益村のエッセイ マスッセイ#1「僕が外国人の方に胸ぐらを掴まれた回」
Don't think! Feel.(考えるな、感じろ。)
ブルース・リーの台詞である。皆さんはこの台詞が日常生活に登場した事はあるだろうか?
NSC在学中、日雇いバイトで日銭を稼いでた僕は、スーパーやドラッグストアの棚卸しの夜勤バイトをしていた時期があった。店が閉まる夜21時ごろに店に入って、夜通しひたすらに商品を数えるという業務内容である。力仕事でもないし、向いてる人には向いてる単純作業オブ単純作業だ。
その日も僕は指定された店に向かうべく、最寄り駅に到着した。
今思うと上福岡駅というこの駅名もムカついてくる。
駅前の大きめのスーパーが今夜の仕事場だが、その日は集合時間より少し早く来てしまった。夜の全く知らない町。そのスーパーは小規模田舎ショッピングモールみたいなものに隣接されていて、その日中は人通りが多いであろうショッピングモールのメインストリート。おしゃれな植え込み、おしゃれなベンチ。とりあえず僕はそのベンチに座って、待つことにした。
座ろうとしたその瞬間、正確には「彼」の領域に突入した瞬間、眼球の外側に妙な覇気を感じた事を覚えている。
その覇気の方向に目をやると、僕が座っている向こう側の壁にもたれながら黒人がイヤホンを装着し熱唱していた。
夜の駅前には似つかわしくない圧倒的レゲエである。
どうやら電話の相手と通話しつつ、歌っている。
あろうことにか、少しだけ目が合ってしまった。
なんとなく気まずいが、交わる事はないだろう。そう思っていた。
今どき、「何見てんだテメェ」的なイベントは滅多に存在しない事を知っているからだ。
意外にも、その類のカツアゲには遭遇したことがない。
少しして、僕はトイレに行った。
トイレを済まして、元いた場所に戻る。
相変わらず黒人が歌っている。バイトまであと15分くらいか。そんな感じでスマホを眺めていた。
何気なく顔を上げると、その黒人が目の前に立っていた。
「ナニ ミテンノ?オマエ」
と言っていた。
「オマエ、オレガ ガイジン ダカラ ココニ スワッテンダロ?」
と言っていた。
「オカシイダロ ココニ スワッテンノ」
と座ってる僕からしたら3メートルくらいに感じる黒人が「マジ」の顔となっていた。
勿論、外国人だから奇異な目で見たとかではない。正直、今どき外国人なんて珍しくもなんともない。何が起きてるか分からないが、僕が差別的な意識を持っていると感じているようだった。一回いなくなったのに、もっかいここに戻ってきた事が気に食わなかったらしい。
ちなみに普通に胸ぐらを掴まれており、顔を近づけて何かを言っているが、正直あまり覚えていない。
この黒人の右フックが決まろうものなら、完全に僕の体が爆発して死ぬので、脳内が走馬灯を再生していたためである。
いや、いかん!生きねばならない!!と走馬灯を振り切り、抗う!
「違います違います」
「ファッッッ●ク!!!」
…基本的にお話にならなかった。
本場のフ●ックは迫力が違うなあとか思いながら、必死の弁明をするメガネの男。
「いやあの僕はこれからこの隣のスーパーで夜勤のアルバイトがあるのでここに座ってただけなんですよ!?!?!」
ただただ事実が口から飛び出た。
その通りでしかない。
それに対して
「ニホンジン ハ カンガエスギルッッッ!!!」
急に日本国を背負わされながら、ガチギレは続くが僕にこれ以上言っても無駄という事を察したのか、
ひとつだけ捨て台詞を吐いて、去っていった。
「カンガエルナ カンジロ!!」
え!?
なんか聞いたことある!!
最後の何!?
走ってすぐにその場から離れる僕の脳内では、ぼんやりとブルース・リーが現れ、ヌンチャクを振り回し始めた。
胸ぐらを掴まれカンフーの極意を学んだあと、スーパーの冷凍庫でひたすらアイスを数えた。冷凍庫を内側から開ける方法に手間取り、軽く凍えかけたがそんなことはこれに比べれば大したことはなかった。
胸ぐら掴まれ童貞を、カンフーの伝導者に捧げた、そんな話です。
ありがとうございました。
生きてることに感謝。
ーーーーーーfin~ーーーーーーー
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