スイーツ女子と甘い先輩3
「大進展だね!」
教室に戻って由香に先輩とのやりとりを報告すると、凄く喜んでくれた。
「うん、由香に言われて行ってよかった。しかもまた会えるし!幸せ~」
私が嬉しくて机に肘をついてにやにやしていると、由香は
「もうのろけ?」
とからかってくる。
「そういうわけじゃないけどね」
と言いながらも笑顔が止まらない私。
「そりゃ嬉しいか~。次の約束出来たのが良かったね。このまま仲良くなって、先輩にも意識させられればこっちのものだよ!」
意気込む由香に、私はさっき感じた気がかりを思い出す。
「でも先輩、もてそうなんだ。優しいし、褒めてくれるし、私、少し話しただけでもっと好きになっちゃったもん」
「あ~、もてるよ、昨日言ったでしょ?」
由香は厳しい事を言い出す。
「私も、何人か高城先輩のこと好きな人知ってるし。でも、愛奈も先輩が好きなんでしょ?それなら、他の人なんて気にしないで、愛奈らしさを先輩にぶつけて、愛奈の良さ、知ってもらおうよ」
由香の言葉は、私の心に響いてきた。
先輩がかっこよくて優しくて、私は自分に自信が持てなくなってしまったけど、本当に大事なのは、私らしさを大切にして先輩にぶつかってみることなんだよね。
何もせずに不安がったり諦めてしまったらそこで終わってしまうもの。
「ありがとう、由香。私、精一杯やってみる」
私の言葉に由香は嬉しそうに頷いた。
「やっぱりね。愛奈はやるときはやってくれると思ってた」
そう言ってくれる由香に、私は感激して、由香の両手を握ってぶんぶんを揺らした。
「ありがとう~」
「もう、愛奈ってば大げさだなあ」
呆れたように言う由香だけど、私は本当に感謝していた。
そして決意も新たに、放課後、次の日に先輩に渡すお菓子を買いに行ったんだ。
次の日、私は気になっていたお菓子を手に、中庭に向かっていた。
昼休みの貴重な時間を無駄にしないようにお弁当を超スピードで食べる私に、由香には「そこまでする?」と言われちゃったけど、私には一分一秒が惜しい!
中庭に着くと、先輩が先にベンチに腰かけていた。
近づいていくと何かの本を読んでいるのが見えた。
気配に気づいたのか、先輩は顔をあげる。
それから私に軽く笑いかけた。
「市川さん、昨日言ってたお菓子、持ってきてくれたの?」
「あ、はいっ持ってきました!・・・先輩、本読んでたんですか?」
私は先輩の横に座りながら尋ねる。
仲良くなるきっかけにならないかな、と思いながら。
「そう、ちょっとサッカーの本をね」
「先輩、サッカー部なんですよね!サッカーの研究してるんですか~努力家なんですね」
私が思わずテンションを上げて言うと、高城先輩は、
「ありがとう、僕がサッカー部だって知ってたんだね」
と少し驚いたような調子で言った。
「それは・・・先輩、有名ですもん」
私は伺うように先輩を見た。
クラスも違う後輩が部活知ってたら気持ち悪いかな?と気がかりに思う。
「どういう風に有名なんだろう」
先輩はあごに手を当てて不思議そうに言った。
「いい意味ですよ、もちろん!」
私は慌ててフォローする。
「先輩カッコいいから目立つんですよ」
私が手を合わせてそういうと、先輩は静かな口調で言った。
「ありがとう。目立つのは、いいことばかりじゃないけどね」
少し声のトーンを落として言ったので、私は気になって声をかける。
「先輩?」
すると、はっとしたような顔をして、先輩は笑顔になった。
・・・なんだろう、今の。気になるな。
「市川さんは部活入ってるの?」
聞きたくても、何となく聞ける雰囲気じゃなくなってしまった。
「はい、私美術部なんです」
素直に質問に答える。
「そっか、絵、上手なんだね」
「上手ではないんですけど・・・描くのは好きですよ」
「市川さんの描く絵、今度見せてね」
先輩は、私の顔を覗き込むと優しくそう言った。
「えっその、先輩に見せられるような絵じゃ・・・」
ドギマギして私がそう答えると、
「そうなの?市川さんが描いた絵ならどんな絵でも構わないよ」
と、先輩がひどく照れる言葉を言う。
私がかあっと顔を赤らめると、先輩はそれを見て、
「またやっちゃったかな?ごめんね」
と反省したように気遣うような表情で私を見る。
先輩に気遣われるの、ちょっとだけ嬉しかったりする。
「いえ、そんな、あ、お菓子、分けましょう、これ美味しそうだったんですよ。今イチオシです!」
でもそのまま気遣わせたくなかったので、私は慌てて話題を変えた。
「そうだったね、持ってきてくれたんだったね。ありがとう」
先輩の言葉ににっこり笑いかけて、私はお菓子を一袋渡した。
「どうぞ、お口に合うといいんですけど」
「市川さんって、どんなお菓子が好き?」
お菓子を受け取りながら先輩が聞いてくる。
「そうですね、チョコとか、クッキーとかグミとかアメとか・・・お菓子全般ですね!」
言いながら、どれだけお菓子好きなんだと我ながら呆れてしまう。
「そっか、お菓子、ホントに好きなんだ。今度新発売見かけたら買ってこようかな」
先輩の言葉が思いがけず目が丸くなる。
凄く嬉しかった。
これって、また会いに来てもいいってことなのかな?
「あの、先輩」
私は勇気を出して話しかけてみる。
「ん?何?」
先輩の柔らかい声にドキドキする。
「明日もまた来ていいですか?先輩とこうしてお菓子のこと話してると楽しくて・・・」
そう言うと急に恥ずかしくなって来た。
私が意味もなくお菓子のパッケージをいじっていると、先輩が言った。
「うん、いいよ。僕も市川さんと話すの楽しいし。いつでも来てよ」
先輩の言葉に、私は思わずお菓子を握りつぶしそうになった。
いつでも来ていいって言ってくれた。
もっと沢山話したら先輩は友達って思ってくれるかな?
それから、もう少し特別な感情を抱いてくれるかな?
淡い期待を抱く。
それから、高城先輩の競争率を思い出して少し落ち込んだ。
でも、私と話して楽しいって言ってくれたことは間違いないんだから。
「ありがとうございますっ。じゃあ明日もお菓子持って来ますね!」
私がベンチを立ち上がってお礼を言うと、
「お礼はいらないよ。楽しいって言ったよね?また明日」
と高城先輩は手を振ってくれた。
私も、嬉しくて大きく手を振る。
でも張り切って手を振りながら後退していったので、石につまずいて派手に転んでしまった。
ドシン
尻もちをつく。
何やってるんだろう。舞い上がりすぎちゃってる。
「怪我してない?市川さん」
先輩が慌てた顔をして、やってきてくれる。
「あ、は、はい」
先輩にどんな顔を見せていいか分からなくなってしまう。
「す、すみません・・・ドジで」
「いいと思うけど。かわい・・・いや、怪我なくて良かったよ」
先輩今可愛いって言おうとしなかった?
私が照れちゃうから飲み込んでくれたのかな?
照れちゃうけど、本当は言ってほしいんだけどな。
もちろん、それを先輩に言う勇気は私にはない。
「手、貸して」
先輩が手を伸ばしてくれた。
「・・・はい」
私はドキドキしながら手を重ねる。
「よっ」
と掛け声と共に、先輩は易々と私を引き上げた。
先輩の手が暖かい。
そのまま握っていたいくらい、優しいぬくもりだった。
「私、いつも先輩に助けてもらってますね」
手を握ったまま離すタイミングを掴めずに照れながら言うと、先輩は、
「そうだね、これじゃあ市川さんから目を離せないな」
と言う。
「え?!」
いや、違う意味だとは充分分かっていても、私は先輩の言葉にときめいていた。
私の驚いた顔に、先輩は、すぐににっこりして、手を離した。
「冗談だよ、何度でもちゃんと助けるから市川さんは気にしないでいいよ」
そんなセリフを平然と言う先輩に、私は少し頭がくらくらした。
だって私、一介の後輩だよ?
そんなこと言われたら勘違いしちゃうよ。
先輩のこと好きになる女子が多いの、良く分かる。
でも、内心は、先輩の心には誰がいるのか、私には分からない。