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8ビートの発見とその歴史

【4175文字】

リンゴスター

は言わずと知れた
あのThe Beatlesのドラマーだった人です
Beatlesは60年代に活躍したバンドですが
これまでにどれだけのバンドにコピーされ
演奏されて来たのでしょうね
しかし正直言って
どのコピーもオリジナルには遠く及びません
その理由はいくつもあるのですが
その中のひとつとして
リンゴスターのビート感を再現できていない
というのが大きくあると僕は思っています
世界には多くの偉大なるドラマーがいますが
リンゴのビート感を持ったドラマーを
僕は未だひとりとして知りません
リンゴと彼らとどう違うのかというと‥
リンゴから繰り出されるビートは
シャッフルで表記されない曲であっても
必ず薄っすらと跳ねている感があるのです
これを説明するのが面倒で
僕は以前からこれを「リンゴシャッフル」
と勝手に命名して使ってますが
そのくらい固有のビート感だと思っています

これを先日

Beatlesマニアとも博士とも称される
告井延隆氏にお会いする機会があったので
「Beatlesの楽曲における印象付けとして
あのリンゴシャッフルはとても絶大だったと思うのです」
と僕が言ったところ氏は
「いやあの当時はみんなあんな感じだったんだよ」
とおっしゃる
「リンゴは当時から上手いドラマーと評判だったので
そういう意味ではそれまでの(Beatlesの)ドラマーと違って
Beatlesの楽曲を完成に至らしめたと言えるけどね」
とさすがのご見識でありました
更に氏はこうも仰いました
「そもそもこの頃に8ビートは発見されたんだよね」

発見?!

ということで
60年代前後の8ビートを土台とした
ポップスやロックンロールを再確認してみたところ
50年代後半から
Elvis Presley  - 「Jailhouse Rock」 57年
Chuck Berry  - 「Johnny B. Goode」 58年
60年代前半にかけて
The Ronettes  - 「Be My Baby」 63年
Martha & The Vandellas -「Dancing in the Street」 64年
時代が進むほど8ビートのスクエア感が
どんどん増している事を確認できたのです

Presley

の「Jailhouse Rock」などは
イントロ部分のセクションは完全に跳ねていますが
歌中では慣れない感じの8ビートが現われ
混在している感じがとても面白いです
もうこれ以前になると
跳ねていないポップスは見当たりません
Bill Haley & His Cometsの「Rock Around the Clock」
がロックの最初と言われており
これが1955年ですので
他にサンプル自体がもうないのです

つまりこの頃

のミュージシャンは
漏れなく4ビートで育った人たちなのです
ドラマーに限らずどの楽器も
皆さんスウィングするのが基本だったのですね
そんな人たちが最先端ビートの
8ビートを演奏する時
自然に跳ねが現われてしまった
というのが順当な解釈でしょう

8ビートは

単調でありながら奥深いリズムです
発見されたという表現はつまり
このリズムで音楽が成り立った瞬間の事であって
フレーズに気付かなかった訳ではありません
これまでのJazzやBluesなどでは
絶対に使われなかった単調なフレーズが
ロックが現われた事でベストマッチした
それが8ビートの発見だったという事なんです
ただ当初は皆まだ慣れなくて
跳ね気味の8ビートだったという事です

1965年になると

The Rolling Stones -「Satisfaction」
The Byrds -「Mr. Tambourine Man」
The Supremes -「Stop! In the Name of Love」
Sonny & Cher -「I Got You Babe」
などなど
次第にスクエアな8ビートが完成されていきます
そのうちBob Dylanを筆頭とした
反戦フォークソングが現われ
世界を席巻していきますが
基本的にフォークにはシャッフルが少なく
この頃に跳ねない8ビートがやっと完成された
と言っていいのかも知れません
しかし8ビートはスウィングと比べ
突き抜けるような明るさが
どうしても表現できない
というジレンマを抱えたままでした

1970年代になると

電子楽器が現われ
リズムボックスやシーケンサーが
楽曲のリズムを担当し始めます
これは計算された電子的なリズムですので
正真正銘完璧なスクエア8ビートです
この無機質なビートが近未来的であり
当時すでに流行っていたプログレと相まって
世紀末を思わすような
壮大な楽曲が多く発表されました

80年代に入ると

8ビートはタテノリという
また新たなジャンルを発掘していきます
これは日本で生まれたリズムだと言えます
そもそも日本人はスウィング的なヨコノリが
文化的に大変苦手な民族であり
日本の伝統的音楽や唱歌 軍歌など
古代から戦後直後までは
横の要素が少ない音楽環境にありました
80年代
いか天に代表されるバンドブーム時に
このタテノリ文化が日本を席巻し
洋楽をこよなく愛していたオジサンたちが
こんなのは音楽じゃねぇと毒づいた頃です

少し遡り1963年

坂本九さんの「上を向いて歩こう SUKIYAKI」は
アメリカとカナダでチャート1位になり
ヨーロッパでも大ヒットを成し遂げました
この頃欧米のポップスはまだ
8ビートが真新しいリズムとして
やっと受け入れられていた頃です
SUKIYAKIはスウィング系のシャッフル曲です
彼らにとっては聞き慣れたビートのはずでしたが
しかし彼らはこの曲について少し変わった
東洋っぽいノリの音楽だと捉えたようです

この曲は

4ビートの
スウィングアレンジとして作られています
しかし日本人が演奏し歌った時
どこか平坦な感じを欧米の人は感じたようです
勿論日本人はそんな気は全くありません
どうやら西洋の人々には
随所に軽やかな跳ねが消えている
とそう感じたようです
特にボーカルがそうです
日本の伝統的な演歌や民謡は
あえて歌のタイミングを外すという
少し変わった歌唱法が一般的です
更に日本語独特な1音1語の歌詞が
SUKIYAKIのスウィング感を消していたのです

西洋では

8ビートが一般的になって来た頃です
このSUKIYAKIは
スウィングなのに8ビートの様な
平坦さを感じる変わったビート
そう捉えられたのかも知れません
日本語の重たさもそれに加担しました
坂本九さんの歌い方だけが問題なのではなく
ロックと日本語歌詞のマッチングが
まだまだ不完全だったのです
日本におけるロックでの歌詞論争は
70年代に英語派と日本語派に分派し
結局80~90年代にはJ-Popという
新たなジャンルを形作りました
J-Popは8ビートや16ビートが主流です
その際に1音1語歌詞では
どうしてもスピード感に欠けてしまい
サザンオールスターズの桑田圭祐さんや
ミスターチルドレンの櫻井和寿さんらが
日本語でも随所に1音2語を確立したのです
これで日本の楽曲も
随分とかっこよくなったんもんです

その後の8ビートは

90年代以降メロコアを頂点に完成しました
メロコアにはタテノリの要素もあり
とてもキャッチなメロディで
スピード感やポジティブ感を醸し出します
当初はスウィング的要素なしでは
突き抜けるような明るさが
どうしても表現できなかったと言われた8ビートも
ここに来てやっと完成を見たのです

そして90年代

伸びしろを失った8ビートは次第に衰退し
00年代にはほぼチャートから消滅します
ラップやヒップホップの勃興です
ラップはリズム感に偏重した音楽です
メロディーや和音などは二の次です
そこで重用されたリズムが跳ね系でした
もちろん敢えて跳ねないラップもありますが
9割以上が跳ねていると言ってもいいでしょう
当初日本語でラップは無理と言われていましたが
韻や6連符を多用する事で
日本でも一般的になります
8ビートの新曲は益々希少になっていきます

10年代に入ると

音楽はテクノロジーと素人が融合します
音楽の技術や知識がない人でも
スマホに最初から入っている無料アプリで
立派な楽曲が作れる時代になったのです
全人類にヒットメーカーの可能性が出てきます
8ビートは16ビートやスウィングをも包括し
複雑になっていきました
8ビートを基本にして跳ねているのです
言ってしまえば60年代前後の
8ビート黎明期に先祖帰りした様にも聴こえます
サウンドは当然現代と60年前後では
天と地ほどの差がありますが
リズムという点で大きな差はないのです

日本人

が大好きだった
純然たるスクエアな8ビートの新曲は
今後もうあまり聴く事が出来ないのでしょうか
それはそれでなんか寂しくもあります
ただ個人的見解として
演奏するときにはやはり8ビートであっても
少し跳ねている方がやりやすいのです
その点ではリンゴスターと同じ
と思いたいです

最後に

純然たるスクエアな8ビートの
過去の世界的名曲を少々羅列しましょう

Jhon Lennon - *Imagine* - (1971)
Bruce Springsteen - "Born to Run" (1975)
Eagles - "Hotel California" (1977)
AC/DC - "Highway to Hell" (1979)
Queen - "Another One Bites the Dust" (1980)
Journey - "Don't Stop Believin'" (1981)
Michael Jackson - "Beat It" (1982)
The Police - "Every Breath You Take" (1983)
Dire Straits - "Money for Nothing" (1985)
Bon Jovi - "Livin' on a Prayer" (1986)
U2 - "With or Without You" (1987)
Nirvana - "Smells Like Teen Spirit" (1991)
Green Day - "Basket Case" (1994)
Oasis - "Wonderwall" (1995)
Foo Fighters - "Everlong" (1997)
Red Hot Chili Peppers - "Californication" (1999)




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 それぞれでコピペして確認してみてくださいね