スイーツ女子と甘い先輩 最終話(連載小説)
先輩と別れてから廊下を美術室へ向かって歩く。
フワフワしていた。
頭がフワフワしていたのか、足取りがフワフワしていたのか分からない。
とにかく夢の中にいるような気分だった。
そして、時々ハッと我に返って、今までのことは夢なんじゃないかと思う。
そんなことを繰り返しながら部室に着いたので、先生のお小言も全くと言って良いほど耳に入らなかった。
先生のお小言が終わって由香の隣に座ると、さすがに由香はすぐに気づいて尋ねた。
「手紙もらってあれからどうなったの?随分嬉しそうだから先輩と進展あった?後で聞かせてよ」
「うん、わかった♪」
私の顔はしまりがなくなっていたと思う。
それでも、美術部は先生が課題も出すし、厳しい部の方だ。
舞い上がりそうな気持ちを抑えて私語もなくキャンバスに鉛筆で下書きの続きをする。部活が終わるまでがとても長く感じた。
部活が終わると、すぐ由香に先輩と付き合うまでの事を話した。
「本当に付き合うの?凄いね!良かったね」
話を聞いてくれた由香は喜んでくれたけど、
「それにしても、手紙の二人の先輩達、気になるよね」
と、徹先輩と同じ感想を言った。
「うん、でもね、高城先輩が明日言ってくれるらしいから、任せることにしたよ」
私がそう言うと、由香は頷いた。
「そうだね。それがいいよ。しかし、もてる人と付き合うのも大変なんだね。私の彼は高城先輩程じゃないから助かるよ」
由香の話を聞いて、好奇心が出てくる。
「由香の彼氏ってどんな人なの?今度写真見せてよ」
と聞いてみた。
「う~ん、またいつかね?写真嫌いだし。それより、帰り一緒に帰るんでしょ?いってらっしゃい」
由香はそう言って、私に笑顔で手を振った。
「あ、そうだった!ごめんね、明日は一緒に帰ろうね!」
私は由香にそう声をかけると、足取りも軽く階段を下に駆け降りた。
校庭に出ると、サッカー部はまだ練習中だった。
私は見学してようと、前に由香とこっそり見に来たパラソル付きの机に向かう。
椅子に座ると、机にカバンを置いてサッカー部が練習している方に顔を向けた。
サッカー部では、ボールをゴールに入れる練習をしていた。
私は椅子に座って先輩をジーッと見る。
サッカーに熱中している先輩は、カッコ良すぎて眩しく感じられる程だった。
そんな先輩と今から一緒に帰ることを思うと、軽い緊張を覚える。
10分程してゴールの練習が終わると、サッカー部は一度みんなで集まってから解散になった。
私は、解散するのを見計らってゆっくりと椅子から立つと、先輩のいる方に近づいていく。
「市川さん」
先輩はすぐに私に気づいて、笑顔で呼び掛けてくれる。
「部活、お疲れ様です!」
わたしは、照れながら先輩の所へ向かった。
「美術部、終わったの?」
先輩の横からひょいっと徹先輩が顔を出す。
「はい、終わりました」
徹先輩って苗字は何て言うのかな?と思いながら、私は答えた。
わざわざ確認しなくても、分かるまで徹先輩でいいか、と思う。
「じゃあ、帰ろうか?」
先輩はそう言ってにっこりする。
「はい、帰りましょうか」
私も照れながらにっこり精一杯笑顔を返そうと頑張った。
この状況に照れて、緊張しているから、顔がひきつっているかもしれない。
「いいね~熱々だね。じゃあな、優、市川さん」
徹先輩が茶化しながらも手を振るので、
「あ、はい。さようなら、徹先輩」
私も慌ててお辞儀をする。
「また明日」
高城先輩も徹先輩に軽く手を上げた。
徹先輩が行ってしまうと、高城先輩は、
「徹先輩?」
と私の顔を見て、笑顔で聞いてきた。
笑顔のはずなのに、それを見た私はなぜか空気がひんやりするのを感じる。
「え?」
何を聞かれているか分からなくて聞き返す。
「何で徹のこと名前なのかなって」
先輩の言葉に、私は焦る。
「あ、失礼ですよねっ。苗字が分からなくて、高城先輩が名前で呼んでたので私もつい名前で呼んじゃいましたっ」
私は先輩が非礼を怒ってるのかと思って必死に弁解する。
すると、先輩は、自分の頭に軽く手を当てた。
「・・・いや、ごめんね。僕は苗字なのに、徹のことは名前だからちょっと面白くなくて。今のは僕が悪い」
「あ・・・」
ヤキモチなのかな?
私はそんなことを考えている先輩を可愛いと感じる。
でも、男子だし、後輩に可愛いって言われても嬉しくないよね。
「じ、じゃあ、先輩のこと何て呼びましょうか?」
先輩と付き合うんだし、呼び方変えた方がいいよね。
「優でいいよ。それから、徹の苗字は坂田だから」
先輩は、ちゃんと徹先輩の苗字も教えてくれる。そんな所も可愛いと思うけど心の中に留めておく。
「はい、分かりました。じゃあ・・・優先輩?」
自分で言ってて照れ臭くなってしまった。
急に顔が火照る。
「先輩もいらないよ」
先輩はそう言ってくれたけど、今の私にはすぐ呼べそうになかった。
「あの・・・徐々に慣れたらでいいですか?」
私が言うと、先輩は
「もちろん」
と柔らかい笑顔。
その笑顔を見てるだけで、幸せな気持ちになる。
先輩と今付き合っているだなんて、夢じゃないかと感じる。信じられない。
「じゃあ、市川さんは?何て呼べばいい?」
そう先輩に聞かれて、私は、
「愛奈って呼んでください」
と答える。
この会話、恋人っぽくていいな。
「愛奈ちゃん」
先輩が私の名前を呼んだ。
それだけで心臓の鼓動が激しく高鳴る。
苗字で呼ばれているのと全然違う。
・・・もっと親密な感じ。
「は、はい」
先輩みたいに愛奈でいいです、とか言いたかったけど、もう愛奈ちゃんでも心臓が持たないくらいドキドキしてる。
「なんかいいね、名前で呼ぶの」
先輩が照れながら言う言葉にさらに胸がキュンとする。
「はい」
私は精一杯に同意しながら、このまま帰って大丈夫かなと思う。
心臓がドキドキしすぎて倒れてしまうんじゃないかな。
優先輩は私を優しい目で見ると、私の手を取った。
「行こうか、愛奈ちゃん、家はどこ?」
と私に言ってゆっくり歩き始める。
手を握られたことで、私の全神経が手に乗集中されているようだ。
何も考えられない。
「愛奈ちゃん?」
先輩にもう一度聞かれて、慌てて思考を開始する。
「あ、えっと、夏目町の方です。優先輩は?」
「僕は長町三丁目だよ。夏目の方通り道だから送るね」
先輩は私の住んでいる場所を告げるとすぐにそう言ってくれる。
「いいんですか?少し遠回りですよね?」
私は遠慮がちに尋ねた。
「いいんだよ。僕が愛奈ちゃんと一緒にいたいだけだから」
そう話す先輩に、また私の心臓はうるさくなる。
「ありがとうございます」
でも嬉しかったので、私は素直にお礼をした。
それにしても、さっき徹先輩に言われた言葉、一つだけ凄く気になるものがあった。
「あの、優先輩」
歩きながら先輩に確認してみる。
「何?」
先輩の表情は穏やかだ。
「徹・・・いや、坂田先輩が言ってた、お菓子苦手って本当ですか?」
「あ、そのこと?」
先輩は、複雑そうな顔をした。
私はそれに気づいても言葉が止まらなかった。
「もしそうなら、私、ずっと先輩にお菓子渡し続けてて・・・無神経なことしてごめんなさいっ」
私が手を離して、両手を合わせてお辞儀して謝ると、
「愛奈ちゃん、ちょっと待って?」
と先輩が焦ったように私の腕に手を当てて言った。
「僕、迷惑って言った?それ、愛奈ちゃんに会う前の話だから」
先輩の言葉に、私は顔を上げた。
「会う・・・前?」
「そうだよ。僕、正直甘いもの苦手で、ほとんど食べなかったんだ」
先輩は、私の腕を軽く掴んだまま私の顔を見て話す。
「確かに最初はお菓子渡されて驚いたんだけど、愛奈ちゃんがあんまり幸せそうにお菓子のこと語るから、家に帰ってからも気になって・・・」
私は先輩と最初に会っていた時のことを思い出す。
お菓子について、熱く語っていたと思う。それがきっかけで仲良くなれればいいな、と思ってたから。
しかも、先輩もお菓子好きだと思い込んで語ってたんだった。
「それで、家で愛奈ちゃんからもらったお菓子食べたんだ。そしたら凄く美味しくて。甘ったるいのはまだだめだけど、あっさりしたのなら、美味しく食べられるようになったんだよ」
「そうだったんですか」
私は先輩の言葉に嬉しくて口元が緩む。
私の言葉で食べようと思ってくれたなんて嬉しいな。
「最初から愛奈ちゃんのこと気になってたって言ったよね。最初の日、帰宅しても君のこと考えてた。僕がお菓子食べたいと思えるようになったのは、愛奈ちゃんのおかげ。食べてみようかなって気持ちにさせてくれたんだよ。だから、今度は一緒にお菓子食べようね」
そう優しく目を細めて言う先輩に、
「はいっ・・・はいっ!」
私は感激して勢い良く頭を上下に振る。
先輩からの言葉は、凄く嬉しくて、私はまた泣きそうになってしまっていた。
「手、つないでもいい?」
先輩は、私に問いかける。
「あ・・・もちろんです!」
私は泣かないように目を一度強くまばたきすると、謝るときに離した手をもう一度先輩の手と重ねた。
「今、何かオススメのお菓子はある?」
先輩は、繋いだ手をキュッと軽く握り直すと爽やかな笑顔で私に聞く。
「ありますっ。サッパリ系なら、シュワシュワするクリームソーダのグミです!新発売なんですよ。微糖タイプで甘くないのが売りだそうです。明日持っていこうと思ってました!」
私の言葉に、先輩は、
「じゃあ、今からコンビニ行こうか?一緒に食べよう」
と言う。
「はいっ行きますっ!楽しみです♪」
私は先輩と一緒に行ける嬉しさとグミを食べられる嬉しさをダブルで感じる。
「私、今凄く幸せです」
先輩の顔を見上げて打ち明けると、
「僕の方が幸せだよ。こんな可愛い彼女とお菓子買いに行けるんだから」
とにっこり返答される。
その言葉にノックアウトされた私が先輩に言う。
「先輩は甘すぎます」
ポツリと呟くような小さい声で言ったはずなのに、先輩は、その言葉をきっちりキャッチする。
「愛奈ちゃんは甘いの大好きなんでしょ?」
イタズラっぽく大好きな笑顔で言われると、もう何も言えず、私は精一杯の言葉を返した。
「はい、甘いお菓子も甘い先輩も大好きです」
私の言葉に、先輩の顔が少し赤くなる。
私はそれを見て嬉しくなった。
私も、ちょっとは先輩に甘い言葉、伝えられたのかな?
先輩に届いたかな?
私と先輩がこれからどう付き合っていくのか、まだ想像つかない。
篠原さんと中瀬さんっていう存在もあるし。
でも、私が先輩を好きな気持ちは誰にも負けない自信があるから。
どんな未来が待っていても、こうして繋いだ手を離したくない。
私は強くそう望んだんだ。
辺りはすでに夕暮れで、オレンジ色の空にピンク色の雲がかかっている。
先輩の手をギュッと握って先輩を見上げると、大好きな笑顔が降ってくる。
私は一緒にいられる幸せを噛み締めた。
そして私と先輩は、夕暮れの中、仲良く手を繋いでコンビニに入っていったんだ。
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ついに最終話です!ここまで読んでくださった方(いるかわかりませんが😂)ありがとうございました〜🎶
また他の小説など過去他サイトでアップしていた分があるので、アップしていきたいと思います〜😌✨✨