


企画展示室では岡本太郎作品と二人のジャムセッションが繰り広げられる。
中央の展示スペースを挟んで左に福田美蘭、右に淺井裕介作品が並ぶ。


福田美蘭

《7歳のときの落書き》

父(福田繁雄)が取っておいた幼少期の福田美蘭の太陽の塔を描いた絵。
こんな絵でも取っておくもんだな。
我が家でも日々子供たちがすごい勢いで落書き、もといお絵描きを量産しており、残したり捨てたりを繰り返しているのだが、覚悟を決めて全て残してみようか。


《国宝火焔型土器》

岡本が「縄文」を発見したと言われる上野の東京国立博物館に行った。考古展示室には土偶や土製品が展示されていたのだが、岡本がそのただならぬ力に吸い寄せられてシャッターを切ったような最も縄文的な縄文中期の土器には出会えなかった。帰り際、JR上野駅構内で偶然縄文土器を見つけ、棚の隅に置かれたそれはお土産屋に並ぶ火焔型土器のクッションだった。それは強く岡本太郎を意識させるもので、縄文土器の空間性と造形美を日本固有の美として捉えなおす岡本の視点が、この様なかたちで現れていることに感動し写真に収めた。このシャッターの切り方は、岡本のカメラの使い方に通じると思ったので、岡本が撮影した縄文土器の写真と共に展示する。(M.F)

展覧会キャプション

JR上野駅構内で見つけた火焔型土器のクッションに感動し写真に収めた福田美蘭。
その写真を岡本太郎が撮った火焔型土器の写真と並べる。
福田美蘭が感動したというクッションそのものも展示されている。
日本のこのような雑貨って本当によくできている。
出口のミュージアムショップでも同じものが売っていた
手に取ってレジに並びかけたが、冷静になって使い道を考えてみるとあまり思い浮かばなかったのでやっぱりリリースした。
(が、今思うと買っておいてもよかったかもしれない)


《重工業》

岡本太郎の作品《重工業》がそのまま展示されている。
が、本来の作品とは向きが異なっている

本来の作品の向き

旋回する赤い歯車に触発されて、画面全体を回してみたいと思ったので横を縦にしてみたら、画面の勢いは止まることなくモチーフの視覚効果はそのままに、重厚な主題を損なわず、あらたな魅力を放つ画面となっていた。しばらく見ていても違和感はなく、私はこれはこれで素晴らしい絵画と思ったので、オリジナルの《重工業》を縦に展示してもらい、美術館のShopに並んでいる複製プリントに私のサインを入れた

展覧会キャプション

ということで、岡本太郎のポストカードにサインを入れた「福田美蘭作品」の《重工業》
エディションによると100部作った(書いた)ようだ。
こういう一見ふざけた発想を真面目にやりきって、しっかりした本歌取り作品として成立させているのが面白い


《太陽の顔・桃太郎 金太郎 浦島太郎》

我が家にもある陶器の太陽の顔と同じものがそのまま画面に貼り付けられている。
他の冷静でスマートな福田作品と違って無理筋をパワープレーで押し切ってる感じがなんかいい。

我が家の顔たち   中央は海洋堂のフィギュア


《眼の絵画》

目玉が描かれた太郎作品を寄せ集め、鳥よけ風船と共に展示。
私は特に集合体恐怖症ということはないが、さすがにここまで目玉が並ぶと異様な光景でここに長居してはならないという感情が本能的に生まれる


《森の掟》

左:福田美蘭   右:岡本太郎

チャックを開けてみた。パカッ


《輪投げ》

岡本作品《戦士》を輪投げの的に。
確かに見える。
本当は鑑賞者に実際に輪投げをさせるプランだったようだが、さすがに美術館側の許可が降りなかったようでインスタレーションとして提示する。
投げてみたかったな。


今回の福田作品群を見てきて、その昔Chim↑Pomが渋谷の「明日の神話」への無断付け足しをして炎上した件を思い出したが、あれからもう13年も経つのか。

当時一部から散々叩かれていたが、私はあのChim↑Pom作品は岡本作品へのリスペクトがしっかりあるように感じたし、それを踏まえて本歌取り的表現が成立していると思っていた。

今回の福田作品も同様に一見ふざけているように見えるが、岡本作品へのリサーチをしっかりと行って自分の中に落とし込み、そこから新たな視点を生み出していた。
何より全て新作というのが素晴らしい。




淺井裕介

最近あちらこちらで作品や名前を見聞きするようになってきた作家。
美大出身ではなく、かつ最終学歴を高卒として高校名まで表に出しているというのはなかなかレアケースでは。
高校は美術陶芸コース卒とのことだが美大受験はしなかったのだろうか?
それとも藝大一本で何浪かして受からなかったのでそのままアーティスト活動に突入したという感じだろうか?
いずれにせよ相当強い意志がないとその第一歩を踏み出し、そして継続することはできないはずなのでそこは素直に尊敬する。


淺井ブースでは岡本作品「明日の神話」の正面床に
巨大な絵が横たわっている

なんと絵の上を歩ける

絵の具のざらざらした感触が足の裏からダイレクトに伝わってくる。
絵の上を歩くという機会はなかなか貴重だ。
こんな絵の感じ方もあるんだなあと初めての感覚をじっくりと味わう。
だがこの絵の具はそもそも土が原料なので一周回って土の上を歩いているとも言えるのかもしれない。
今回川崎市内で採取した土も加えているとのこと。
もちろん色や感触からはそれを判別することはできないが。


岡本作品と淺井作品が混在する。
どれがどちらの作品だかわからないほど岡本作品とは相性が良い


近年、鹿の皮や血を使って制作をしているとのこと。
それに加えて今回新たに精製したプルシャンブルーを用いて幾つかの新作を発表した。

それらの色を駆使して描かれる絵画。

基本形を中心に無限に増殖可能なモジュールのようだ。

《組み合わせの魔法》
《野生の星》
《その島にはまだ言葉がありませんでした》

具象的なモノが描いてあるが、上手いとか綺麗とか構図がどうとかそんな評価軸はどうでもよくなる
伏線も比喩暗喩も何も気にせずに、ただその瞬間に湧き上がる感情を目の前の画面や空間にぶつける
そんな躍動感が充満した淺井ブースからは、同じくパワー系岡本作品と響き合いながら新たな高みに向かうようなエネルギーがみなぎっていた。


福田美蘭は合気道のように岡本作品のパワーを冷静にひらりといなし、岡本作品を通して新たな視点を提示していた。
淺井裕介はストイックに自身の表現方法を突き詰め、岡本作品に対して正面から泥臭く情熱的に対峙していた。
アプローチの仕方は違えどそれぞれが真摯に岡本太郎と向き合い各々の表現を深化させながら、同時に岡本作品の新たな魅力を掘り起こしているようにも感じられた。

岡本太郎を軸にして表現方法の違う二人が行った今展示は、昨今多く見るようになったセッション系美術展の中でも秀逸だったように思う。


ミュージアムショップでは、会場内で展示していた福田美蘭の本歌取り作品《重工業》《新聞版画》と同作品が直筆サイン&エディション入りで売っていた

しかも《重工業》は通常の岡本太郎のポストカードと同じ価格で販売している。
ここで変にプレ値を付けて販売していたら興醒めするところだったが、あえて同じ価格というところがこれまた非常に上手いと思った。
そこまで含めての作品ということで伏線回収。
こういう表現は大好物なのでもちろん即買いした。

ただし、実はこれもう1ヶ月以上前の開会直後の話なのですでに完売しているかもしれないが、もしこれから行かれるのであればぜひチェックしていただきたい。




【美術館の名作椅子】


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