妄想『ご褒美』
【現実世界】
アルバイト先に、見た目50歳程の男性と見た目28歳程の女性が来店して来ました。
沢山の荷物から見て恐らく、いろいろお買い物をした後なのでしょう。アルファベットの「C」という字が交差しているブランドも見えます。お支払いする時は男性が払い、女性は他のお客様の邪魔になるぐらい下がり、支払いをしている男性の横には付かない。支払いする時の男性の財布の中身にある紙の量。紙があるのにカードで支払い。
僕が得れる2人の情報はこれだけです。
【妄想世界】
待ち合わせ時間にあえて遅れて行くのがポイント。彼の姿が見えたら少し小走りして近づく。そのため、高いヒールは履かないのもポイント。服装は彼が露出が多いのが苦手だから、丈の長い花柄のワンピース。これはこれで体型も隠れて一石二鳥。
例の人と会うのは初めてだから緊張するが、優しそうな人だし大丈夫。頑張れる。
例の人は写真で見るより優しそうな雰囲気で、私を見つけるとマスク越しでもはっきりと分かるぐらい、より優しい表情を見せた。
「お待たせ」
「全然大丈夫」
「本当に?」
「行こっか?」
ここまではしっかりと台本通り。
前日まで考えた甲斐があった。
待ち合わせのこのやりとりは彼とのいつもの流れだった。懐かしくて泣きそうになる。
例の人は、彼の細部まで忠実に再現してくれた。
例えば歩くテンポに合わせて、手を繋いだ親指で私の手をリズムを取ってきたり、行く場所決める時の「どうしよっか?」とか。
時々、本当に彼なのかもと錯覚してしまう時がある。
もちろん私も、買い物してお支払いを私がしようとすると、「僕だって大人だ」と彼がめちゃくちゃ怒るので、わざとらしくお支払いの場から離れる。
店員の男の人は、下がる私を不思議そうに見ていた。みんな同じ表情をするから慣れたけど。
それはそれで懐かしい。
彼が亡くなって5年だけど、例の人の中でしっかりと生きている。
これは、私の誕生日の年1回のご褒美だ。
【現実】
だったらドラマみたいだねー
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