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昭和47年夏 尾道
昭和の記憶
【1740文字】
小学校4年生の時
1年間だけ広島市内に住んでいました
お盆過ぎのこの頃
母の友人が尾道に住んでいて
2人で一泊しに行ったことがありました
細かい事は覚えていませんが
漠然といい思い出として記憶してます
1972年
昭和47年8月お盆過ぎ☀️
朝から母と電車に乗って小さな駅で降りました
母の友達というおばさんが改札にいました
近くに海が見えてるのに山の方へ歩いて行きます
車が入れない細い坂道や階段を上がって行き
どんどんどんどん上がって行きます
山の斜面に建つ古い民家に着きました
その家の窓や扉は全部開いていて
それぞれでなびくカーテンやのれんが
とても涼しげです
家の中の印象は「何もない」です
物を置いてない家だったので
小さな家だけど部屋は広く感じました
娘さんと2人の母子で住んでいるようです
娘さんは僕より少し年下みたいです
部屋数は少ないです
家中に風が通って行きます
昼ご飯は4人でちゃぶ台を囲み
涼しげなガラスボールの冷麦を皆んなで食べました
おばさんはわざわざ色付きの冷麦をよって
子供達の椀に入れてくれます
紙風船遊びをしようと女の子が言うので
畳の部屋いっぱいに使って遊びました
こんな女の子の遊びなんか!と思いましたが
やってみるとなかなか楽しかったです
汗だらけになっても気になりません
家の南側には小さな庭があり
縁側に座って2人でスイカを食べました
女の子はこうやるんだよとタネは庭にプップッと出して
ほらね?って言います
僕も真似してプップッと出すと
スイカはますます美味しく感じます
卓上食塩をサッサっとかけながら食べます
プップッ サッサっとしてるだけなのに
それだけなのになんだか楽しかったです
夕方の縁側はツクツクボウシの声でいっぱいで
こんな大声のツクツクボウシの声を
きっと初めて聞いたと思います
少しするとおばさんがお風呂に入っておいで
と言って家の西側のお風呂を教えてくれました
脱衣所で服を脱ぎ風呂に行くと
湯船に木の板3枚でフタがしてあり
それを開けると緑色のお湯が湯気を上げます
西側のガラス窓から西陽が遠慮なく差し込みます
そっとその窓を開けてみました
すると眼下に広がる尾道の街と
海を船が行き来する景色が見えました
そのオレンジ色の景色は
しばらく目を離すことができないくらいキレイで
夢のようで幻のようでした
太陽が向こうの山に隠れても
町や海はキラキラとオレンジ色に輝きます
青く赤い雲が次第に色濃くなり
一番星が目の高さに輝きます
すっかりそれらの景色に見惚れていたら
突然ガラガラと風呂の扉が開き
「あんた大丈夫?そろそろ出んさい」
と母に言われてやっと目が覚めました
慌てて石鹸を一気に髪から足先まで付けて
手桶でお湯を数杯かぶって脱衣所に出ました
夕飯が終わると浴衣の女の子が花火の袋を持ってきます
庭に出てロウソクにマッチで火をつけます
あれだけ吹いていた風は今全くありません
それを凪というのだと教わりました
線香花火の先をロウソクに近づけると
パチパチとはじけて次第に賑やかになります
パチパチが減ると大きな玉を作って
手が震えると地面に落ちて消えます
何故か少し悲しい気持ちになります
次の花火をロウソクで火をつけます
女の子の線香花火は長く持ってます
それなのに
花火の明かりに揺れる女の子の顔は
やはり何だか悲しそうに見えました
花火ってどうして少し悲しいのでしょうか
そう思った最初だったかもしれません
全て使い終わった花火を水の入ったバケツに入れたら
縁側に座ってオレンジジュースを飲みます
後ろで母とおばさんが何か話しながら
時々笑いながら布団を敷いたり
シーツをかけたりしてます
ジュースを飲み終わって「おやすみなさい」
そう言ってタオルケットを掴んで
蛍光灯の紐を引っ張ると真っ暗になります
しばらくすると目が慣れてきて障子が見えて
天井が見えて掛け時計が見えてきました
何処からか蚊取り線香の匂いが漂ってきます
遠くに電車の汽笛がこだましてます
隣の部屋で母とおばさんがヒソヒソと何か話してます
世界は嘘みたいに静かでした
時々思い出したように
ジジジっと庭で蝉がつぶやきます
黙ったまま「また明日ね」と言うと
さらさらとしたシーツに包まれたまま
もう何も分からなく遠くになって
こうしてこの夏の日は終わりました
夏の夕暮れ
今年も半世紀も前の記憶が蘇ります