『98年世代の名馬たち』を自分が編むとしたら
『愛駿通信 スペシャルウィークと98年世代の名馬たち』(以下『スペと98』)を読みました。
タイトル通りスペシャルウィークおよび同世代の名馬を扱った本で、特にスペシャルウィークについては、全レース解説、関係者インタビューなど、相当充実しています。
同出版社が以前に発売した『優駿図鑑』は、「ウマ娘」に登場するモデル馬しか扱わず(しかし網羅はしておらず)、取り上げる馬を「ウマ娘」のみとしたために生じてしまった不自然な関係図、数十か所の誤植や事実確認のミス、馬や関係者を貶す内容を含む主観的な記述が多数あり、ネット上には否定的なレビュー・コメントがあふれかえりました。
私は『優駿図鑑』を購入して読みましたが、上述の理由により人におすすめしづらい本でした。
『優駿図鑑』の反省をいかしたのか『スペと98』は誤植が減り(誤植自体はあります)、ウマ娘に登場していない競走馬も紹介するなど、スペシャルウィークや同世代の競走馬に興味がある方にはおすすめできる本だと思います。
『優駿図鑑』より値段も安いです。
『スペと98』の内容(目次)
『スペと98』は以下のような内容となっています。
・スペシャルウィーク年表
・スペシャルウィークPHOTOアルバム
・スペシャルウィークレースヒストリー
・ライバル馬たち…セイウンスカイ、グラスワンダー、エルコンドルパサー、キングヘイロー
・生産牧場インタビュー
・武豊/スペシャルウィーク解説記事
・スペシャルウィーク血統解説
・さとう珠緒(スペシャルウィークファン)インタビュー
・98年世代の名馬たち…ファレノプシス、エアジハード、アグネスワールド、アメリカンボス、ボールドエンペラー、ブラックホーク、ステイゴールド、メジロブライト、メイセイオペラ
・妄想対決レース ドリームカップ2022
目次にあるスペシャルウィークという文字の多さを見てもわかる通り、スペシャルウィークに偏重した充実の内容になっています。
「98年世代の名馬たち」と銘打ったコーナーで、近しい別世代の名馬を紹介していたり、本書発売後にウマ娘に登場した98年世代のツルマルツヨシは取り上げていなかったり、「私が編むならこうしていたな」「こんな記事もほしかったな」と思う部分もありました。
そういった内容を以下に記していきます。
1.98年世代の短距離/マイル戦線
『スペと98』のタイトル通りといえばそれまでですが、スペシャルウィークが出走していないレースの紹介は『スペと98』にあまりありません。
スペシャルウィークとは関わりの薄かった短距離/マイル戦線についても、レース解説と出走した98年世代の名馬たちを紹介する記事がほしかったですね。「98年世代の名馬たち」という書名なので。
特にマイネルラヴは『スペと98』で取り上げてほしかった。
日本競馬史上でも例が少ない「クラシック世代でスプリンターズステークスを勝った」うちの1頭。
2022年にも現役馬の血統表で存在感を示すグラスワンダー、キングヘイローに加え、『スペと98』でも記載のあるエアジハード、アグネスワールド、さらにはマイネルラヴといった98世代が、97世代のタイキシャトル、シーキングザパール、ブラックホークなどといった猛者と、マイル/短距離戦線でどういったレースを繰り広げていたかは、『スペと98』という書名で本書を購入した方にとって興味のある内容かと思います。
2.98年世代の牝馬たち
『スペと98』における牝馬の紹介はファレノプシスだけです。
2022年時点での現役馬ディープボンド、アカイイトなどの父にあたるダービー馬キズナ。
そのキズナの姉がファレノプシス。桜花賞・秋華賞を制した牝馬三冠の二冠馬です。
競争成績で振り返るなら98世代でインパクトのある戦績の牝馬は少なく、ファレノプシスしか紹介がないのは致し方ないのかもしれません。
でも例えばオークス馬エリモエクセル
馬名以上にドラマに満ちた生涯を送ったエガオヲミセテ(弟にオレハマッテルゼ)
エアシャカールの姉で桜花賞3着、オークス2着、秋華賞3着というクラシック善戦馬エアデジャヴーなどを紹介する牝馬特集ページがあってもよかった。
3.98年世代のダート馬たち
『スペと98』はダート戦線の記載がほぼありませんでした。
何故か97世代メイセイオペラの記事はありました。
日本競馬史上唯一の「地方所属の中央G1馬」メイセイオペラが名馬なのは全く否定しません。
ただ『スペシャルウィークと98年世代の名馬たち』という書名で、ダート馬が97世代メイセイオペラのみ登場しているのは違和感がありました。
だったら98世代ダート馬紹介ページもあってよかったのでは。
紹介がほしかった筆頭はウイングアロー。
98年世代のJRA獲得賞金額はスペシャルウィークがダントツ1位ですが、2位はフェブラリーステークスやジャパンカップダート(現チャンピオンズカップ)に勝ったダート馬ウイングアローです。
ちなみに3位グラスワンダー、4位セイウンスカイ、6位キングヘイローは芝をメインにしていましたが、世代5位マキバスナイパー、7位インテリパワーはダート馬です。
98年世代はダート戦線も層が厚い。
ほかにも98年世代では、テイエムオペラオーと同じ父オペラハウスで芝から転向したニホンピロジュピタや、スマートファルコンの兄ワールドクリークなども地方ダートG1を勝っています
4.98年世代の競走馬たち(増補)
『スペと98』ではG1未勝利の「98年世代の名馬」として、ボールドエンペラー、アメリカンボスが登場しています。
このコーナーはもっと多くの98世代競走馬の紹介があると良かった。
筆頭はウマ娘に登場するツルマルツヨシです。
ほかに挙げるなら…
ビワハヤヒデ、ナリタブライアンの弟で重賞勝利もあるビワタケヒデ。
故障による早期引退が残念でした。
皐月賞4着、ダービー9着、菊花賞3着とクラシック戦線で存在感を示したエモシオンは、古馬になってマチカネフクキタルに勝ち京都記念を制すなどしています。
競走馬ゲームの話ですが『ウイニングポスト9 2021』以降で「1998年スタート」にすると初期馬候補にエモシオンがいます。ほかの候補はキングヘイロー、ボールドエンペラー、エガオヲミセテなど。
青葉賞2着、ダービー6着、菊花賞4着と、エモシオンと同じくクラシック戦線で一定の存在感があったメジロランバートは、重賞勝利こそありませんが、98世代で最も活躍したメジロ冠名馬と言えそうです。父メジロライアン、母父ミスターシービー。
カネトシガバナー(98世代獲得賞金額15位)はクラシックの秋に神戸新聞杯を制して夏の上がり馬として菊花賞に挑んだのち(8着)、キャリア後期は障害に転向して重賞勝利をあげました。
同じく夏の上がり馬レオリュウホウは、セントライト記念を制して菊花賞に挑み(9着)、ゆくゆくは日経賞でステイゴールド、グラスワンダー、メイショウドトウをおさえて勝っています。
堅実な走りで重賞戦線に挑み続け、名馬たちと競い続けながら60戦も出走し98世代獲得賞金額9位に到達したスエヒロコマンダーは「無事之名馬」という言葉が似合います。
ほかにも、香港で年度代表馬になった後に日本に遠征し、安田記念に勝ったフェアリーキングプローンも98世代。
海外馬の紹介までするとなると風呂敷を広げすぎでしょうか。いやまあ日本のG1勝っているんだから紹介してもよさそう。
さらにおまけとして「98年世代のJRA賞金獲得ランキング」、「98年世代の重賞勝利一覧」などの表があってもよかったですね。
5.98年世代と競った97年世代の競走馬たち
『スペと98』ではステイゴールド、メジロブライト、ブラックホーク、メイセイオペラと97世代の名馬が取り上げられています。
いっそのこと「98年世代と競った97年世代の競走馬たち」と銘打ち、もっと多く紹介してもよかったと思います。
メジロドーベル、マチカネフクキタル、サイレンススズカ、タイキシャトル、シーキングザパールなどは98年世代と対戦経験があります。
6.98年世代と競った99年世代の競走馬たち
上の世代との対決を紹介するなら下の世代も、という感じで99年世代のコーナーも入れたくなります。
98年世代との対戦経験で選抜すると、取り上げやすいのはテイエムオペラオー、ナリタトップロードに加え、サイレンススズカの弟ラスカルスズカでしょうか。
あとはジャパンカップで来日した凱旋門賞馬モンジュー(仏)も99年世代ですね。
最後に
歴史解説本は読者から「あれがない」という声が頻出します。
そういう声に対しては「自分で書けば」というカウンターがあるので、少し具体的に「何があると良かったと自分が思うか」を文字化しました。
この記事の内容も『スペと98』企画段階では掲載候補だったかもしれません。
あくまで「自分が『98年世代の名馬たち』を編むなら」という視点で記載しました。
『スペと98』がある程度成功したのか、シリーズ化して『キタサンブラック・サトノダイヤモンドと2012/2013年組』という本も出ていますので、『スペと98』が良かった方にはこちらもおすすめできるかもしれません。
競馬関連本は定期的に読んでいるので、また感想等記したいと思います。
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